債務整理を検討している場合、弁護士・司法書士のホームページやメディアの記事に触れる機会が多くなります。その際、日常生活では使わないような法律用語や、貸金業界特有の俗語に直面して困惑することでしょう。
債務整理は法律や金融の分野ですので、手続きの際に難しい用語がたくさん登場します。そのときに戸惑うことがないように、ここでは債務整理に関する難しい用語についてまとめて解説します。
あ行
アンダーローン
ローンで購入した商品の評価額が、ローン残高を上回っている状態のこと。
債務整理では、住宅ローン特則付き個人再生を行う際に問題となることがある。持ち家の評価額とローン残高との差額は債務者の資産となるため、事案によっては個人再生による返済額が極めて高額となることに注意しなければならない。
例えば、ローン残高が100万円で住宅の価値が500万円の場合は400万円が資産として扱われる。
異時廃止 (いじはいし)
自己破産で、破産手続開始決定とは異なる時期に破産手続きが廃止されること。
管財手続きが行われたものの債権者への配当が行われなかった場合は破産手続きを廃止する必要があるが、このときに行われる裁判所の決定が異時廃止である。管財手続きを行う必要がない場合は破産手続きの開始決定と同時に廃止決定も行われ、この決定は「同時廃止」と呼ばれる。
一連計算 (いちれんけいさん)
借金を完済した後に再び同じ貸金業者から借金した場合に、完済前と完済後の取引について連続して利息引き直し計算を行うこと。
一連計算が認められると、過払い金が発生する可能性が高まり、金額も高額化する傾向にある。同一の基本契約に基づいて、短期的に借入と返済が繰り返されているような場合には、取引の一連性が認められやすくなる。ただし、取引が連続しているか分断されているかについては、慎重な判断が必要である。
か行
開始決定 (かいしけってい)
自己破産および個人再生の申し立てが受理され、裁判所での手続きを開始する旨の決定のこと。
以前、自己破産手続きの開始決定のことは「破産宣告」と呼ばれていたが、破産法の改正により、平成17年から「破産手続開始決定」に名称が変更された。
貸金業法 (かしきんぎょうほう)
貸金業者が守るべきルールを定め、もって消費者の保護を図る法律。
貸金業の登録制度や利息制限法を守ること、過剰な貸付けを行わないこと、取り立ての際には一定のルールを守ることなど、細かなルールが定められている。違反した者には刑事罰が用意されている。
仮執行宣言 (かりしっこうせんげん)
民事訴訟の判決が確定する前に、債権者がその判決に基づいて仮に強制執行をすることを裁判所が認めること。
借金に関する裁判の判決書に「この判決は仮に執行することができる」と記載されていれば、仮執行宣言が可能になる。支払督促では判決は言い渡されないが、債務者が異議を申し立てなければ請求を認めたものとみなされ、債権者の申し立てにより仮執行宣言が行われる。
期限の利益 (きげんのりえき)
「定められた期限が到来するまでは借金を返済しなくてよい」という債務者にとっての利益のこと。
分割払いの契約では、毎月の返済日までに所定の分割金を支払うことで、全額を返済しなくて良くなる。ただし、定められた期限が過ぎても返済しないなどの契約違反があると期限の利益を喪失し、残高の一括返済を請求されることがある。
強制執行 (きょうせいしっこう)
裁判所を介して借金を強制回収すること。
判決や裁判上の和解、支払督促などで債務名義が発行されたにもかかわらず、債務者がお金を支払わない場合に、債権者が強制的に債権を回収するための利用する。
債権者の申し立てにより、裁判所が債務者の財産を差し押さえる。債権者は、その財産を必要に応じて売却するなどして換価し、債権の回収に充てることが認められる。
借金の滞納による強制執行では、給料や預金口座が差し押さえられることが多い。
経過利息 (けいかりそく)
前回の返済日から今回の返済日までに経過した日数に、金利を掛けて計算した利息のこと。
返済日を過ぎても返済しなかった場合は、利息ではなく遅延損害金が発生する。ただし、実務上は、任意整理において、最後の返済日から和解成立日までに発生した経過利息と遅延損害金とを合わせて「経過利息」と呼ぶこともある。
欠席判決 (けっせきはんけつ)
民事訴訟で被告が答弁書を提出せず、裁判期日にも出頭しない場合に、原告の請求どおりの判決が言い渡されること。
裁判所から届いた訴状を無視していると、債権者の請求どおりの欠席判決が言い渡され、一定期間が経過すると確定する。その後は、給料や預金などを差し押さえられることもある。
個人再生委員 (こじんさいせいいいん)
裁判所に代わって個人再生手続きを監督する人のこと。地元の弁護士の中から裁判所が選任する。
債務者の財産・収入の調査や再生債権の評価に関する補助、再生計画案の作成に関する勧告、履行テストなどを行う。多くの裁判所で基本的に個人再生委員が選任されているが、大阪地裁など原則的に個人再生委員を選任しない裁判所も一部にある。
さ行
債権差押命令 (さいけんさしおさえめいれい)
強制執行手続きにおいて、裁判所が債務者の財産のうち「債権」を差し押さえるときに行われる決定のこと。
給料の差し押さえでは勤務先に対する給料債権が、預金の差し押さえでは銀行に対する預金債権が差し押さえられる。債権差押命令が行われると、債務者および第三債務者(勤務先、銀行)に通知書が送付される。
債権者平等の原則 (さいけんしゃびょうどうのげんそく)
複数の債権者がいる場合には、すべての債権者を平等に取り扱わなければならないとする原則のこと。
自己破産および個人再生の手続に適用され、一部の債権者を除外して申し立てることは認められない。
任意整理では、裁判所による強制力が及ばない手続きであることから、債権者平等の原則は適用されない。したがって、任意整理は一部の債権者を除外して手続きすることも可能。
債務者審尋 (さいむしゃしんじん)
自己破産を申し立てた後に、裁判官が申立人(債務者)と面談し、具体的な事情を確認する手続きのこと。
破産手続きを開始する事由があるか、処分すべき財産があるか、などの確認が行われる。その後に破産手続開始決定となる。同時廃止事件となるケースでは、債務者審尋で免責に関する事情の確認も行われ、後の免責審尋は省略されることが多い。
債務名義 (さいむめいぎ)
強制執行を行う際に必要となる文書のことで、差し押さえの根拠となる債権の存在および範囲を公的に証明する内容が記載されているもの。
債務名義の典型例として以下のものがある。
- 判決書(確定後、または仮執行宣言が付されたもの)
- 裁判上の和解調書
- 支払督促(仮執行宣言が付されたもの)
- 公正証書(強制執行認諾文言が付されたもの)
債権者が起こした支払督促や民事訴訟を無視していると、債権者は債務名義を取得し、債務者の財産の差し押さえが可能となる。
時効の更新 (じこうのこうしん)
借金の消滅時効の進行中に、民法に定められている一定の事由が発生すると、時効の進行がリセットされてゼロに戻ること。
時効は5年間で完成するが、更新されるとその時点から更に5年待つ必要がある。
主な時効更新事由として、裁判上の請求、支払督促、債務者による承認などがある。裁判外の請求(催告)でも、そのときから6ヶ月間は時効が完成しないことに注意が必要。
支払督促 (しはらいとくそく)
債権者の申し立てにより、簡易裁判所の書記官が簡単な審査のみで、債務者に対して支払いを命じる制度。
債務者が異議を申し立てなければ、判決が確定した場合と同様の法的効力が生じ、債権者は債務者の財産の差し押さえが可能となる。債務者が書類を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てると、民事訴訟の手続きに移行する。
社内ブラック (しゃないぶらっく)
債権者の社内データに債務整理などの事故情報が保有され、借金を申し込んでも審査に通らない状態のこと。
個人信用情報機関から事故情報が削除された後も、社内データは削除されないため債務整理をした貸金業者のサービスは一生利用できない可能性がある。ただし、社内の事故情報をいつまで保管するかや、審査基準は業者によって異なるため、債務整理をした貸金業者のサービスが一切利用できなくなるとは限らない。
自由財産 (じゆうざいさん)
自己破産しても処分する必要がない財産。
自由財産の範囲は裁判所によって異なることもあるが、以下のものがある。
- 99万円以下の現金
- 生活費必要不可欠な家財道具等
- 法律で差し押さえが禁止されているもの
- 評価額20万円以下の財産(現金を除く)
なお申し立てによって自由財産の範囲が拡張されることもある。
出資法 (しゅっしほう)
お金を借りる消費者を保護するために、不当な高金利を伴う金銭の貸付を規制する法律。
貸金業者からの借金では年20%、個人間の借金では年109.5%が上限金利とされている。上限を超える金利で貸付けが行われた場合は、貸し手が刑事罰の対象となる。
貸金業者からの借金の上限金利は段階的に引き下げられ、2010年に施行された改正法で利息制限法と同じ年20%となった。これにより、グレーゾーン金利は撤廃された。
受任通知 (じゅにんつうち)
弁護士・司法書士が債務整理の依頼を受け、債務者の代理人となったことを債権者に知らせるために送付する書面のこと。
受任通知が債権者に届くと、法律に基づき債務者に対する直接の取り立てや請求は停止される。それ以降は、代理人である弁護士・司法書士と債権者との間ですべてのやりとりが行われる。
職業制限 (しょくぎょうせいげん)
自己破産の手続き中は一部の職業が制限がかかる。この制限は以下の条件のいずれかを満たすと復権(解除)となる。
- 免責確定 (自己破産成功)
- 破産者が手続きを廃止(財産を処分しないで終了すること)を申請し、それに債権者全員が同意した場合(同意廃止)
- 自己破産後に個人再生を申立てて認められた場合 (再生計画の認可)
- 手続き開始から10年経過した場合
【参考】破産法 第二百五十五条
制限を受ける職は「弁護士・司法書士」「警備」「保険会社」などがある。
【参考】Wikipedia
所有権留保 (しょゆうけんりゅうほ)
商品の買主が売買代金を完済するまで、その所有権を売主に留め置くという担保権のこと。
債務整理では、自動車ローンを組んでいるケースで問題となることが多い。ローンが残っている自動車に所有権留保が付いている場合に債務整理をすると、債権者が自動車を引き揚げることがある。
通常、信販系のローンでは所有権留保が付くが、銀行のマイカーローンでは所有権留保は付かないことが多い。所有権留保が付いているかどうかは、契約書や車検証で確認できる。
書面決議 (しょめんけつぎ)
小規模個人再生で、再生計画案の認可・不認可を判断する前提として、債権者の意見を確認する手続きのこと。
債務者が裁判所に提出した再生計画案に対して、各債権者が同意・不同意の意見を書面で裁判所に送付する。
不同意とする債権者の数が債権者数の半数未満、かつ不同意の債権者の債権合計額が総債権額の2分の1以内であれば、再生計画案は可決となる。従来、不同意とする債権者はごく少数であったが、近年は少しずつ増えつつあることに注意が必要である。
推定計算 (すいていけいさん)
貸金業者が取引の途中からの履歴しか開示してこない場合に、不開示部分の取引経過を債務者側で推定して再現し、利息引き直し計算を行うこと。
借入や返済を規則的に行っていた場合は推定計算が認められやすいといえる。ただし、契約書や領収書、振込明細書、銀行通帳、口座の取引履歴などの証拠で再現内容の確実性を証明できなければ、裁判では認められない。
清算価値保障の原則 (せいさんかちほしょうのげんそく)
個人再生の返済額は所有財産以上の金額にしなければならないという原則。
個人再生の再生計画による返済額は自己破産した場合の配当額以上でなければならないと決めれらている。つまり、個人再生では、所有資産の総額(自由財産は除く)以上の金額を返済することが求められる。高価な資産があると、個人再生による返済額が高額化する可能性がある。
訴状 (そじょう)
民事訴訟を提起するために、原告が裁判所に提出する書面のこと。
原告が請求する金額と、その法的根拠とされる主張が記載されている。債権者が民事訴訟を提起して受理されると、裁判所から債務者の自宅等へ、訴状や証拠書類が特別送達で届けられる。
同封されている書類に第1回口頭弁論期日の日時・場所も記載されている。債務者は、その期日までに訴状や証拠の内容を確認した上で、対応方法を検討する必要がある。
た行
代位弁済 (だいいべんさい)
債務者以外の第三者が、債務者に代わって借金を返済すること。
保証人や債務者の親族が代位弁済を行うこともあるが、銀行からの借金には保証会社がついていることが一般的。債務者が概ね3ヶ月滞納すると、保証会社が代位弁済を行う。代位弁済を行った保証会社等は債務者に対して一括弁済を請求してくることに注意が必要。
答弁書 (とうべんしょ)
民事訴訟を提起された被告が、第1回口頭弁論期日までに提出すべき書類。
原告の請求や主張する事実の1つ1つについて、認めるかどうかを記載する。認めない場合には、その理由や反論を記載することも求められる。
借金に関する裁判では多くの場合、希望する和解案を答弁書に記載して提出し、期日前に債権者と協議した上で、口頭弁論期日には裁判上の和解成立を目指すことになる。
特別送達 (とくべつそうたつ)
裁判所が訴訟関係人などに送達すべき書類を届けるために用いられる郵送方法のこと。
書留郵便と同じように、郵便配達員が名宛て人へ直接手渡し、受け取り日時が郵便局に記録される。家族等が受け取ることも可能。
債権者が支払督促や民事訴訟を起こせば、債務者の自宅等に書類が特別送達される。封筒には「特別送達」という文字や裁判所の名称などが記載されているため、裁判上の重要書類であることがわかりやすいようになっている。
取引の分断 (とりひきのぶんだん)
借金を完済した後に再び同じ貸金業者から借金した場合に、完済前と完済後の取引が別個のものと判断されること。
利息引き直し計算の際、取引が分断されていると過払い金が発生しにくくなる。かつ、完済前の取引で過払い金が発生していたとしても、時効にかかっている可能性が高くなる。
は行
ハードシップ免責 (はーどしっぷめんせき)
個人再生後の返済が途中で困難となった場合に、返済総額の4分の3以上を既に返済していれば、一定の要件の下に残りの返済が免除される制度。
ただし、要件が非常に厳しいため、実際にハードシップ免責が行われるケースは極めて稀である。
非免責債権 (ひめんせきさいけん)
自己破産をしても支払い義務が免除されない債権のこと。
具体的な債権の種類は破産法第253条1項に定められている。税金や社会保険料、損害賠償請求権の一部、養育費、罰金などの支払い義務が代表例。
別除権協定 (べつじょけんきょうてい)
別除権とは裁判手続きより優先して債権を回収できる権利のこと。
別除権協定とは別除権を行使しない旨の合意をすること。
担保権を有する債権者は個人再生手続きとは無関係に担保権を実行して債権を回収することが可能だが、別除権協定を結べば担保権の実行が回避される。
ただし、裁判所の許可を要し、債務者の経済的更生のために必要性が極めて高いと認められる場合でなければ許可されないことに注意が必要。
偏頗弁済 (へんぱべんさい)
特定の債権者にのみ返済したり、担保を提供したりすること。
自己破産および個人再生では債権者平等の原則が適用されるため、申し立て前に偏頗弁済をしていると手続きに支障をきたすことがある。
任意整理では債権者平等の原則が適用されないため、偏頗弁済をしても差し支えはない。ただし、後に自己破産または個人再生に切り替える際には注意が必要である。
ま行
免責審尋 (めんせきしんじん)
自己破産手続きの最終段階で裁判官が破産者と面談し、免責を許可してよいかどうかを判断するために事情を聴取する手続きのこと。
債権者の参加も可能とされているが、実際に債権者が参加することは稀である。同時廃止事件では自己破産申し立て後の債務者審尋で免責に関する確認が行われることが多く、その場合は別途、免責審尋が開催されることはない。管財事件では、最終の債権者集会が免責審尋も兼ねている。
申込みブラック (もうしこみぶらっく)
カードローンやクレジットカードの申込みを立て続けに行うことにより、審査に通りにくくなる状態のこと。
申込みを拒否された事実は6ヶ月間、信用情報機関に事故情報として保有されるため、その間に他社に申し込んでも審査には通りにくいのが実情。債務整理後、ブラックが解消されても立て続けに申し込むことは控えた方がよい。
や行
予納金 (よのうきん)
自己破産および個人再生を申し立てる際に、裁判所へ納めなければならない手続き費用のこと。
申立時に必要な予納金は1万円~数万円程度。自己破産で少額管財事件の場合は20万円程度、通常管財事件の場合は50万円程度の予納金(引継ぎ予納金と呼ばれる)が別途必要となる。
個人再生で個人再生委員が選任された場合は、その報酬(裁判所により異なり12万円~25万円程度)の予納金を分割で支払う(分割予納金と呼ばれる)。
ら行
履行テスト (りこうてすと)
個人再生で、債務者が実際に再生計画案どおりに返済できるかを判断するために行われるテストのこと。
多くの裁判所では、個人再生後に見込まれる返済月額を、個人再生委員名義の口座へ毎月振り込んで積み立てる方法で実施される。再生計画案の認可決定後に個人再生委員の報酬が差し引かれた後、残額は債務者に返還される。
個人再生委員が選任されないケースでは、債務者自身の口座に積み立てを行い、裁判所がその状況を確認する。
利息制限法 (りそくせいげんほう)
金銭の貸し借りにおける利息や遅延損害金の上限利率を規制する法律。
お金を借りる消費者が高金利で金銭を搾取されることを防止するのが目的。利息の上限利率は貸付額に応じて年15~20%であり、これを超える金利の契約は無効となる。
貸金業者からの借金における遅延損害金の上限利率は年20%とされている。
利息引き直し計算 (りそくひきなおしけいさん)
債権者から取り寄せた取引履歴に基づき、すべての取引に利息制限法の上限利率を適用し、利息を計算し直すこと。
かつてはグレーゾーン金利での貸付けが数多く行われていたが、利息制限法による制限を超過した利息の支払いは元本に充当することが認められている。そのため、利息引き直し計算をすることで元本が減少することがある。
元本を完済しても利息を支払い続けていた場合には、過払い金返還請求が可能。