- 支払不能でなければ自己破産はできない
- 免責不許可事由があると自己破産しても返済義務が残る
- 自己破産しても免除されない非免責債権もある
- 自己破産できる条件を満たしていないと思っても自己破産できる場合がある
- 同時廃止の条件を満たすと自己破産手続きが早く終わる
多額の借金を抱えてしまっても、「自己破産」をして免責が認められれば原則として全ての借金の返済義務を免除してもらうことができます。
ただし、借金を背負っている全てのケースで自己破産ができるわけではありません。自己破産で借金の返済義務を免除してもらうためにはいくつかの条件を満たす必要があります。
この記事では、
- 自己破産するための条件
- 自己破産の条件を満たさないときの対処法
- 条件を満たしていても自己破産すべきでないケース
以上3点をわかりやすく解説します。
自己破産ができるための3つの条件とは
自己破産で借金問題を解決するためには、自己破産そのものが認められる条件と、さらに借金の返済義務が免除される条件の両方を満たす必要があります。
以下、この3つの条件についてそれぞれご説明します。
- 借金が支払不能であること
- 免責不許可事由がないこと
- 借金が非免責債権でないこと
借金が支払不能であること
自己破産をするための法律上の条件は「支払不能」であることです。
自己破産は最終的に借金の返済義務を全て免除する手続きです。支払い可能な場合は借金を返済すべきであり、この場合は自己破産を申し立てても裁判所に認めてもらえず、申し立ては棄却されてしまいます。
支払不能の判断基準は「借金を返せない状況が続いている事」です。
借金いくらからが支払い不能という基準はありませんが、概ね年収の3分の1を超える借金がある場合は支払不能と認められる可能性があります。
つまり、年収が600万円の人の場合、借金総額が200万円以上であれば支払不能と認められます。
ただし、支払不能かどうかは借金総額と年収の他にも、以下のようなさまざまな事情を総合的に考慮して判断されます。
- 毎月の収入が安定しているかどうか
- 家族構成
- 生活状況
- 資産状況
- 債務の内容
- 借入の経緯
したがって、事情によっては借金総額が年収の3分の1以内でも支払不能と認められる場合がありますし、3分の1を超えていても支払不能と認められない場合もあります。
支払不能と裁判所に認められると、「破産開始決定」が下されます。これが自己破産の第一のステップです。
免責不許可事由がないこと
破産開始決定が出ただけでは、まだ借金問題は解決されていません。通常は、その後に引き続き裁判所から「免責許可決定」が下されます。
免責とは、借金の返済義務を免除する裁判所の決定のことです。免責許可決定が下されてはじめて、借金の返済義務が免除されます。免責が許可されるためには、免責不許可事由がないことが条件となります。
免責不許可事由とは
借入の経緯の中で債務者に落ち度があったり、免責を認めることが債権者との関係で過度に不公平な結果となる場合は、免責が許可されません。免責が許可されない事情のことを「免責不許可事由」といいます。
典型的な免責不許可事由には、以下のようなものがあります。
- 借金で高価な物を購入したり、過度に遊興するなどの浪費をした
- パチンコや競馬などのギャンブルに借金を使った
- 債権者の利益を害する目的で財産を安く処分した
- 換金する目的でクレジットカードを利用して商品を購入し、換金した
- 特定の債権者のみに優先的に返済した
- 直近1年以内に支払不能であることを隠して借入をした
- 過去7年以内に自己破産をして免責を受けている
免責不許可事由があると原則として借金が免除されない
以上の免責不許可事由がある場合は、自己破産そのものが認められても借金の返済義務は免除されないのが原則です。
しかし、この原則を厳格に運用すると免責が許可されるケースはごくわずかとなり、債務者の経済的更生を図る自己破産制度があまり利用されなくなるおそれがあります。
そのため、免責不許可事由に該当する行為が多少はあっても、多くの場合は最終的に免責が許可されています。
借金が非免責債権でないこと
支払不能で、免責不許可事由がなくても、全ての債務が免責されるわけではありません。以下のような非免責債権には免責の効力が及ばず、支払い義務は免除されません。
- 税金・年金保険、健康保険などの社会保険料・従業員への給料
- 子どもへの養育費
- 罰金
- 悪意による損害賠償金
- 故意または重過失で人の生命または身体を害した場合の慰謝料等
これらの債務について多額の未払金がある場合は、自己破産をしても支払う必要があります。
条件を満たさないが自己破産したいときの対処法とは
自己破産できる条件を満たさないものの、借金が膨れ上がってしまい、自己破産しなければ解決することが難しいという場合もあることでしょう。
ここでは、そのような場合の対処法を紹介します。
免責不許可事由がある場合の対処法
免責不許可事由があったとしても、絶対に免責が認められないわけではありません。実際に、免責不許可事由があっても自己破産をして借金問題を解決している例は、弁護士の実務ではたくさんあります。
免責不許可事由がある場合は、その程度によって次のように対処法が異なります。
程度が軽い場合は免責可能
免責不許可事由がある場合でも、程度が軽いケースは多々あります。
例えば、借金でギャンブルをしたといっても300万円の借金のうちギャンブルに使ったのは10~20万円に過ぎず、ほとんどの借金は生活費や債務の返済に使ったという人は多いです。
このように、免責不許可事由に該当する行為が取るに足りない程度である場合は、裁判所が「免責不許可事由なし」と判断して免責を許可する傾向にあります。
裁量免責が認められる場合もある
300万円の借金のうち100万円以上をギャンブルに使っているような場合は、裁判所も見過ごすことはしません。
ただ、見過ごせない免責不許可事由がある場合でも、さまざまな事情を考慮したうえで裁判所の裁量による免責が許可されるケースも多くあります。
免責不許可事由があるにもかかわらず裁判所の裁量で免責を許可することを「裁量免責」といいます。
裁量免責が認められるためには、次の2つの条件を満たすことが必須です。
- 本人が真摯に反省している
- 免責を許可することで本人の経済的な生活の再建が見込まれる。
それに加えて、ある程度の金額を積み立てて債権者へ配当することを裁判所から指示されるケースも多いです。この場合、指示に従わなければ裁量免責は認められません。
借金が支払不能とはいえない場合の対処法
借金が支払不能と認められなければ、そもそも自己破産そのものが認められません。
支払不能とは、借金総額に比して債務者の支払い能力が不足しており、継続的に返済していく目処が立たないと客観的に判断される状態のことをいいます。
ただ、人によって事情が異なるため、同じ借金総額、同じ年収でも返済にかかる負担は同一ではありません。
例えば、年収が600万円で借金総額が200万円に満たない場合でも、次のような事情で返済が不可能であることを客観的に証明できれば自己破産することも可能です。
- 大学に通っている子どもや進学を予定している子どもが複数いて、毎年数百万円の教育費がかかる
- 高齢の両親が病気で療養しており、多額の医療費や介護費がかかる
非免責債権がある場合の対処法
税金などの非免責債権は自己破産しても支払う必要があります。しかし、非免責債権の未払金の他にも多額の借金がある場合は、自己破産で借金を免責してもらうことで非免責債権の支払いも容易になるでしょう。
例えば、次のケースで考えてみましょう。
- 税金の未払金が50万円
- 消費者金融からの借り入れが300万円
この場合、自己破産をして消費者金融からの借り入れが免責されれば、残債務は50万円に減額される結果となります。
収入にもよりますが、50万円なら支払い可能なのではないでしょうか。それでも支払いが難しい場合は、税金の延納や分納が認められる場合もあるので、税務署に相談してみましょう。
条件を満たしていても自己破産すべきでないケースとは
逆に、自己破産できる条件を満たしていても、事情によっては自己破産すべきではないケースもあります。
以下のケースに該当する場合は、自己破産する前に他の解決方法を考えてみましょう。
保証人がついている借金がある場合
保証人がついている借金がある場合、自己破産をすると保証人が残債務の一括返済を請求されてしまいます。自己破産の場合は全ての債権者を平等に扱う必要があるため、保証人がついている借金のみを除外して手続きをすることはできません。
自己破産する直前に保証人がついている借金のみを完済することも免責不許可事由に該当するため許されません。保証人に迷惑をかけずに借金問題を解決するには、任意整理をすることです。
「任意整理」とは、裁判所を通さずに各債権者と個別に話し合うことによって返済方法や返済額を新たに取り決めることです。
裁判所を介しない手続きなので全ての債権者を平等に扱う必要はなく、保証人がついている借金のみを除外して手続きを行うことも可能です。
どうしても手放したくない財産がある場合
自己破産をすると、全ての借金の返済義務が免除される代わりに財産を処分してお金に換えて、債権者に配当する必要があります。財産を処分する必要がない債務整理方法としては、任意整理の他に個人再生という手続きもあります。
個人再生とは、裁判所に申し立てることによって借金を原則として5分の1に減額し、減額後の借金を3年~5年で分割返済する手続きです。
個人再生には住宅資金特別条項という制度があり、この制度を適用すれば住宅ローンを支払いながら他の借金を大幅に減額することが可能です。
住宅ローンを返済中のマイホームを手放したくない人に最適の債務整理方法といえます。
資格や職業の制限を受ける場合
自己破産手続き中は、以下のような資格や職種の職業に就くことはできません。
- 司法書士
- 公認会計士
- 不動産鑑定士
- 行政書士
- 保険外交員
- 警備員
- 酒類販売
- 風俗営業
- 一部の公務員
免責が確定すると資格や職業の制限も解除されるため、一時的に他の職種の部署への移動が可能な場合は、会社に相談してみるとよいでしょう。
どうしても資格や職業への制限を避けたい場合は、任意整理または個人再生を検討することになります。
自己破産で同時廃止が認められる条件とは
自己破産手続には、すぐに手続きが終了するパターンと、複雑な手続きを要するパターンとがあります。
ここでは、すぐに手続きが終了する「同時廃止」の概要と、同時廃止が認められる条件をご説明します。
すぐに手続きが終了する「同時廃止」とは
自己破産手続は、大きく分けて次の3つのステップに分かれています。
ステップ | 内容 |
---|---|
破産手続開始 | 債務者が支払不能かどうかが判断される |
管財手続 | 債務者の財産を換金し、債権者へ配当する。隠し財産がないか、免責不許可事由がないかなどの調査も行われる。 |
免責手続 | 債務者に免責を許可してもよいかどうかが判断される |
以上の3つのステップのうち、破産開始手続きと管財手続きとを合わせて「破産手続」と呼びます。そして、破産手続が全て終了して初めて、「免責手続」に移ります。
まず、債務者が支払不能状態にあると判断されれば、破産手続開始決定が下されます。
このとき、債務者に換金可能な財産がなく、免責不許可事由もないことが申し立て書類によって明らかな場合は、管財手続を省略して破産手続が終了します。
破産手続開始決定と同時に破産手続が終了するため、「同時廃止」と呼ばれます。「廃止」とは、破産手続を終了するという意味です。
管財手続きを経て破産手続が終了する場合は、破産手続開始決定と時期が異なるため「異時廃止」と呼ばれます。
同時廃止が認められるための3つの条件とは
同時廃止の場合、自己破産の申し立てから免責の確定までが概ね1~2か月で済みます。それに対して管財手続を要する場合は早くても3~6か月、長い場合は1年以上を要することもあります。
管財手続きの場合は破産管財人へ支払う報酬も最低20万円は必要になるので、同時廃止の方が債務者にとって圧倒的に有利になります。
同時廃止が認められるためには、次の3つの条件を満たすことが必要です。
20万円を超える財産がないこと
20万円までの財産は自己破産しても自由に所持することが認められているので、管財手続きによって換金されることはありません。
現金として保管している場合は99万円まで所持できます。
ただし、自己破産を申し立てる直前に20万円を超える預金を引き出していたり、車などの財産を換金していた場合は管財手続によって債権者に配当されることになります。
免責不許可事由がないこと
換金できる財産がない場合でも、免責不許可事由がある場合は原則として破産管財人が選任され、管財手続きが行われます。
免責不許可事由があるかどうかが申し立て書類で明確に判断できない場合も、調査するために管財手続きが行われます。
したがって、自己破産の申し立て書類において免責不許可事由がないことを明確にしておくことが大切です。
借入の経緯や財産状況が明確であること
自己破産を申し立てる際は、借入の経緯や財産状況を申立書に具体的に記載して裁判所に提出することとされています。これらの記載が不明確であると、調査する目的で裁判所が破産管財人を選任し、管財手続きが行われてしまいます。
申立書には借入の経緯や財産状況を正確かつ詳細に記載しましょう。なお、免責不許可事由がある場合は裁量免責が見込まれる場合でも原則として管財手続きが行われます。
しかし、免責不許可事由に該当する行為による影響が借金総額に比して軽微であることが申立書の記載で明らかになっていれば、同時廃止によって通常の免責を得ることも可能です。
自己破産の条件を満たすかどうか不安なときに弁護士・司法書士ができること
多くの人は、多額の借金を抱えて返済が厳しくなると自己破産するしかないと考えてしまいがちです。しかし、そもそも自己破産できる条件を満たしているかどうかを一般の人が判断するのは難しいものです。
そのため、自己破産を考えたときは一度、弁護士・司法書士に相談することを強くおすすめします。
自己破産について弁護士・司法書士に相談するメリットは以下のとおりです。
- 自己破産できる条件を満たしているかどうかを判断してもらえる
- 条件を満たさない場合でも解決方法のアドバイスが受けられる
- 条件を満たしていても自己破産すべきでない場合は指摘してもらえる
まとめ
自己破産できる条件を満たしている場合は、借金問題を解決するのはそれほど難しいことではありません。
しかし、条件を満たしていない場合や、条件を満たしていても自己破産すべきでない事情がある場合は他の解決方法を探ったり、自己破産するとしてもさまざまな工夫をすることが必要になります。
その場合、自分で対処するのは困難なので、弁護士や司法書士に依頼する必要があるでしょう。
専門家に依頼すれば、複雑な手続きも全て代行してもらえます。弁護士・司法書士の力を借りて、借金問題を適切に解決しましょう。