- 追加介入とは任意整理の対象とする債権者を追加することである
- 和解後の返済が苦しくなっても追加介入で任意整理を継続できる
- 追加介入で財産を失ったり保証人に迷惑がかかったりすることもある
- 追加介入が難しくても解決方法はある
任意整理では、個人再生や自己破産とは異なり、一部の債権者とだけ手続きを行うことも可能です。例えば、借入先が5社ある場合に3社とだけ任意整理をして、残りの2社に対しては従来どおり返済していくことができます。
ただ、場合によってはその後の返済が苦しくなってしまうこともあるでしょう。そんなときに有効な解決手段のひとつが「追加介入」というものです。先ほどの例でいくと、当初は任意整理しなかった残りの2社を後から任意整理することです。
早めに対処すれば追加介入によって任意整理を継続できる可能性が高まります。しかし、その一方で追加介入でも解決が難しいケースも考えられます。
この記事では、任意整理の追加介入とは何かを解説した上で、任意整理後の返済が苦しくなったときの対処法についても全般的にご説明していきます。
任意整理の追加介入とは
任意整理の追加介入とは、いったん任意整理をした後に、手続きの対象とする債権者を追加することをいいます。
当初の任意整理では介入しなかった債権者に対しても改めて介入することから「追加介入」と呼ばれています。
例えば、5社ある借入先のうち3社とのみ任意整理した後で返済が苦しくなった場合、残りの借入先とも追加で任意整理を行うのが追加介入です。
任意整理の追加介入で得られるメリット
任意整理の追加介入を行えば、毎月の返済額をさらに減らして任意整理を継続できる可能性があるというメリットが得られます。
毎月の返済額をさらに減らせる
追加介入すれば、まだ任意整理をしていなかった債権者への返済額を減らせるので、毎月の返済額の合計をさらに減らすことが可能となります。
一例ですが、次の表のようにA社~E社の5社から借入をしていて、A社~C社の3社と任意整理をしたとしましょう。
借入先 | 借入残高 | 毎月の返済額 (任意整理前) |
毎月の返済額 (任意整理後) |
---|---|---|---|
A社 | 50万円 | 15,000円 | 8,500円 |
B社 | 50万円 | 15,000円 | 8,500円 |
C社 | 30万円 | 9,000円 | 5,000円 |
D社 | 30万円 | 9,000円 | 9,000円 (任意整理せず) |
E社 | 20万円 | 6,000円 | 6,000円 (任意整理せず) |
合計 | 180万円 | 54,000円 | 37,000円 |
このケースでは、毎月の返済額の合計が5万4,000円から3万7,000円へと、1万7,000円の減額に成功しました。それでも返済が苦しくなったとしましょう。このとき、D社・E社に追加介入するとします。
借入先 | 借入残高 | 毎月の返済額 (任意整理前) |
毎月の返済額 (任意整理後) |
---|---|---|---|
A社 | 50万円 | 15,000円 | 8,500円 |
B社 | 50万円 | 15,000円 | 8,500円 |
C社 | 30万円 | 9,000円 | 5,000円 |
D社 | 30万円 | 9,000円 | 5,000円 (追加介入) |
E社 | 20万円 | 6,000円 | 3,000円 (追加介入) |
合計 | 180万円 | 54,000円 | 30,000円 |
このケースでは、追加介入によって毎月の返済額の合計をさらに7,000円減額できました。
追加介入によって減額できる幅はケースバイケースですが、ほぼ間違いなく毎月の返済の負担を減らすことが可能です。
任意整理を継続できる
いったん任意整理をした方の多くは、できる限り任意整理を継続して借金を完済してしまいたいとお考えのことでしょう。
個人再生や自己破産に切り替えるとなると、手続きの負担が増えますし、高額の費用が必要となることもあります。
その他にも個人再生と自己破産には任意整理とは異なるデメリットがいくつかあります。人によっては財産を失ったり、仕事に支障をきたしたりするかもしれません。
追加介入で毎月の返済額の合計を減らせば、あくまでも任意整理で完済を目指すことが可能となります。
任意整理の追加介入で生じるデメリット
任意整理の追加介入にはメリットがありますが、その一方で以下のデメリットもあることに注意しておく必要があります。
元金は全額返済する必要がある
任意整理は、債権者と直接交渉して合意により返済額を減らしてもう手続きです。基本的に将来利息はカットしてもらえますが、元金のカットにはほとんど応じてもらえません。
この点については、当初の任意整理でも追加介入でも同じことです。元金は全額返済する必要があるので、追加介入をしても思うように返済額が減らないこともあります。
財産を失うことがある
当初の任意整理で回避したデメリットが、追加介入によって発生することがあります。
例えば、消費者金融からの借金と自動車ローンとを抱えている場合、消費者金融とのみ任意整理をすれば車を手元に残すことができます。
しかし、自動車ローンの債権者について追加介入をすると、車にローン会社の所有権留保が付いていれば車を引き揚げられてしまいます。その他の商品でも、所有権留保が付いていれば引き揚げられることに注意が必要です。
ただし、自動車ローンでも銀行系のローンでは所有権留保が付いていないことがほとんどで、その場合は追加介入をしても車を引き揚げられることはありません。
また、クレジットカードのショッピングで購入した商品についても、引き揚げられる例はあまりないようです。
保証人に迷惑がかかることがある
保証人付きの借金を任意整理すると、保証人が債権者から一括返済の請求を受けてしまいます。保証人付きの借金を除外して他の債権者とのみ任意整理をすれば、保証人に迷惑がかかることはありません。
その後に返済が苦しくなった場合には、保証人付きの借金について追加介入することが考えられます。しかし、その場合には保証人に迷惑がかかることを覚悟しなければなりません。
任意整理の追加介入が適しているケース
どのようなケースでも追加介入で解決できるとは限りません。任意整理の追加介入が適しているのは以下のようなケースです。
任意整理後の返済が少し厳しい
毎月の返済額をもう少し減らせば返済を継続していける、という場合は任意整理の追加介入に向いています。
先ほどご紹介したA社~E社から借入をしているケースでは、D社・E社について追加介入をすることで毎月の返済額が7,000円減りました。
このケースで、例えば「毎月の返済額をあと2万円減らさないと返済していけない」という状況であれば、追加介入では解決できません。
無担保で未整理の借金がある
無担保で未整理の借金がある場合には、その借入先について追加介入をすることで、特段のデメリットなく毎月の返済額を減らすことが可能です。
例えば、任意整理をする際にまだ返済をほとんどしていない借金があれば、その借入先を手続きから除外することがあります。
このような場合には債権者が任意整理に応じてくれないか、応じたとしても和解条件が厳しくなる可能性が高いからです。
しかし、しばらく返済した後に追加介入すれば、通常は支障なく和解することが可能となります。
ローンが残っている財産を失っても構わない
当初の任意整理の際に、自動車ローンなどのローン会社を除外して手続きを行う人は多いものです。
それで任意整理後の返済に支障がないのであれば、何ら問題はありません。しかし、任意整理しても返済が厳しい場合には、ローン返済中の商品を手放すことを検討する必要があるかもしれません。
車を手放しても仕事や生活に大きな支障はないという場合は、追加介入で解決できる可能性が高いといえます。
引き揚げられた商品は売却されて代金が返済に充てられますので、さらに返済条件を交渉することで毎月の返済額を大幅に軽減できることもあります。
保証人の理解が得られた
当初の任意整理で保証人付きの借金を手続きから除外していた場合も、ローン返済中の場合と同じように考えられます。
保証人に事情を話して返済に協力してもらえることになった場合や、保証人も債務整理を決意したような場合は、追加介入することに支障はありません。
実際にも、保証人付きの借金を抱えた方が債務整理をする場合には、保証人も一緒に債務整理をするケースが多くなっています。
任意整理の追加介入ができないケース
以下のようなケースでは任意整理の追加介入はできないか、無理にしたとしても借金問題を解決することはできません。
追加介入しても返済できる見込みがない
そもそも任意整理では、個人再生や自己破産のように借金の大幅な減免は期待できません。
未整理の借入先の件数や返済条件にもよりますが、任意整理後の返済が到底できないという場合は追加介入には向いていないといえます。
当初から任意整理での解決が難しいほど多額の借金を抱えているケースや、任意整理後に何らかの事情で大幅な収入の減少や支出の増加があったケースでは、追加介入でも解決は難しいといえます。
任意整理後の返済を滞納している
任意整理後の返済をすでに滞納している場合も、追加介入で解決することは難しいです。
滞納が2回以上になると、通常は残高に遅延損害金を加えて一括返済することを要求されます。こうなると任意整理そのものに失敗したことになりますので、追加介入だけで解決することはできません。
ただ、すぐに滞納を解消できるのであれば、まだ追加介入を検討する余地はあります。
未整理の借入先が交渉に応じない
任意整理は債権者と交渉して合意することが必要です。そのため、未整理の借入先が交渉に応じない場合は、追加介入ができません。
ごく一部ではありますが、会社の方針として任意整理の交渉に応じない貸金業者や債権回収業者がいます。
基本的には交渉に応じる業者でも、以下のようなケースでは交渉に応じないことがあります。
- 取引期間が短い
- 借りてからほとんど返済していない
- 返済できないことがわかっていながら借りた
交渉に応じてもらえなければ和解ができませんので、他の解決方法を検討する必要があります。
任意整理の追加介入で解決できないときの対処法
追加介入ができない場合でも借金問題を解決する方法はありますので、諦める必要はありません。
以下の対処法の中から、状況に応じて最適な手段を選択することが重要です。
和解済みの債権者と再和解をする
すでに任意整理で和解した債権者とも、再交渉して返済条件を変更できることがあります。このことを「再和解」といいます。
当初の任意整理を自分で行った場合は、不利な条件で和解している可能性が高いです。この場合には、適切な条件で再和解をすることが有効です。
一方で、当初の任意整理を弁護士または司法書士に依頼して最大限に有利な条件で和解している場合は、再和解をしても毎月の返済額を減らすことは難しいです。
それでも、任意整理後に滞納して一括返済を請求されている場合には、再和解で分割払いを再開できる可能性があります。再和解と追加介入を併せて行うことで、任意整理の継続が可能となることもあるでしょう。
個人再生に切り替える
再和解や追加介入で解決できない場合には、個人再生や自己破産に切り替える必要があります。
個人再生とは、裁判所の手続きを利用して借金を原則として5分の1から10分の1にまで減額できる手続きのことです。減額後の借金は3年~5年で分割返済していきます。
任意整理とは異なり、すべての債権者を対象として手続きを行う必要があります。そのため、ローン返済中の商品の引き揚げや保証人への一括返済の請求などのデメリット避けることはできません。
一方で、自己破産とは異なり、ローン返済中のものを除いて財産を処分する必要はありません。一定の条件を満たせば、マイホームを残すことも可能です。
一定程度の安定収入がある方にとって、個人再生には非常に大きなメリットがあります。
自己破産に切り替える
自己破産とは、裁判所の手続きを利用して、一定の条件のもとに借金をすべて帳消しにしてもらうことが可能な手続きのことです。
個人再生と同様に、ローン返済中の商品の引き揚げや保証人への一括返済の請求は避けられません。
その他にも、自己破産をすると高価な財産は処分される、手続き中は一部の職種に就くことができないなどのデメリットもあります。それでも、借金の返済義務がすべて免除されるというメリットは非常に大きいといえます。
多額の借金を抱えて返済できなくなった方は、最終手段として自己破産の申し立ても視野に入れておくとよいでしょう。
任意整理の追加介入は弁護士・司法書士に相談を
任意整理の追加介入を成功させるには、少しでも有利な和解条件を勝ち取ることが極めて重要です。追加介入をしても毎月の返済額があまり減らないのでは、解決につながらないからです。
そのためには、弁護士や司法書士という債務整理の専門家によるサポートが必要不可欠であるといっても過言ではありません。
債務者の方がご自身で債権者と対等に交渉することは困難です。しかし、任意整理に強い弁護士・司法書士は専門的な見地から的確に交渉してくれるので、最大限に有利な条件での和解が期待できます。
任意整理後の返済が厳しいと感じるとき、当初に依頼した弁護士・司法書士に相談すると個人再生や自己破産を勧められるかもしれません。
そんなときでも、任意整理に強い弁護士・司法書士に改めて相談すれば、追加介入で解決できる可能性があります。
まとめ
任意整理後の返済が苦しくなったとき、未整理の借入先があれば追加介入によって任意整理を継続できることもあります。
ただ、そもそも任意整理では借金の大幅な減免は期待できませんので、多額の借金を抱えている場合には他の解決方法を検討した方がよいかもしれません。
借金問題をスムーズに解決するためには、状況に応じて最適な解決方法を選ぶことが重要です。
任意整理をしたのに返済が苦しくなった場合は、債務整理に強い弁護士・司法書士にご相談の上、最適な方法で解決を目指しましょう。