- 法人の借金も債務整理で解決できる
- 法人の債務整理には再建型と清算型の2種類がある
- 法人の代表者も債務整理が必要な場合がある
- 法人の借金問題は早めに専門家に相談することが大切
開業資金や運転資金のために融資を受けている会社は数多くあります。借りるときには順調に返済できると思っていても、経営状況は日々変化するため、返済が苦しくなってしまう法人も少なくありません。
そんなときは、法人も債務整理をすることで借金問題を解決できます。経営の再建を目指す場合だけでなく、会社をたたむときにも残った借金は債務整理で処理することが必要です。
この記事では、法人の債務整理の種類や、状況に応じた債務整理手続きの選び方などをわかりやすく解説していきます。
法人の借金も債務整理で解決できる
債務整理というと個人が抱えた借金を減額したり、免除を受ける手続きだというイメージが強いかもしれません。しかし、法人名義の借金についても、個人の債務整理と同じように減免を受けることが可能な手続きがあります。
ただ、個人の債務整理と法人の債務整理では言葉の使い方が異なる部分もありますし、同じ名称の手続きであっても具体的な流れは異なります。
法人の債務整理と倒産の違い
法人経営の再建を目指す人は、「債務整理で借金を軽減することで、倒産だけは回避したい」とお考えのことでしょう。たしかに「倒産」というと、一般的には会社をたたむことを意味することが多いと考えられます。
しかし、実務上は法人経営の再建を図るために借金を軽減する手続きも、会社をたたむために借金の免除を求める手続きも含めて「倒産」と呼びます。つまり、倒産とは法人が債務整理をすることを意味すると考えて差し支えありません。
言葉の問題に過ぎませんが、法人の債務整理を検討する際に「倒産」という言葉を聞いて精神的な衝撃を受けないよう、正しい意味を知っておきましょう。
法人の債務整理は大きく分けて2種類
法人の債務整理には、大きく分けると次の2種類の手続きがあります。
- 再建型の債務整理
- 清算型の債務整理
それぞれ、具体的にみていきましょう。
再建型の債務整理
再建型の債務整理とは、その名のとおり法人経営の再建を図るために借金を軽減する手続きのことです。具体的には、次の3つの方法があります。
- 私的整理
- 民事再生
- 会社更生
私的整理とは、個人の債務整理でいうと「任意整理」に当たるものです。「私的」と「任意」の言葉の違いに特別な意味はありませんが、法人の任意整理は従来から実務上「私的整理」と呼ばれてきたため、私的整理と呼ぶのが一般的です。
民事再生とは、個人の債務整理でいうと「個人再生」に当たるものです。民事再生も個人再生も民事再生法に則って行われる手続きです。通常の手続きが「民事再生」で、個人向けに特別に用意された簡易的な手続きが「個人再生」という関係にあります。
会社更生は、個人の債務整理にはない法人特有の手続きです。基本的には民事再生と同様の手続きですが、主に大規模な会社が再建を図るために利用されることが多くなっています。
清算型の債務整理
清算型の債務整理とは、法人をたたむ際に残った借金を清算する手続きのことです。具体的には、次の2つの方法があります。
- 破産
- 特別清算
破産は、個人の債務整理でいうと「自己破産」に該当します。個人の場合は債務者自身が申し立てるため「自己破産」と呼ばれます。
これに対して、法人の場合は債権者が申し立てるケースや、民事再生・会社更生の手続きから破産手続きに移行することも少なくないため、単に「破産」と呼ばれるのが一般的です。
特別清算は、個人の債務整理にはない法人特有の手続きです。破産ほど厳格な手続きではなく、残った借金についてある程度柔軟な処理が可能なので、親会社が子会社を清算するときなどに利用されることが多くなっています。
再建型の債務整理の種類と特徴
再建型の債務整理には3つの種類がありますが、それぞれに特徴が異なります。以下で、手続きごとに特徴を詳しく解説します。
私的整理
私的整理は、裁判所を介することなく、債権者と直接交渉して借金を一部カットしてもらったり、支払期限を延期してもらう方法です。
個人の任意整理では、各債権者と個別に交渉して返済条件を変更します。それに対して法人の私的整理では、債権者集会のようなものを開いて再建計画を提示し、参加した債権者全員の同意を得ることで借金を減額するのが一般的です。
私的整理の手続きには、以下のメリットがあります。
- 手続きの対象とする債権者を自由に選べる
- 費用がかからない
- 柔軟かつ迅速な手続きで再建が可能となる
- 「倒産」という社会的評価を回避することが可能
ただ、法人の借金問題は個人の場合よりも社会的な影響が大きいため、手続きの透明性や公平性を確保することが求められます。
そのため、近年では債権者と債務者が完全任意で交渉する「純粋私的整理」よりも、以下のようなルールや制度に則って規律正しい手続きが行われるケースが多くなっています。
- 私的整理に関するガイドライン
- 特定調停
- 事業再生ADR
- 中小企業再生支援協議会による私的整理
- 整理回収機構によるRCC企業再生スキーム
民事再生
民事再生は、裁判所への申し立てを行い、監督委員による指導監督のもとで再生計画案を作成・提出し、債権者の多数の同意が得られると債務が一部免除される手続きです。
民事再生法の規定に従って厳格な手続きを行う必要がありますが、会社更生法と比較すれば以下のメリットがあります。
- 株式会社だけでなく他の法人も利用できる
- 現経営陣が退任する必要がない
- 手続きにかかる費用の負担が軽い
- 比較的短期間で再建が可能
そのため、民事再生は中小企業など比較的規模が小さい法人が再建を図るために向いている手続きといえます。
会社更生
会社更生も裁判所に申し立てて行う手続きで、裁判所から選任された更生管財人の主導で更生計画案を作成・提出し、債権者等の利害関係者の多数の同意が得られると借金が減額されます。
会社更生を行えば、民事再生では得られない以下のメリットが得られます。
- 債権者の担保権の実行が制限される
- 会社の組織の抜本的な変更が可能となる
ただ、強力な効果が得られる反面で、以下のデメリットもあります。
- 利用できるのは株式会社のみ
- 経営陣は全員、退任しなければならない
- 株主はその地位を失ってしまう
- ほとんどのケースでリストラ解雇が必要となる
- 多額の手続き費用を要する
- 手続きには1~3年の期間がかかる
そのため、会社更生は大企業が会社を基礎から作り直して再建したい場合に向いている手続きといえます。
清算型の債務整理の種類と特徴
次に、清算型の2種類の債務整理手続きの特徴をご紹介します。
破産
法人の破産は、裁判所に申し立てを行い、破産管財人が会社の資産を売却するなどして換金した上で債権者に配当し、残った借金は裁判所の決定によって免除してもらう手続きです。破産手続きがすべて終了すると、その法人の法人格が消滅します。
次の特別清算と比べると、以下のデメリットがあります。
- 厳格な手続きが必要
- 比較的高額な費用がかかる
- 手続きに長期間を要することもある
一方で、株式会社に限らず、あらゆる法人が利用可能で、一定の条件を満たせば債権者の意向にかかわらず法人の借金が免除されるというメリットがあります。
そのため、株式会社以外の法人や、確実に借金を消滅させて会社を閉じたい場合には破産が向いているといえます。
特別清算
特別清算も裁判所に申し立てて行う手続きですが、会社が選んだ清算人が裁判所の監督のもとで手続きを進めていきます。
会社の資産を売却するなどして換金した上で、残った借金のうちいくらを返済するかについて債権者ごとに個別に和解するか、債権者集会における多数決で協定を結びます。
和解や協定の内容どおりに借金を支払い終えると、会社は消滅します。
特別清算を利用できるのは株式会社のみですが、破産と異なり、以下のメリットがあります。
- 簡易的で柔軟な手続きで借金を整理できる
- 手続きにさほどの時間がかからない
- 費用がほとんどかからない
実際には、特別清算は会社をたたむためというよりも、大企業が子会社をたたんで再建や経営の合理化を図るために利用されることが多くなっています。
法人の債務整理手続きを選ぶ際のポイント
法人の債務整理には合計5種類の手続きがあり、それぞれに特徴が異なっています。会社の借金を確実に整理して目的を達成するためには、状況に応じて最適な手続きを選択することが重要となります。
債務整理手続きを選ぶ際には、以下のポイントに注意して検討しましょう。
- 借金額
- 小さい:私的整理、特別清算
- 大きい:民事再生、会社更生、破産
- 事業の継続が可能か
- 可能:私的整理
- 事業変更や組織改編すれば可能:民事再生、会社更生
- 不可能:破産、特別清算
- 債権者の意向
- 同意を得られる:私的整理、特別清算
- 同意を得られない:民事再生、会社更生
- 会社の規模
- 大企業:全ての手続きが利用可能
- 中小企業:会社更生は厳しい
- 手続き費用を用意できるか
- 手続き費用が低額:私的整理、特別清算
- 手続き費用が高額:会社更生
それぞれ解説します。
借金額
会社の借金額が比較的小さい場合は、再建型なら私的整理、清算型なら特別清算といった簡易的な手続きで借金を整理できる可能性があります。
借金総額が大きくなると、再建型なら民事再生や会社更生、清算型なら破産といった厳格な手続きに寄らざるを得ない可能性が高くなります。
事業の継続が可能か
会社の再建を目指す場合は、借金を減額することで事業の継続が可能かどうかを検討する必要があります。再建を目指していても、事業の継続が見込めなければ清算型の債務整理に寄らざるを得ません。
返済の負担を軽減するだけで事業を継続できる可能性が高い場合は、私的整理を検討するのもよいでしょう。
事業内容を変更したり、会社の組織を大きく変更する必要がある場合は、民事再生や会社更生を選ぶ必要があります。
債権者の意向
法人の債務整理の成否は、債権者の意向によって左右されることもあります。債権者の協力が得られそうな場合は、再建型なら私的整理、清算型なら特別清算を選択できる可能性があります。
反対する債権者が多数ではないものの一定数いる場合は、民事再生や会社更生によって強制的に借金を減額する必要があるでしょう。
会社の規模
大企業はどの手続きでも選択することが可能なので、目的に応じて最適な手続きを選択するとよいでしょう。中小企業が会社更生を選択することは現実的ではないので、再建型なら私的整理または民事再生を検討することになるでしょう。
清算型の破産と特別清算は、会社の規模を問わず利用できます。
手続き費用を用意できるか
私的整理と特別清算では、さほどの手続き費用はかからないので資金に余裕がない場合は利用を検討するとよいでしょう。民事再生ではそれなりの費用がかかりますが、会社更生と比べると大幅に少ない費用ですむケースが多いです。
破産でも管財人の報酬などでそれなりの費用がかかりますが、管財手続きで処分された資産の売却代金の中から管財人の報酬に充てることが可能なケースもあります。
会社をたたむから借金はどうでもいいと考えて放置するのではなく、きちんと破産手続きをとるなどして借金を整理しておきましょう。
法人の代表者も同時に債務整理が必要?
多額の借金を抱えた法人の代表者は、法人の借金の連帯保証人になっていることが多いでしょう。さらに、個人名義でも借金を抱えているかもしれません。
それらの債務を返済可能なら問題ありませんが、払いきれないほどの債務を抱えている場合は、代表個人も債務整理が必要となります。
具体的な方法としては、債務の額や今後の収入などに照らして、以下の手続きのうちのどれかを選ぶことになります。
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
法人が破産すると同時に代表者も自己破産するケースは多いですが、必ずしも代表者が自己破産しなければならないわけではありません。
債務総額が5,000万円以内(住宅ローンを除く)であれば、個人再生で住宅ローン特則を利用することによって、マイホームを手放さずに債務整理できる可能性もあります。
自己判断で手続きを選ばず、弁護士や司法書士といった専門家に相談してアドバイスを受けた方がよいでしょう。
法人の債務整理で弁護士ができること
法人の債務整理は個人の債務整理よりも手続きが複雑で、やるべき作業も多いので、弁護士に依頼することがほぼ必須といえます。
法人の債務整理手続きを弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。
- 状況に応じて最適な手続きの選択についてアドバイスが受けられる
- 迅速かつ正確に手続きの準備を進めてもらえる
- 裁判所での複雑な手続きや債権者との交渉を代行してもらえる
できる限り早期に弁護士に相談・依頼した方が、手続きの選択肢の幅も広くなりますし、手続きの効果を高めることも期待できます。このままでは返済が厳しいと感じたら、早めに弁護士に相談だけでもしておくことをおすすめします。
まとめ
法人の債務整理は再建型と清算型の2種類に大きく分かれ、合計で5種類の手続きがあります。
状況や目的に応じて手続きを選ぶことになりますが、会社の再建を目指していても借金を放置したまま負債が膨らんでしまうと、破産しか選択肢がないということにもなりかねません。
目的を達成するためには、できる限り早期に弁護士に相談し、自社を今後どのようにしていきたいのかを弁護士と十分に話し合うようにしましょう。