- 法テラスを利用すれば安価に債務整理を専門家に依頼できる
- 法テラスを利用するには収入・資産等の条件がある
- 債務整理で法テラスを利用すると取り立てが止まるまでに時間がかかる
- 自分で選んだ弁護士・司法書士から法テラスに案件を持ち込んでもらうことも可能
支払いきれない借金を抱えてしまったときは、債務整理をすることで解決することができます。債務整理は弁護士や司法書士といった専門家に依頼するのが一般的ですが、依頼するためにかかる費用が気になる方は多いことと思います。
借金を抱えている中で専門家への依頼費用も支払うのは大変ですし、まとまったお金を用意する余裕がないという場合もあります。
そんなときは、法テラスを利用することによって専門家への依頼費用を安く抑えることができます。
ただ、法テラスを利用するには、いくつかの条件を満たすことが必要です。また、法テラスを利用しない場合に比べてデメリットも存在します。そのため、債務整理で法テラスを利用するのが得策かどうかは慎重に考える必要があります。
この記事では、以下3点について解説していきます。
- 法テラスを利用した場合にかかる債務整理の費用
- 法テラスを利用するための条件
- 法テラスを利用する場合のデメリット
法テラスとは
法テラスとは、正式名称を「日本司法支援センター」といい、一般の人が弁護士や司法書士などの専門家による法的サービスを身近に受けられるようにするために国が設立した組織です。
民事・刑事を問わず様々なトラブについて法テラスと契約している弁護士・司法書士に気軽に相談することが可能で、相談した弁護士・司法書士にトラブル解決を依頼することもできます。
一定の条件を満たす場合には「民事法律扶助制度」を利用することができ、安価な費用で弁護士・司法書士への依頼が可能となります。
ここでは、法テラスの特徴である「民事法律扶助制度」について詳しくご説明します。
法テラスの民事法律扶助制度とは
民事法律扶助制度とは、経済的に困っている人もトラブル解決のために専門家による法的サービスを受けやすくするために法テラスが行っている公的な制度のことです。
制度の特徴は、以下のとおりです。
- 弁護士や司法書士に直接依頼する場合よりも安い費用が設定されている
- 弁護士や司法書士への依頼費用は全額、法テラスが立て替えて支払う
- 法テラスに立て替えてもらった費用は分割で返済する
民事法律扶助制度を利用すれば、手元にお金がなくても弁護士や司法書士にトラブル解決を依頼することができます。
借金を抱えて専門家への債務整理の依頼をお考えの方にとって、大きなメリットのある制度といえます。
【参考】『民事法律扶助制度』(法テラス)
毎月の支払いは5千円~1万円
法テラスに立て替えてもらった費用は分割で返済していく必要があります。毎月の支払いは、以下のようになっています。
- 返済月額は原則として5千円~1万円
- 生活保護受給者については返済の猶予や免除が認められることもある
弁護士・司法書士に債務整理を依頼すれば、債権者(貸金業者)への返済はストップします。月1万円を超える返済を法テラスから要求されることはないので、民事法律扶助制度は多くの方にとって利用しやすいものといえるでしょう。
債務整理で法テラスを利用した場合にかかる費用
実際に債務整理で法テラスを利用した場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。ここでは、民事法律扶助制度を利用して弁護士に債務整理を依頼するときにかかる費用をご紹介します。
任意整理にかかる費用
まず、法テラスを利用して弁護士に任意整理を依頼した場合にかかる費用は、次の表に記載のとおりです。
債権者数 | 合計 | 着手金 | 実費 |
---|---|---|---|
1社 | 43,000円 | 33,000円 | 10,000円 |
2社 | 64,500円 | 49,500円 | 15,000円 |
3社 | 86,000円 | 66,000円 | 20,000円 |
4社 | 108,000円 | 88,000円 | 20,000円 |
5社 | 135,000円 | 110,000円 | 25,000円 |
6~10社 | 179,000円 | 154,000円 | 25,000円 |
11~20社 | 206,000円 | 176,000円 | 30,000円 |
21社以上 | 233,000円 | 198,000円 | 35,000円 |
【出典】法テラス
※ 過払い金がある場合には、別途報酬が発生します。
一般的な弁護士費用・司法書士費用に比べて着手金の水準が低い上に、減額報酬がかからないため、経済的に困っている方も利用しやすい金額となっています。
さらに分かりやすいように、任意整理にかかる弁護士費用について、法テラスを利用した場合と利用しない場合との金額を比較してみましょう。
次の表は、債権者数5社の任意整理を弁護士に依頼し、総額300万円の借金が250万円に減額された場合に最終的にかかる費用を比較したものです。ただし、実費は除外します。
合計 | 着手金 | 減額報酬 | |
---|---|---|---|
法テラスを利用した場合 | 110,000円 | 110,000円 | 0円 |
法テラスを利用しない場合 | 320,000円 | 220,000円 | 100,000円 |
差額 | 210,000円 | 110,000円 | 100,000円 |
【出典】法テラス
法テラスを利用すると、弁護士費用が大幅に安くなることがおわかりいただけるでしょう。
ただし、法テラスを利用しない場合にかかる弁護士費用は事務所によって異なるため、上記の金額はおおよその目安として参考になさってください。
個人再生にかかる費用
個人再生にかかる費用についても、同じようにみていきましょう。
まず、法テラスを利用して個人再生を弁護士に依頼したときにかかる費用は次の表に記載のとおりです。
債権者数 | 合計 | 着手金 | 実費 |
---|---|---|---|
1~10社 | 200,000円 | 165,000円 | 35,000円 |
11~20社 | 222,000円 | 187,000円 | 35,000円 |
21社以上 | 255,000円 | 220,000円 | 35,000円 |
【出典】法テラス
過払い金がある場合に別途報酬がかかることは、任意整理の場合と同じです。
法テラスを利用した場合と利用しない場合との比較は、次の表に記載のとおりです。債権者数は10社と仮定し、実費は除外します。
着手金 | |
---|---|
法テラスを利用した場合 | 165,000円 |
法テラスを利用しない場合 | 400,000円 |
差額 | 235,000円 |
住宅ローン特則があるときは、法テラスを利用する場合は費用の増額はありませんが、法テラスを利用しない場合は増額されるのが一般的です。
なお、裁判所への予納金は、法テラスを利用する場合も利用しない場合も依頼者の直接負担となります。
自己破産にかかる費用
自己破産にかかる費用についても、同じようにみていきましょう。
まず、法テラスを利用して自己破産を弁護士に依頼したときにかかる費用は次の表に記載のとおりです。
債権者数 | 合計 | 着手金 | 実費 |
---|---|---|---|
1~10社 | 155,000円 | 132,000円 | 23,000円 |
11~20社 | 177,000円 | 154,000円 | 23,000円 |
21社以上 | 210,000円 | 187,000円 | 23,000円 |
【出典】法テラス
過払い金がある場合に別途報酬がかかることは、任意整理の場合と同じです。
次に、法テラスを利用した場合と利用しない場合との比較は、次の表に記載のとおりです。債権者数は10社と仮定し、実費は除外します。
着手金 | |
---|---|
法テラスを利用した場合 | 132,000円 |
法テラスを利用しない場合 | 300,000円 |
差額 | 168,000円 |
なお、裁判所への予納金は、法テラスを利用する場合も利用しない場合も依頼者の直接負担となります。
ただし、生活保護受給者については、法テラスを利用する場合は20万円を上限として法テラスに予納金を立て替えてもらうことも可能です。
債務整理で法テラスを利用するための条件
法テラスを利用すれば専門家への債務整理の依頼費用が大幅に安くなることがおわかりいただけたと思いますが、誰でも法テラスを利用できるわけではありません。
法テラスの民事法律扶助制度を利用するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 収入と資産が一定額以下であること
- 円満な解決が見込めること
- 民事法律扶助制度の趣旨に適していること
収入と資産が一定額以下であること
民事法律扶助制度は経済的に困っている方のための制度なので、収入と資産が一定額以下でなければ利用できません。
具体的には、以下の収入要件が必要です。
収入要件
- 申込者とその配偶者の手取り月収(賞与を含む)が次の表の基準以下であること
- その他の同居家族の収入は、家計に貢献している範囲で「手取り月収」に加算
同居家族の人数 (本人を含む) |
手取り月収 | 家賃・住宅ローンを 払っている場合 |
---|---|---|
1人 | 182,000円 (200,200円) |
41,000円 (53,000円) |
2人 | 251,000円 (276,100円) |
53,00円 (68,000円) |
3人 | 272,000円 (299,200円) |
66,000円 (85,000円) |
4人 | 299,000円 (328,900円) |
71,000円 (92,000円) |
【出典】法テラス
※ 手取り月収の()内の金額は、東京や大阪など生活保護一級地の場合です。
※ 同居家族が5人以上の場合は、1人増えるごとに「手取り月収」に3万円(生活保護一級地については33,000円)ずつを加算します。
※ 家賃・住宅ローンを払っている場合の()内の金額は、東京都特別区の場合です。
※ 申込者等が家賃または住宅ローンを負担している場合は、上記の表の右欄の金額を上限に「手取り月収」の基準に加算します。
例えば、同居家族が1人(一人暮らし)で住宅ローンを払っている場合は182,000円に41,000円を加算した223,000円以下の月収であれば法テラスを利用可能です。
資産要件
次に、資産要件については申込者とその配偶者が所有する現金、預貯金、不動産、有価証券などの合計額が、次の表に記載の金額以下であることが条件です。
ただし、医療費や教育費などを負担する予定がある場合は、相当額を控除することができます。
同居家族の人数 (本人を含む) |
資産の合計額 |
---|---|
1人 | 180万円 |
2人 | 250万円 |
3人 | 270万円 |
4人 | 300万円 |
【出典】法テラス
円満な解決が見込めること
解決する見込みが「ないとはいえないこと」が利用条件となります。
解決する見込みがない場合とは、任意整理・個人再生を希望しているが収入も貯金も無い場合などがあります。
民事法律扶助制度の趣旨に適していること
浪費などのギャンブルで作った借金を債務整理する場合などで、権利の濫用を認められる場合は法テラスを利用することはできません。
ただ、債務整理では実際上、ほとんどのケースでこの条件は満たします。免責が見込めない場合は自己破産を依頼することはできませんが、任意整理または個人再生なら依頼することができます。
法テラスの申込みに必要な書類
債務整理で法テラスの無料相談・費用立替を利用するためには、申込者と配偶者に関する以下の書類が必要です。
- 資力を証明する書類(給与明細、源泉徴収票、確定申告書の写しなど)
- 資力申告書(法テラスHPから書式をダウンロードして記入)
- 世帯全員の住民票の写し
- 割賦償還に用いる口座に係る資料(通帳、キャッシュカードの写しなど)
- 債務一覧表(法テラスHPから書式をダウンロードして記入)
【参考】法テラス
債務整理で法テラスを利用する場合のデメリット
法テラスの民事法律扶助制度には経済的に大きなメリットがあるので、上記の条件を満たす場合は利用を検討するとよいでしょう。
ただし、債務整理で法テラスを利用する場合には以下のデメリットもあるので、注意が必要です。
取り立てが止まるまでに時間がかかる
法テラスを利用しないで弁護士・司法書に債務整理を依頼した場合は、直後に受任通知が債権者宛に送付されるため、すぐに取り立てが止まります。
しかし、法テラスを利用する場合は、まず民事法律扶助制度の利用を申し込み、審査を通過した後に弁護士・司法書士に依頼することになります。
通常、審査には1~2週間かかるので、その間は債権者からの取り立てが止まりません。既に借金を滞納していて債権者から督促を受けている場合は、ご注意ください。
専門家を自由に選べない
民事法律扶助制度を利用する場合は法テラスから弁護士・司法書士を紹介してもらうのが一般的ですが、その際、自由に専門家を選ぶことはできません。
そのため、次のような専門家を紹介される可能性もあります。
- 債務整理に詳しくない弁護士・司法書士
- 経験の浅い弁護士・司法書士
- 民事法律扶助制度の利用案件には熱心に対応しない弁護士・司法書士
- 自分と相性が合わない弁護士・司法書士
法テラスを利用する3パターン
法テラスを利用して債務整理を弁護士・司法書士に依頼するには、次の3つのルートがあります。
法テラスに申し込んでから弁護士・司法書士を紹介してもらう
先に民事法律扶助制度の利用を申し込み、審査が通った後に法テラスから担当の弁護士・司法書士を紹介してもらうルートです。
申し込みの流れは以下のようになります。
- 法テラスのサポートダイヤル (0570-078374) に電話するか、近隣の法テラスに電話して相談の予約をする
- 法律相談をする
- 法テラスを利用するための審査を受ける
- 相談した弁護士・司法書士が債務整理を受任する
担当の弁護士・司法書士と相性が合わない場合は別の弁護士・司法書士を紹介してもらえる場合もありますが、基本的には自分で専門家を選ぶことはできません。
法テラスのスタッフ弁護士に相談する
各地の法テラスには直轄の「法テラス法律事務所」があります。その事務所には、「スタッフ弁護士」と呼ばれる法テラス専属の弁護士が常駐しています。
その弁護士に相談し、依頼することになれば法テラスへ民事法律扶助制度の利用を申し込むことになります。
自分で弁護士・司法書士を選ぶ | 持ち込み方式
自分で担当の弁護士・司法書士を選んだ上で、民事法律扶助制度を申し込むことも可能です。
法テラス専属の弁護士以外にも、民事法律扶助制度の契約弁護士・司法書士は全国に数多くいます。
その中から自分と相性の合う専門家を選び、その専門家を通じて法テラスへ民事法律扶助制度の利用を申し込んでもらう方法です。この申し込み方法のことを「持ち込み方式」と呼びます。
持ち込み方式であれば、担当の専門家を自分で自由に選ぶことができます。ただし、全ての弁護士・司法書士が民事法律扶助制度の契約をしているわけではないので、その点には注意が必要です。
法テラスを利用する場合は弁護士・司法書士への相談の際に「法テラスを利用したい」と伝えましょう。
法テラスを利用して債務整理するときに考えるべきポイント
債務整理を専門家に依頼する際に法テラスを利用すると経済的なメリットがあることは間違いありません。
ただ、その一方でデメリットも存在するため、法テラスを利用するかどうかは慎重に検討する必要があります。
債務整理で法テラスの利用をお考えの場合は、以下のポイントに注意して検討してみましょう。
一般の弁護士・司法書士との費用の違い
法テラスを利用せずに一般の弁護士・司法書士に債務整理を依頼すると高額の費用がかかるのかというと、必ずしもそうとは限りません。
債務整理の依頼費用は事務所によって異なるので、以下のようなケースもあります。
- 法テラスを利用する場合と同等の費用で依頼を受ける事務所もある
- 法律相談料が無料の事務所もある
- 着手金が無料の事務所もある
- 分割払いに対応している事務所もある
専門家への依頼費用が気になる場合は、一般の弁護士・司法書士の事務所の料金についても、インターネットなどで検索してみるとよいでしょう。
取り立てのストップから解決までにかかる時間
一般の弁護士・司法書士に債務整理を直接依頼した場合は、早ければ即日、遅くとも2日以内には債権者からの取り立てがストップします。
一方で法テラスを利用する場合は、審査があるため1週間程度はかかります。
既に債権者から厳しい取り立てを受けているような場合で早急な対応を要する場合は、費用を調べた上で、一般の弁護士・司法書士への依頼も検討してみましょう。
担当の弁護士・司法書士と相性が合うか
債務整理を成功させるためには、担当の弁護士・司法書士と相性が合うかどうかも重要な問題です。
例えば、自分は任意整理を希望しているにもかかわらず、担当の専門家が借金額だけを見て自己破産を勧めてくるような場合は、納得のいく形で解決することは難しいでしょう。
相性の合う専門家を見つけるには、自分で弁護士・司法書士を探して直接依頼するか、または法テラスへ持ち込んでもらう必要があります。
まとめ
借金の返済に追われて生活費にも事欠くような状態になったときは、債務整理で問題を解決することができます。
必要な費用が準備できない場合でも、法テラスを利用すれば専門家への依頼が可能になります。
法テラスを利用する際のデメリットは「持ち込み方式」によってある程度は回避することができますので、一度、専門家に相談して検討してみることをおすすめします。