- 個人再生には「住宅資金特別条項」という制度がある(通称 住宅ローン特則)
- 住宅ローン特則とは住宅ローンを払いながら他の借金を減額する制度である
- 住宅ローン特則を利用すると個人再生をしてもマイホームを残せる
- オーバーローンの場合は住宅ローン特則を利用するメリットが大きい
個人再生は、裁判所の手続きによって借金総額を大幅に減らすことが可能でありながら、手元の財産を処分する必要がないという、メリットの大きい債務整理の方法です。
しかし、裁判所を介する以上は債権者を平等に扱う必要があるため、住宅ローンも整理対象となりマイホームを失うことになってしまいます。
しかし、「住宅ローン特則」を利用すればマイホームを手放さずに借金を整理することが可能です。
この記事では、以下の3点をわかりやすく解説します。
- 住宅ローン特則とはどのような制度なのか
- どのような条件を満たせば住宅ローン特則を利用できるのか
- 住宅ローン特則を利用できない場合の対処法
個人再生をすると住宅ローンはどうなる?
個人再生は、裁判所の手続きによって借金を大幅に減額する手続きです。住宅ローンも借金の一種なので個人再生の対象になります。
そのため、個人再生をすると住宅ローンも大幅に減額されますが、その代わりにマイホームは失ってしまいます。
ローンを組む場合は抵当権が設定されます。そしてローンを払えない場合には抵当権が実行され、マイホームが競売にかけられます。
住宅ローン特則を利用すればマイホームを残せる
住宅ローンであっても特別扱いはしないという原則を貫くと、住宅ローンを返済中の人が個人再生を申し立てると厳しい結果となってしまいます。
そこで、「住宅資金特別条項」という制度を設けて、住宅ローンを他の借金とは区別して特別扱いすることを認めています。この条項の事を「住宅ローン特則」とも呼びます。
住宅ローンのみについて特別扱いが認められる理由は以下のとおりです。
- 実質的には家賃と同様に生活を維持するために必要な経費といえること
- 住宅ローン残高が大きい場合はマイホームの資産価値が小さいこと
この2つの理由から、住宅ローンのみは再生手続き開始後も従来どおりの返済を継続しても不当ではないと考えられているのです。
住宅ローン特則は、個人再生手続きにおいて住宅ローンのみは減額対象とせず、従来どおりに返済することを認める制度といえます。つまり、住宅ローンの減額をしない代わりにマイホームを残せるということになります。
個人再生で住宅ローン特則を利用できる条件とは
住宅ローン特則は、マイホームを手放さずに他の借金のみを整理できるという大きなメリットがある制度ですが、どのような場合でも利用できるわけではありません。
住宅ローン特則を利用するための主な条件は、以下のとおりです。
- 個人再生そのものの利用条件を満たしていること
- 住宅の購入・建設・改良のためのローンであること
- 本人が所有している住宅であること
- 本人が住むための住宅であること
- 床面積の半分以上が居住用であること
- 住宅ローンの抵当権以外の担保がついていないこと
- 保証会社による代位弁済後6か月が経過していないこと
それぞれ詳しく解説します。
個人再生そのものの利用条件を満たしていること
住宅ローン特則は個人再生手続きの特則ですので、当然ながら個人再生そのものの利用条件を満たしていなければなりません。
個人再生を利用できる条件は、以下の3つです。
- 個人名義の借金であること
- 将来的に継続または反復して収入が見込めること
- 住宅ローン以外の借金総額が5,000万円以下であること
住宅の購入・建設・改良のためのローンであること
この特則にいう「住宅ローン」(住宅資金貸付債権)は、実質的に家賃と同じでなければならないため、次の条件すべて満たしている必要があります。
- 住宅の購入・建設・改良のためのローンであること
- 分割払いで返済していること
- 担保としてマイホームに抵当権が設定されていること
リフォームローンも定義上は住宅資金貸付債権に該当しますが、そのローンを担保するための抵当権が設定されていない場合は、住宅ローン特則は利用できません。
なお、住宅ローンの借り換えをしている場合、借り換え後のローンは厳密にいうと上記の条件を満たしていませんが、実質的には元の住宅ローンと同視できますので、住宅ローン特則を利用できます。
本人が所有している住宅であること
個人再生は債務者本人の経済生活の再生を図るための手続きですので、住宅ローン特則の対象となる住宅は本人が所有しているものに限られます。
住宅ローンの名義が本人であっても、住宅が親や子どもなど他人名義の場合は、住宅ローン特則は利用できません。
夫婦でペアローンを組み、住宅も夫婦共有としている場合に住宅ローン特則を利用するには、夫婦双方がそれぞれ個人再生を申し立てる必要があります。
本人が住むための住宅であること
住宅ローン特則は債務者本人の生活を維持するための制度ですので、対象となる住宅は本人が居住するためのものに限られます。別荘や貸出中の投資用物件は、この特則の対象にはなりません。
単身赴任で自宅に住んでいなくとも、将来的にその住宅に戻ってくる予定がある場合は、住宅ローン特則を利用できます。
床面積の半分以上が居住用であること
この特則にいう「住宅」は、必ずしも債務者本人専用の住居である必要はなく、以下の場合でも特則を利用できる可能性があります。
- 店舗兼住宅の場合
- 二世帯住宅の場合
- 一部を第三者に賃貸している場合
ただし、これらの場合は床面積の2分の1以上が債務者本人およびその家族の居住スペースでなければ、住宅ローン特則は利用できません。
住宅ローンの抵当権以外の担保がついていないこと
債務者のマイホームに住宅ローンの抵当権以外の担保がついている場合は、住宅ローン特則の利用が認められません。
例えば、債務者の事業資金の借入の担保としてマイホームに後順位の抵当権が設定されているような場合です。
このような場合に個人再生を申し立てると、事業資金の債権者が抵当権を実行してマイホームを競売にかけられてしまいます。
住宅ローン特則によってマイホームを守ることができないため、利用の対象外とされているのです。
保証会社による代位弁済後6か月が経過していないこと
住宅ローンを滞納して、保証会社が債務者に代わって代位弁済をした後は、住宅ローン特則を利用できなくなるのが原則です(民事再生法第198条1項)。
しかし、例外として代位弁済が行われた日から6か月以内に個人再生を申し立てた場合に限り、住宅ローン特則の利用が認められています(同条2項)。
この場合、保証会社による代位弁済はなかったものとみなされますので、元の債権者を相手とする住宅資金特別条項を定めることになります。このことを「住宅ローンの巻き戻し」といいます。
利用条件を満たしていても住宅ローン特則を利用できないケース
住宅ローン特則の利用条件をすべて満たしていても、ケースによっては特則を利用できない場合があります。
以下のケースに該当する場合は、要注意といえます。
- 税金を滞納している場合
- マンションの管理費を滞納している場合
- アンダーローンとなっている場合
それぞれ詳しく解説します。
税金を滞納している場合
税金を滞納している場合、税金の徴収義務者は滞納処分として裁判不要で滞納者の住宅を差し押さえることが可能です。
滞納処分としての差押えは一般の債権者による差押えとは異なり、個人再生の開始決定後も中止されません。
この場合、住宅に他の抵当権がついている場合と同じように、債務者は住宅の所有権を失う可能性がありますので、原則として住宅ローン特則を利用することはできません。
住宅ローン特則を利用するには、先に税金の滞納を解消してから個人再生を申し立てる必要があります。
マンションの管理費を滞納している場合
住宅ローンでマンションを購入した場合で、マンションの管理費を滞納している場合も注意が必要です。
マンションの管理費は、そのマンションの共益費用に当たりますので、管理組合は管理費の回収について「先取特権」を有することになります(民法第306条1号)。
先取特権とは、債務者の財産から他の債権者よりも優先的に支払を受けることができる権利のことです。
したがって、この場合も住宅に他の抵当権がついている場合と同じように、住宅ローン特則を利用することはできません。やはり、申立前に管理費の滞納を解消しておくことが必要となります。
アンダーローンとなっている場合
住宅ローンの残高が住宅の評価額を下回っている状態のことを「アンダーローン」といいますが、この場合に住宅ローン特則を利用すると、個人再生による返済額が増えてしまう可能性があります。
なぜなら、個人再生には「清算価値保障の原則」といって、保有資産の総額に相当する金額以上を返済しなければならないという決まりがあるからです。
例えば、住宅ローンの残高が2,000万円で住宅の評価額が2,500万円の場合、差額の500万円は清算価値に加えられます。
この場合、個人再生による返済額は最低でも500万円以上となります。もし、差額が1,000万円であれば最低1,000万円以上を返済しなければなりません。差額次第では、実際上、住宅ローン特則を利用できないこともあるでしょう。
逆に、住宅ローンの残高が住宅の評価額を上回っている状態のことを「オーバーローン」といいます。オーバーローンの場合は清算価値に加える評価額はゼロとなりますので、住宅ローン特則を利用するメリットが大きいといえます。
個人再生で住宅ローン特則を利用した場合の返済方法5つ
住宅ローン特則つき個人再生を申し立てた場合は、再生計画案を提出する際に今後どのようにして住宅ローンを返済していくのかを「住宅資金特別条項」として定めることになります。
その定め方には、以下の5つのパターンがあります。
- 正常返済型
- 期限の利益回復型
- リスケジュール型
- 元本猶予期間併用型
- 合意型
それぞれ詳しく解説します。
正常返済型
個人再生後も従来の返済方法を変更することなく、当初の約定どおりに返済を続けるパターンを「正常返済型」といいます。最も手続きが簡単なパターンですので、住宅ローンに滞納がないケースの大半でこのパターンが用いられています。
再生計画案の認可を受ける時点で滞納がある場合は、他のパターンを選択する必要があります。
期限の利益回復型
住宅ローンを滞納してすでに一括返済を請求されている場合は、「期限の利益回復型」を選択することになります。期限の利益とは、債務の返済期限までは返済をしなくてよいという利益のことですが、わかりやすくいと、分割払いを認めてもらう利益ともいえます。
滞納を続けると、期限の利益を失って一括返済を請求されます。しかし、その場合でも住宅ローン特則の効果によって期限の利益を回復し、再び分割払いが認められるようになるのです。
滞納した元金と遅延損害金については、再生計画案の認可決定後に3年~5年で分割返済することになります。
リスケジュール型
上記2つのパターンでは返済が難しい場合には、「リスケジュール型」によって住宅ローンの返済期間の延長が認められます。それによって、毎月の返済額を減らすことができます。
延長できる期間は最大10年まで、または債務者が70歳になるまでです。その間に利息と遅延損害金も含めて住宅ローン全額を返済する必要があります。完済時期が70歳を超えるようなリスケジュールは認められません。
元本猶予期間併用型
リスケジュール型でも住宅ローンの返済が難しい場合に利用できるのが「元本猶予期間併用型」というパターンです。
このパターンでは、リスケジュール型を基本としつつ、再生計画案認可決定後の一定期間は住宅ローンの元金の全部または一部の返済猶予が認められます。猶予期間は3年~5年とされています。
猶予期間中にも利息の支払は必要です。
合意型
最後のパターンとして、債権者との協議によって合意ができれば返済方法を自由に定めることが可能な「合意型」というものもあります。
ただ、債権者と協議をしても、住宅ローンの元金を減額してもらえることはまずありません。実務上、合意型として採用されることが多いのは以下のようなケースです。
- 返済期間の延長
- 毎月の返済額を当初は低く設定し、段階的に引き上げていく
- ボーナス払いを均等払いに変更する
- 均等払いをボーナス払いに変更する
- 金利の見直し
滞納がない場合でも、債権者と合意できれば返済方法を変更できますので、交渉してみるのもよいでしょう。
個人再生の住宅ローン特則を利用できないときの対処法
住宅ローンを抱えて個人再生の申立てを検討したものの、残念ながら住宅ローン特則を利用できないという方もいることでしょう。
そんな方は、以下の対処法を検討してみましょう。
借入先に相談してリスケジュールをする
どの金融機関でも、「お客様相談窓口」を設けて、返済が難しくなった人からの相談を受け付けています。事情を伝えて相談すれば、以下の措置に応じてくれることもあります。
- 返済期間の延長(リスケジュール)
- 元金の一時返済猶予
これらの措置によって、返済の継続が可能となることもあるでしょう。早期に相談した方が、柔軟な措置に応じてくれる可能性が高くなります。住宅ローンの返済が厳しくなったら、滞納を放置せず、早めに借入先の金融機関に相談しましょう。
住宅ローンの借り換えをする
現在契約している住宅ローンよりも金利の低い金融機関で借り換えができれば、総返済額が減りますし、毎月の返済額を減らすこともできます。最近ではネット銀行などで低金利の借り換え商品が提供されていますので、金利に注目して商品を探してみるとよいでしょう。
ただし、借り換えの際には手数料がかかりますので、トータルで見て返済額が減るかどうかを確認することも重要です。
任意整理をする
住宅ローン以外にも借金を抱えている場合は、他の借金を任意整理することも考えられます。
個人再生の場合ほど借金の大幅な減額は期待できませんが、毎月の借金の返済額を減らすことで住宅ローンの返済が楽になることもあるでしょう。
アンダーローンの場合は任意売却をする
任意整理でも借金問題を解決できない場合、生活を維持するためにはマイホームを手放すことも考えた方がよいでしょう。
アンダーローンの場合は、任意売却をすれば余剰金が出ますので、売却価格次第では余剰金で借金問題を解決できる場合もあります。
任意売却とは、住宅ローンの借入先の金融機関から競売にかけられる前に、同意を得て住宅を売却することをいいます。
一般的に競売よりも任意売却の方が高く売れますので、金融機関も通常は同意してくれます。
どうしても支払えないときは自己破産
オーバーローンの場合は、マイホームを売却しても借金だけが残ることになります。どうしても借金を返済しきれないときは、自己破産の申立ても視野に入れましょう。
自己破産とは、裁判所の手続きによってすべての債務を免除してもらう手続きのことです。マイホームを残すことはできませんが、住宅ローンも含めてすべての借金から解放されますので、一から経済生活をやり直すことができます。
自己破産後も、個人再生の場合と同じように免責決定が確定した日から5年~10年が経過すると、住宅ローンを組むことも可能になります。
借金問題を解決する最終手段として、自己破産も視野に入れておきましょう。
個人再生後は住宅ローンを組めなくなる?
ここまでは住宅ローンを抱えて個人再生の申立てを考えている方に向けて解説してきましたが、なかにはこれから住宅ローンを組みたいという方もいることでしょう。
個人再生後はすぐに住宅ローンを組むのは難しいですが、5年から10年で組めるようになります。
7年程度が経過すれば組むことも可能
個人再生をすると7年程度はブラックリストに登録されてしまうので、その間は住宅ローンは組めなくなります。
ブラックリストとは、個人信用情報機関に金融に関する事故情報が登録された状態のことですので、ローンの審査に通りません。
申し込み前に信用情報を確認する
事故情報が削除されると住宅ローンを組めるようになりますが、実際に申し込む前には本当に削除されているかどうかを確認することが大切です。
なぜなら、7年が経過したと思っても、タイミングや手違いによって事故情報が残っているケースもあるからです。
事故情報が残っている状態で申し込むと審査で落とされますが、その事実も個人信用情報期間に登録されます。そのため、次に申し込んだ際の審査でさらに不利になってしまいます。
信用情報を確認する方法は、各信用情報機関で「情報開示制度」が設けられていますので、所定の手順に従って手続きをしましょう。
頭金や連帯保証人を準備する
事故情報が削除されたとしても、住宅ローンの審査に確実に通るわけではありません。事故情報が削除された後の信用情報は真っ白になっているため、金融機関が警戒しますので、ブラックリストに登録されたことがない人よりは不利になります。
そこで、審査に通る可能性を上げるためには、その他の条件を良くしておくことが大切です。
収入を上げたり、勤続年数を長くすることも有効ですが、これらはすぐにできることではないでしょう。確実にできる準備としては、次の2点が考えられます。
- 頭金をできる限り多く貯める
- 信用情報が良好な連帯保証人を用意する
申込先の金融機関から「信用できる」と判断されればされるほど審査で有利になりますので、可能な限り準備を進めておきましょう。
まとめ
住宅ローン特則を利用すると、マイホームを手放さずに他の借金を軽減できます。利用条件を満たす人にとっては、非常に大きなメリットのある制度といえます。
しかし、個人再生は債務整理の中でも手続きが複雑な上に、住宅ローン特則をつける場合にはさらに複雑になります。そのため、裁判所に申し立てる際には、法律の専門家である弁護士・司法書士に依頼することを強くおすすめします。
弁護士に依頼すれば、債権者からの催促はすぐに止まりますし、申立て手続きや再生計画案の作成、住宅ローンの債権者との交渉など、全面的にサポートが受けられます。ひとりで悩まず、弁護士・司法書士の力を借りて、住宅ローン特則つき個人再生を成功させましょう。