- 奨学金は学生本人の借金である
- 奨学金を返済できないとブラックリストに登録されて財産を差し押さえられることがある
- 奨学金を返済できないときには毎月の返済額を減らしてもらうなどの救済制度がある
- 返済できない奨学金も債務整理で解決できる
- 本人が債務整理で解決できても保証人が支払い請求を受けることに注意が必要
大学や専門学校などへ進学するために、奨学金を利用した方は多いことでしょう。
奨学金制度は一般的なローンや借金などよりも有利な条件で学費等を借りることができる制度です。経済的に余裕のない家庭のお子さまも希望する大学等へ進学することが可能となる、貴重な制度といえます。
しかし、借りた奨学金は返済しなければなりません。そして近時、奨学金を返済できなるなく人が増えていることがニュース等でも報道されています。
奨学金も借金の一種なので、返済できなくなると、最終的には一般的な借金を返済できない場合と同じ状況に陥ってしまいます。
この記事では、以下2点についてわかりやすく解説します。
- 奨学金を返済できないとどうなるのか
- 奨学金を返済できないときの解決方法
奨学金の返済ができなくなった方や、返済が厳しくなってきた方は、ぜひ参考になさってください。
そもそも奨学金とは?
奨学金とは、進学を希望するものの、経済的に余裕のない学生が借りることのできるお金のことです。
この奨学金を貸してくれる機関には、以下のようなところがあります。
- 日本学生支援機構(JASSO)
- 各自治体
- 大学の一部
- さまざまな民間企業が設立した財団法人
この記事では、最も知名度が高くて利用者が多い「日本学生支援機構(JASSO)」から奨学金を借りた場合を想定してご説明していきます。
ただし、その他の機関から奨学金を借りた場合でも、返済できないときに起こることや、返済できない場合の解決方法は基本的に同じです。
そのため、奨学金を借りているすべての方に参考にしていただけると思います。
貸与型奨学金は借金と同じ
現在、日本学生支援機構の奨学金には次の3つの種類があります。
- 貸与型奨学金(第一種奨学金)
- 貸与型奨学金(第二種奨学金)
- 給付型奨学金
貸与型奨学金は、借りたお金を卒業後に返済する約束のもとに借りる奨学金です。利息がかかるかどうかによって2種類に分けられています。
第一種奨学金は利息が不要ですが、第二種奨学金には利息がかかります。
ただし、第一種奨学金を利用するには、世帯の収入や本人の進学前の学業成績などについて厳しい条件があり、競争率が高いのが実情です。
そのため、多くの方は第二種奨学金を利用しているのが実情です。
以上2つの貸与型奨学金は、利息の要否に違いがあるにせよ返済が必要なので、法的性質は貸金業者などからの借金と全く同じです。
そのため、返済できない場合には後ほどご説明するリスクを負うことになります。
給付型奨学金は返済が不要ですが、世帯の収入基準は第一種奨学金よりもさらに厳しく、本人の学習意欲なども厳しく審査されるため、実際に利用できるのは限られた人になります。
機関保証か人的保証かを選ぶ
貸与型奨学金を借りるには、将来に万が一返済できなくなったときのために保証を付けることが条件とされています。
保証には機関保証と人的保証の2種類があり、どちらかを選ぶ必要があります。この2つの保証制度の違いを次の表にまとめました。
機関保証 | 人的保証 | |
---|---|---|
保証人 | 保証機関 | 連帯保証人と保証人の2名 |
保証料 | 必要 | 不要 |
返済できない時 | 保証機関が代わりに支払う | 連帯保証人と保証人に請求される |
その後の支払い義務 | 保証機関から本人へ一括請求される | 連帯保証人と保証人が支払う |
連帯保証人には原則として父または母を立てることが必要で、保証人には父母以外の4親等内の親族を立てることとされています。
これらの人的保証を立てたくない場合や、依頼できる親族がいない場合には機関保証を選ぶことになります。
機関保証を選ぶと身内の方に迷惑をかける心配がないというメリットがありますが、保証料がかかるというデメリットもあります。
保証料は第一種奨学金と第二種奨学金で異なり、貸与額や貸与期間によっても異なってきます。それぞれ、保証料の月額は以下のとおりです。
第一種奨学金:500円~2,820円
第二種奨学金:386円~8,344円
保証料は毎月支給される奨学金から天引きされるため、機関保証を選ぶと在学中に使えるお金が少なくなってしまいます。
そのため、安易に機関保証を選ぶのではなく、メリットとデメリットをよく考えた上で、親や親族とも相談して決めることをおすすめします。
卒業の約半年後から返済スタート
奨学金の返済が始まるのは卒業後すぐではなく、貸与期間が終了した翌月より7ヶ月目からです。
例えば、貸与期間が大学を卒業する年の3月までだとすれば、その年の10月から返済スタートとなります。
奨学金を返済できないときに起こること
奨学金を返済できない場合には、貸金業者などからの借金を返済できなかった場合と全く同じように、以下のことが起こります。
延滞金がかかる
奨学金の返済がスタートした後に延滞すると、延滞金がかかります。1日でも返済が遅れると所定の年率と遅れた日数に応じた延滞金が発生します。
延滞金の年率は、第一種奨学金か第二種奨学金かによって異なり、それぞれ借りた時期によっても異なりますが、1.5%~10%です。
発生した延滞金の分だけ返済額が増えて、余計に返済が厳しくなってしまいます。
返済の督促を受ける
返済期日が来ても支払わないと、日本学生支援機構から委託を受けた債権回収会社から返済の督促を受けることになります。
まずはハガキで督促状が送られてきます。督促状が届いても返済しなければ、繰り返し督促状が送られてくる上に、電話で催促されることもあります。
催促を無視していると、本人の自宅だけではなく職場や、連帯保証人・保証人のところにも電話や訪問による催促が行われる場合もあります。
そのため、催促を無視してはいけません。誠意をもって事情を話せば、後ほどご説明する救済制度を案内してもらえることもあります。
催促を無視しても何も解決しませんし、延滞金が増え続けることで解決が難しくなることを覚えておきましょう。
ブラックリストに登録される
奨学金の延滞を一定期間続けると、ブラックリストに登録されてしまいます。
ブラックリストとは、借金などの債務を約束どおりに返済しなかったことが事故情報として、個人信用情報機関に登録された状態のことをいいます。
いったんブラックリストに登録されると、その後の最低5年間は借り入れやクレジットカードの利用ができなくなります。
自動車ローンや住宅ローンも組めなくなるので、人によっては大きなデメリットとなるでしょう。
いつブラックリストに登録されるのかというと、金融機関の実務では以下のとおりとされています。
- 同じ引き落としを3ヶ月以上、または61日以上延滞したとき
- 1か月半以上の遅延が複数回あったとき
少しわかりにくいですが、例えば、1月分の返済が3月の返済期日を過ぎても返済できなければ、ブラックリストに登録されることになります。
保証が実行される
本人が奨学金を返済しない場合は、人的保証の場合には連帯保証人と保証人が支払い請求を受けます。
連帯保証人と保証人の違いについては、次の表をご参照ください。
連帯保証人 | 保証人 | |
---|---|---|
分別の利益 | なし | あり |
請求を拒めるか | いつ請求されても拒めない | 本人と連帯保証人へ先に請求するよう主張し支払いを拒否できる |
支払い義務の範囲 | 残債務の全額 | 自己負担分のみ |
分別の利益とは、保証人が複数いる場合に、支払い義務が自己負担分のみに限定されるという利益のことです。
奨学金の人的保証の場合は連帯保証人と保証人の2名がいるので、保証人の支払い義務は残債務の2分の1のみとなります。
また、保証人は請求を受けた際に、「本人と連帯保証人へ先に請求してください」と主張して、いったん支払いを拒むことも可能です。
これに対して、連帯保証人に分別の利益がなく、本人と同一の支払い義務を負います。
機関保証の場合は、保証機関が本人に代わって日本学生支援機構へ残債務を返済します。このように、保証機関が代わりに支払うことを代位弁済といいます。
代位弁済をした保証機関は、弁済した金額を本人へ支払い請求できる「求償権」を取得します。この求償権に基づいて、保証機関は代位弁済した金額の支払いを請求します。
このときは、原則として一括払いで請求されます。支払えない場合は、代位弁済が行われた日から年率10%の遅延損害金が加算されるため、ますます返済額が増えてしまいます。
裁判を起こされる
連帯保証人と保証人も支払えない場合や、保証機関から一括請求を受けた本人が支払いに応じない場合は、裁判を起こされます。
誰が誰に対して裁判を起こすのかについては、次の表をご参照ください。
機関保証の場合 | 人的保証の場合 | |
---|---|---|
原告(訴える人) | 保証機関 | 債権回収会社 |
被告(訴えられる人) | 利用者本人 | 本人・連帯保証人・保証人の連名 |
起こされる裁判の種類には、次の2つがあります。
- 支払督促
- 民事訴訟
支払督促が裁判所から届いた場合は、受け取ってから2週間以内に異議申し立てをしないと、そのまま債務が確定してしまいます。
債務が確定すると、すぐに財産の差押えを受けるおそれがあるので、必ず期限内に異議申し立てをするようにしましょう。
異議申し立てをすると、民事訴訟の手続に移行します。
民事訴訟では話し合いによる和解が可能なので、分割払いなら支払えるという場合は和解の成立を目指しましょう。
和解が成立しない場合は、判決が言い渡されます。
財産の差押えを受ける
支払督促や判決が確定し、それでも支払わないと強制執行が行われ、財産の差押えを受けます。
裁判で和解が成立した場合でも、その後に支払わなければ差押えが行われます。
差し押さえられる財産は、主に以下のようなものです。
- 給料
- 預金口座
- 不動産
給料については、毎月の給料から最大4分の1の金額が差し引かれます。
まずは給料や預金口座が差し押さえられますが、それでも債権の回収がなかなか進まない場合は、不動産が差押えられることもあります。
利用者本人の財産だけでなく、連帯保証人と保証人の財産も差押えの対象となります。
奨学金を返済できないときの救済制度
日本学生支援機構では、奨学金の返済が厳しい方のために救済制度を用意しています。
もし返済ができなくなったり、厳しくなったら放置せず、早めに日本学生支援機構に相談して救済制度を利用すべきです。
救済制度には、以下の3種類があります。
減額返還制度
一つ目は、毎月の返済額を一定期間、減額してもらえる「減額返還制度」です。概要は次の表をご覧ください。
質問 | 減額返還制度の概要 |
---|---|
減額される割合 | 当初約束した月額の2分の1または3分の1に減額 |
減額される期間 | 最長15年 |
利用条件 | 災害や傷病、その他の経済的理由により返済が困難であること |
注意事項 | 既に延滞している場合は利用不可(延滞の解消が必要) |
減額される割合は、所得などの条件に応じて決められます。
願い出をする際に、返済が困難となっている事情や今後の返済の見通しを詳細に記載した書面と、所得証明書などの証明書類を添付して提出します。
1回の願い出で減額される期間は1年間です。継続申請によって最大15年間まで減額してもらうことが可能になります。
その分返済期間が延長されますが、延滞金はかかりません。ただし、減額が認められた後の返済金を延滞すると、当初約束した返済額と返済期日に基づいて延滞金が加算されます。
総返済額が減額されることはありませんが、一時的に収入が減った場合や、今後の増収が見込まれる場合にはこの制度を利用するとよいでしょう。
返還期限猶予制度
二つ目は、一定の期間、返済を待ってもらえる「返還期限猶予制度」です。制度の概要は次の表をご覧ください。
質問 | 減額返還制度の概要 |
---|---|
猶予される期間 | 原則として最長10年 |
利用条件 | 災害や傷病、その他の経済的困難、失業などにより返済が困難であること |
注意事項 | 延滞中でも利用可能 |
この制度を申請する際にも返済が困難である事情を証明する書類を提出することが必要です。
猶予期間中は利息も延滞金も付きませんが、総返済額は変わりません。
減額返還制度を利用中でも、条件を満たせば返還期限猶予に変更することができます。そのため、返済が難しい場合やできるだけ早めに日本学生支援機構に相談することが大切です。
返還免除
三つ目は、奨学金の返済そのものを免除してもらえる「返還免除制度」です。
免除してもらえる条件は、利用者本人が以下のいずれかの事情に該当することによって返済ができなくなった場合です。
- 死亡
- 精神障害をお持ちの場合
- 身体障害
そのため、利用できる方は限られますが、もし該当する場合は申請しましょう。
どうしても奨学金を返済できない場合は債務整理を
以上の救済制度の利用条件に該当しない場合や、利用してもなお返済が難しい場合は、一般的な借金を返済できない場合と同じように債務整理をすることで解決できます。
債務整理をするとブラックリストに登録されてしまうというデメリットもありますが、既にブラックリストに登録されている場合は気にならないでしょう。
奨学金を返済できないときに有効な債務整理方法には、以下の種類があります。
任意整理
任意整理とは、裁判所を介することなく借入先の業者と直接話し合うことによって、返済額や返済方法を変更する債務整理方法です。
ただ、奨学金については、先ほどご紹介した救済制度の利用条件を満たさない限り、基本的に返済額や返済方法の変更に応じてもらうことは難しくなっています。
それでも、奨学金以外にも借金があって、それらの借金の返済月額を減らせば奨学金の返済が可能になるという場合には任意整理が有効です。
個人再生
個人再生とは、裁判所に申し立てることによって借金総額を原則5分の1、最大で10分の1にまで減額し、3年間~5年間で分割返済していく手続きです。ただし、最低弁済額は100万円とされています。
裁判所の認可によって強制的に減額されるので、奨学金の返済額も原則5分の1に減額されます。
個人再生には自己破産とは異なり、財産を手放す必要がないというメリットがあります。住宅ローン特則を利用すれば、マイホームを手放さずに他の借金を大幅に減額することも可能です。
ただし、減額後の借金を返済していかなければならないので、ある程度の収入を継続して得られる見込みのあることが個人再生の利用条件です。
自己破産
自己破産とは、裁判所に申し立てることによって借金の全額を免除してもらうことが可能な手続きです。
奨学金も免責の対象となるので、免責が許可されれば奨学金の返済義務も免除されます。
ただし、その引き換えに財産を処分しなければならないというデメリットがあります。自己破産をすると、マイホームなどの高価な資産を残すことはできません。
とはいえ、生活に必要な財産など一定の資産は手元に残すことができるので、自己破産後も生活に困ることはありません。
保証人が支払い請求を受けたときの対処法
ここまでご説明してきたように、奨学金の返済ができない場合でも、日本学生支援機構の救済制度または債務整理を利用することで、必ず解決することができます。
ただし、債務整理をした場合は、連帯保証人と保証人が奨学金の支払い請求を受けてしまうことに注意が必要です。
連帯保証人と保証人が支払い請求を受けたときには、以下のような対処法が考えられます。
- 連帯保証人と保証人も債務整理をする
- 本人も債務整理をした後、連帯保証人と保証人の支払いに協力する
なお、本人が任意整理を選択する場合、奨学金を手続きから除外すれば連帯保証人と保証人が支払い請求を受けることはありません。
この形をとった上で、奨学金の返済が厳しい場合は連帯保証人と保証人にも返済に協力してもらうという解決方法も考えられます。
いずれにしても、債務整理をすると連帯保証人と保証人にも影響が及びます。そのため、債務整理をする前に事情を話して、協力をお願いすることが大切です。
まとめ
奨学金の返済ができない場合、最もやってはならないことは放置することです。
放置すれば延滞金が加算される上に、場合によっては連帯保証人と保証人が支払い請求を受けるため、解決が難しくなってしまいます。
そのため、できる限り早期に日本学生支援機構の救済制度または債務整理を利用して解決を図ることが重要です。
どうすればいいのかわからないときや不安な場合は、弁護士や司法書士といった専門家に相談するのがおすすめです。あなたの状況に最適な解決方法に導いてもらえるはずです。