- 任意整理から個人再生への切り替えは条件を満たせば可能
- 個人再生に切り替えれば借金が大幅に軽減される
- 保証人に迷惑がかかることなどの注意点もある
- 債務整理方法を適切に選ぶには専門家への相談が重要
任意整理と個人再生は、どちらも借金を減額した上で分割返済していくという債務整理の手続きです。
任意整理は手続きの負担が比較的軽いものの、借金の減額効果が限定的であるという特徴を持っています。逆に、個人再生には複雑な手続きを要するものの、大幅な借金の減額が可能という特徴があります。
「任意整理に着手したものの、思ったほど借金が減らない」
「任意整理で借金を減らしたけれど、収入が減って返済できなくなった」
このような場合には任意整理から個人再生に切り替えることが可能です。ただし、切り替えるためには一定の条件を満たす必要がありますし、注意点もいくつかあります。
この記事では、任意整理から個人再生への切り替えるために満たすべき条件や注意点、切り替えることで得られるメリット、切り替えた方がよいケースなどについて、わかりやすく解説していきます。
任意整理から個人再生への切り替えは可能か?
任意整理から個人再生へ切り替えることを禁止する法律の規定はありませんので、切り替えは可能です。任意整理手続き中に債権者と和解する前に切り替えることもできますし、和解後の返済中に切り替えることにも問題はありません。
ただし、当然ながら個人再生の利用条件を満たすことが前提となります。また、個人再生への切り替えによってデメリットが生じるケースもあるので、注意が必要です。
任意整理から個人再生への切り替えで得られるメリット
任意整理から個人再生へ切り替えることで得られるメリットは、主に以下の4つです。
返済額を大幅に軽減できる
任意整理よりも個人再生の方が、返済額を大幅に軽減できます。任意整理では基本的に将来利息がカットされるのみで、元金はそのまま残ります。それに対し、個人再生では元金も含めて借金総額が原則的に5分の1(最大で10分の1)にまで減額されます。
借金総額別に、手続き後の返済額を比較すると、以下の表のようになります。
任意整理 | 個人再生 | |
---|---|---|
返済総額 | 300万円 | 100万円 |
毎月の返済額 (36回払い) |
8万3,334円 | 2万7,778円 |
毎月の返済額 (60回払い) |
5万円 | 1万6,667円 |
任意整理 | 個人再生 | |
---|---|---|
返済総額 | 600万円 | 200万円 |
毎月の返済額 (36回払い) |
16万6,667円 | 5万5,556円 |
毎月の返済額 (60回払い) |
10万円 | 3万3,334円 |
任意整理 | 個人再生 | |
---|---|---|
返済総額 | 1500万円 | 300万円 |
毎月の返済額 (36回払い) |
41万6,667円 | 8万3,334円 |
毎月の返済額 (60回払い) |
25万円 | 5万円 |
ただし、任意整理・個人再生とも、状況によっては返済額が異なることがあります。この表の金額は一例として参考になさってください。
強制的に借金が減額される
任意整理では債権者との和解が必要ですが、必ずしも和解できるとは限りません。希望する条件で和解できなければ、思うように借金が減らないことになります。個人再生では、法律上の要件を満たせば裁判所の決定によって強制的に借金が減額されます。
具体的には、両者で以下のような違いがあります。
任意整理 |
|
---|---|
個人再生 |
|
マイホームなどの財産を残すことが可能
個人再生には住宅ローン特則という制度があり、一定の条件を満たせば住宅ローンを返済しながら他の借金のみを整理することができます。住宅ローンの返済を継続すれば競売にかけられることがないので、ローンが残っているマイホームを残すことが可能です。
任意整理でも住宅ローンをそのまま返済し、他の借金のみを整理することは可能です。しかし、個人再生に比べると、返済可能な程度にまで借金を減らせる可能性は低くなります。
差押えを止めることができる
借金の返済を滞納すると、給料や預金口座などを差押えられることがあります。差押えを受けてしまった後では、任意整理をしても差押えを解除してもらうことはできません。
しかし、個人再生を申し立て、開始決定が出れば「強制執行手続停止」を裁判所へ上申することにより、差押えを止めることができます。
任意整理から個人再生に切り替えるために満たすべき条件
任意整理から個人再生への切り替えは禁止されていないとはいえ、個人再生の利用条件を満たさなければ切り替えはできません。切り替えるために満たすべき条件は、主に以下の3つです。
安定収入があること
個人再生は減額後の借金を原則3年、最長5年で継続的に返済していく手続きです。この期間内に完済が可能と認められる程度の安定収入がなければ、個人再生を利用することはできません。
もっとも、個人再生では借金総額が大幅に減額されますので、さほど高額の収入は求められません。
例えば、総額300万円の借金を抱えている場合、任意整理では最低でも毎月5万円は継続的に返済できる程度の安定収入が必要となります。この場合でも、毎月1万6,667円を返済できる程度の安定収入があれば、個人再生への切り替えが可能です。
借金総額が5,000万円以下であること
個人再生を利用できるのは、借金総額が5,000万円以下の場合に限られます。5,000万円を超える借金を抱えている場合には、個人再生への切り替えは認められません。
ただし、ここにいう「5,000万円」に住宅ローンの残高は含まれません。住宅ローン以外の借金総額が5,000万円以下であれば、住宅ローン特則付きの個人再生に切り替えることができます。
個人再生の費用を準備できること
任意整理でも個人再生でも、返済金の他に費用が必要となります。個人再生の方が高額の費用が必要となる傾向にあるため、その費用を準備できない場合は個人再生に切り替えることはできません。
任意整理と個人再生にかかる費用を比較すると、以下の表のようになります。
任意整理 | 個人再生 | |
---|---|---|
裁判所へ納める費用 | 0円 | 3万円前後 |
弁護士費用 | 債権者1社につき5万~10万円程度 | 40万~70万円程度 |
実費 | 数千円 | 数千円 |
履行テストの金額 | 0円 | 12万~25万円程度 |
任意整理から個人再生に切り替えた方がよいケース
任意整理にも、手続きが比較的簡便、費用の負担が軽い、などのメリットがあるので、どのようなケースでも個人再生への切り替えが望ましいというわけではありません。
個人再生に切り替えた方がよいといえるケースは、主に以下の5つの場合です。
借金総額が大きい
借金総額が大きい場合は、任意整理では返済可能な程度にまで減額できない可能性が高くなるため、個人再生へ切り替えた方がよいケースが多くなります。
一般的に、借金総額が300万円程度までであれば、任意整理でも返済可能なケースも少なくありません。しかし、それを超えると任意整理では解決が難しいケースが多くなるでしょう。
借金総額が1,000万円程度になると、任意整理で解決することは現実的でない場合が多いでしょう。借金総額が大きくなればなるほど、個人再生手続きによる減額効果のメリットが大きくなります。
債権者が提示する和解条件が厳しい
近年では、任意整理で債権者が提示する和解条件が厳しくなりつつあります。
- 遅延損害金のカットは認められない
- 短期間での完済(3年以内など)を求められる
- 将来利息も一部要求される(数%~10%など)
このように、以前よりも和解条件を厳しくしている債権者が増えているため、任意整理による借金減額効果はより限定的なものとなりつつあります。
それに対し、個人再生は法律に基づく手続きなので、債権者の意向にかかわらず借金総額を大幅に減額すること可能です。
任意整理後の返済が難しくなった
任意整理の和解後に、収入の減少や支出の増加によって返済が難しくなることもあります。
その場合、任意整理を2回目、3回目と繰り返すことも可能ですが、通常は1回目の任意整理で既に借金を減額しているため、さらに減額することは難しくなります。
しかし、個人再生なら任意整理で和解した後の借金でも減額できるので、完済を目指せるケースが多いです。
マイホームを残したい
住宅ローンが残っているマイホームがある場合、自己破産をすると競売や任意売却によってマイホームを失ってしまうため、任意整理を選択したという方も多いことでしょう。
任意整理によって完済可能である場合は問題ありませんが、任意整理をしても返済が厳しいという場合は、住宅ローン特則付き個人再生に切り替えることが得策です。
個人再生の手続きによって、住宅ローンそのものを強制的にリスケジュールし、毎月の返済の負担を軽減することが可能な場合もあります。
差押えを受けた、または差押えを受けそう
通常、任意整理後の返済を2回以上怠ると債権者から裁判を起こされ、最終的に給料や預金口座などの財産を差押えられます。その場合でも、個人再生に切り替えれば、先ほどもご説明したように裁判所への上申によって差押えを止めることができます。
また、個人再生手続きの開始決定が出た後は新たに差押えを受けることもありません。任意整理後に返済が苦しくなったときは、早めに個人再生への切り替えを検討するとよいでしょう。
任意整理から個人再生に切り替える際に注意すべきこと
任意整理から個人再生への切り替えには、デメリットもあります。事前に以下の点には注意しておきましょう。
複雑な手続きが必要となる
個人再生は債務整理の中でも最も複雑な手続きが必要となるため、自分で行うことは事実上困難であるといえます。
もっとも、弁護士・司法書士に依頼すれば手続きを代行してもらえるので、手間はかかりません。
依頼後の注意点としては、弁護士からの連絡には確実に対応し、打ち合わせや書類の準備を指示された場合には速やかに従うことです。個人再生の手続きでは数多くの書類を提出する必要があり、提出期限に1日でも遅れると手続きに失敗することもあるからです。
保証人に迷惑がかかることがある
個人再生では、すべての債権者を対象として手続きを行う必要があります。任意整理の場合のように、対象とする債権者を自由に選ぶことはできません。強制的に借金が減額される以上、すべての債権者を平等に扱う必要があるからです。
そのため、個人再生では連帯保証人がついている借金も手続きに含めなければなりません。そうすると、連帯保証人が債権者から返済の請求を受けてしまいます。
保証人がいる場合には、個人再生に切り替える前に事情を説明し、理解を得ておくべきです。
官報に掲載される
個人再生を行うと、官報に住所や氏名が掲載されます。この点も、任意整理にはない個人再生のデメリットです。官報とは、政府が発行している日刊紙のようなものです。
もっとも、一般の人が官報を日々チェックすることはまずないので、個人再生をしたことが周りの人に知られることはほとんどありません。
任意整理で支払ったお金は戻ってこない
任意整理の和解後にある程度の金額を返済していたとしても、個人再生への切り替え後にそのお金を取り戻すことはできません。
任意整理から個人再生に切り替えるということは、あくまでもその時点における借金を対象として個人再生を行うということです。任意整理をしなかったことにできるわけではないことに注意が必要です。
そのため、任意整理を弁護士・司法書士に依頼していた場合、個人再生に切り替えるからといって任意整理の依頼費用の返還を受けることもできません。新たに個人再生の依頼費用が必要となります。
ただし、任意整理を依頼した弁護士・司法書士に続けて個人再生を依頼する場合、事務所によっては個人再生の依頼費用を割り引いてくれるところもあります。
ブラックリストへの登録期間が延びる
債務整理をすると、信用情報機関に事故情報が登録され、新たな借り入れやクレジットカードの利用などができなくなります。これが、いわゆるブラックリストと呼ばれるものです。
ただし、事故情報の登録期間は債務整理の種類によって以下のように異なります。
- 個人再生…再生計画案の認可決定の確定から7年
- 自己破産…免責許可決定の確定から7年
- 任意整理…和解後の完済から5年
つまり、任意整理から個人再生に切り替えることによって、ブラックリストへの登録期間が5年から7年に延びることになります。
もっとも、任意整理の場合でも、返済期間が5年だとすると、完済後の5年と合わせて10年間、ブラックリストに登録されることになります。このように、個人再生に切り替えても特段にブラックリストへの登録期間が延びるわけではないケースもあります。
個人再生に切り替えても解決できないときの対処法
状況によっては、任意整理から個人再生に切り替えても解決できない場合もあります。
- 借金総額が大きすぎる
- 高価な財産を所有している
- 収入が少ない、または継続的な安定収入がない
このような場合には、個人再生をしても返済可能な程度にまで借金が減らない可能性があります。
そんなときは、自己破産での解決を検討することになります。自己破産は最終手段ですが、法律で認められた正当な手続きですので、必要に応じて利用すべきです。返済できなくなった借金は放置せず、適切な方法で解決して経済生活を立て直すことが大切です。
債務整理の方法で迷ったときは弁護士・司法書士に相談を
任意整理から個人再生への切り替えを検討する場合、任意整理後の事情の変化によって返済が難しくなった場合もあれば、当初から任意整理では解決することが難しかった場合もあることでしょう。
借金問題を解決するためには、債務整理の方法を適切に選び、正しく手続きを行うことが重要です。そのためには、弁護士または司法書士といった法律の専門家に相談することを強くおすすめします。
専門家に相談することで得られるメリットは、以下のとおりです。
- 状況に応じて最適な債務整理の方法を勧めてもらえる
- 依頼すれば債権者からの取り立てや督促を止めてもらえる
- 債務整理の複雑な手続きをすべて任せることができる
- 正確に手続きを行ってもらえるので、債務整理に成功しやすい
まとめ
任意整理から個人再生への切り替えは一般的に可能ですが、条件を満たすかどうか、どのようなデメリットがあるのかを事前に確認する必要があります。そのためには専門的な知識も要求されますので、法律の専門家である弁護士または司法書士に相談するのが得策です。
専門家のサポート受けて、より適切な形で借金問題を解決してしまいましょう。