- 義兄弟や親戚からの借金は借用書がなくても返済義務がある
- 親族からの借金を返せないと、貸金業者よりも厳しい催促を受けることがある
- 親族からの借金を債務整理で解決する時には配慮が必要である
義理の兄弟や親子など、親族はいわば身内ですので、いざというときに頼りになる存在です。そのため、お金に困って親族に借金をしている方もいらっしゃるでしょう。
毎月しっかり返済ができていれば問題ありませんが、いざ返済が滞ると、例え親族であっても黙って待っていてくれる人は稀です。
貸金業者の融資と違って個人間融資では、借金の不払いは「不信」や「怒り」が増幅して感情的になって揉め事に発展する可能性が高いです。例え親族であってもです。
この記事では、親族からの借金を返せない時に、深刻なトラブルになる前に解決する方法をご紹介します。
義兄弟・親戚など親族からの借金の返済義務
義理の兄弟や親子などの親戚をはじめとして、親族からの個人的な借金であっても、貸金業者からの借金と同様に、消費貸借契約に基づく返済義務を負います。
個人間の消費貸借契約では、以下のポイントに注意が必要です。
契約の成否 | 返す約束のもとに借りると口約束でも契約が成立する。 |
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返済期限 | 当事者で自由に決められる。決めていない場合は貸主が請求した時に返済しなければならない。 |
利息 | 約束していなければ支払い義務なし。 |
遅延損害金 | 約束していなくても貸主は請求できる。 利率は年3%(2020年3月以前に契約が成立した場合は年5%)。 |
親族からの借金を返せない場合に生じるリスク
親族からお金を借りた人は、「すぐに返せなくても大きな問題にはならないだろう」と油断しがちです。
しかし、いつまでも返せなければ以下のリスクが生じるおそれがあるので、軽く考えることはできません。
- 人間関係が悪化する
- 催促や取り立てが貸金業者より厳しいことがある
- 借用書がないと返済額や返済方法でもめやすい
- 法的措置をとられることもある
- 贈与税がかかることがある
人間関係が悪化する
お金を貸した側は厚意で貸したとしても、「いつ返してもらえるのか」「きちんと返してくれるのか」と、常に気になっているものです。
返済できなければ、表立って悪態をつかれなくても、相手の感情を害してしまうことは間違いありません。そうなると、親戚付き合いを円満に続けることは難しくなってしまうでしょう。
それだけでなく、「○○さんは借りたお金を返さない」という噂が親戚中に広まり、孤立してしまうおそれもあります。
催促や取り立てが貸金業者より厳しいことがある
個人間の借金の返済が遅れると、貸金業者よりも厳しい取り立てを受けることがあります。
貸金業者の取り立て方法は貸金業法で規制されていますが、個人間の借金には貸金業法が適用されないためです。そもそも、個人的にお金を貸した人は貸金業法上のルールを知らないことが多いでしょう。
例えば、貸金業者が次のような取り立てをすることは、正当な理由がない限り、貸金業法で禁止されています。
- 午後9時から翌朝8時までの間に電話や訪問で催促すること
- 職場に連絡して催促すること
- 自宅などに返済を迫る内容の貼り紙をすること
- 家族などの第三者に返済を要求すること
個人間の借金では、このような取り立て行為も刑法など別の法律に触れない程度であれば、禁止されていません。そのため、「夜遅くに電話しないでください」、「職場には電話してこないでください」などと抗議しても、正当性が認められないことがあります。
借用書がないと返済額や返済方法でもめやすい
親族など個人間の借金では、借用書を交わしていないことも多いでしょう。それがトラブルにつながることも多々あります。よくあるトラブルとして、次のようなことが挙げられます。
- 何度も貸し借りをしているうちに残高が分かりにくくなる
- 借入額より多い金額の返済を要求される
- 利息の約束をしていないのに利息を要求される
- 「今すぐ返せ」と迫られる
- 「他の人から借りてでも返せ」と強要される
借用書を作ったとしても、当事者双方が法律の素人であるため記載事項に不備があることが多く、トラブルが生じがちです。
法的措置をとられることもある
親族からの借金でも、返せなければ裁判を起こされ、給料や預金口座などの財産を差し押さえられる可能性があります。
特に、借入額が大きい場合は相手が弁護士や司法書士に依頼して、法的措置をとってくることも珍しくありません。
給料や預金口座を差し押さえられてしまうと、生活に窮するようになったり、勤務先に借金のことがバレて職場にいづらくなってしまうおそれもあるでしょう。
贈与税がかかることがある
親族間のお金の貸し借りで、贈与税が発生することもあります。基本的には借金で贈与税が発生することはありませんが、次の2つの場合は注意が必要です。
- 返済しないことで、残高が贈与されたものとみなされる
- 無利息の借金で、利息に相当する部分が贈与とみなされる
ただし、利益を受けた額が年間110万円以内であれば、贈与税はかかりません。したがって、贈与税を課せられるおそれがあるのは、以下のケースとなります
- 借金を返済しなかった場合で、借金額が110万円超
- 借金を返済した、かつ利息を払っていない場合で、年利15%として計算した利息が110万円超
利息制限法の上限金利は、借入額が100万円超える場合は年15%です。残高が約740万円以上の借金を1年間返済しなければ、利息が110万円を超えます。
なお、贈与税が課せられた場合、納税義務を負うのは借主ではなく親族である貸主です。貸主に納税義務が課せられると、その分を利息や遅延損害金として要求されたりして、トラブルにつながることもあるでしょう。
親族からの借金を返せない時の対処法
親族からの借金を返せないと思っても、無断で踏み倒すことはおすすめできません。親戚付き合いは終生続くので、できる限り穏便に解決した方がよいでしょう。
そのための対処法は、以下のとおりです。
- 他の親族から借りる場合は慎重に
- 誠実に話し合う
- 債務整理をする
他の親族から借りる場合は慎重に
まずは、現在抱えている借金を、他の親族からの借入で返済することが考えられます。
例えば、義理の兄弟や親子などからの借金を返せない場合に、実の兄弟や親子や、より理解のある親戚から借りて返済できれば、トラブルをいったん解消することができるでしょう。
ただし、新たに借りたお金を返せない場合には、再びトラブルに発展するおそれがあります。実の兄弟や親・子どもからの借金で、骨肉の争いが生じるのも珍しいことではありません。
返済の目処が立たない場合は、援助してもらえるのであれば頼るのもよいですが、借入は控えた方がよいかもしれません。少なくとも、いつまで返済を待ってもらえるのかなどを十分に話し合って、慎重に借りるようにすべきです。
誠実に話し合う
他から借りて返済する目処が立たない場合は、相手と誠実に話し合うべきでしょう。無断で踏み倒そうとしたり、「返す」と言いながらいつまでも返さないのでは、相手が業を煮やすのも無理はありません。
すぐには返せない事情を正直に伝えて、いつまでにいくらなら確実に返せるのかを提案し、話し合いましょう。
合意ができたら、改めて借用書を作成し、取り決めた内容を記載しておけば、相手も安心する可能性が高いです。このように、現在抱えている借金について、返済額や返済方法を改めて取り決める契約のことを「準消費貸借契約」といいます。
ただし、返済の目処が立っていない場合は、その場しのぎで準消費貸借契約を結ぶことはおすすめできません。それでは、トラブルの解決を先延ばしにするだけです。どうしても返せないのなら、その理由を伝えて債務の減免をお願いした方がよいでしょう。
債務整理をする
以上の方法で解決できない場合は、債務整理を検討しましょう。
債務整理とは、法律に定められた方法で正当に借金を減免できる救済措置のことです。親族間など個人間の借金も、債務整理の対象となります。
債務整理には、主に次の3種類の手続きがあります。
任意整理 | 債権者と直接交渉し、返済額や返済方法を決め直す手続き。 利息をカットし、元本を3~5年の分割で返済するのが一般的。 |
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個人再生 | 裁判所の手続きを利用して借金総額を大幅に減額できる手続き。 借金総額を5分の1~10分の1に減額できることが多く、減額後の借金は3~5年の分割で返済する。 |
自己破産 | 裁判所の手続きを利用して借金を全額免除してもらうことが可能な手続き。 |
任意整理では相手との話し合いが必要ですが、弁護士や司法書士を間に入れて冷静に話し合えば、合意できる可能性が高まります。
個人再生と自己破産では、一定の条件を満たせば、裁判所の決定により強制的に借金が減免されます。
親族からの借金で債務整理をする時の注意点
親族からの借金で債務整理をする場合は、以下の点に注意が必要です。
- 債務整理をする前に事情を話すこと
- 親族からの借金のみを優先的に返済してはいけない
- 親族が債務整理に協力するとは限らない
債務整理をする前に事情を話すこと
まずは、債務整理に踏み切る前に、相手に事情を話すことが大切です。
いきなり債務整理をすると、相手に対して突然、裁判所や弁護士・司法書士から通知が届いてしまいます。その場合、相手は衝撃を受けるでしょうし、「自分が貸したお金はどうなるんだ」と詰め寄られ、トラブルが激化するおそれもあります。
債務整理をスムーズに進めるためにも、次のようなことを誠実に伝えて、理解を求めるようにしましょう。
- このままではどうしても借金を返せない事情
- どのような手続きを行うのか
- その結果、借金はどうなるのか
- 借金を処理するためには、こうするしかないということ
親族からの借金のみを優先的に返済してはいけない
自己破産または個人再生をする場合、申し立て前に貸金業者への返済をストップし、親族からの借金のみを優先的に返済する人がいますが、これはやってはいけないことです。
なぜなら、裁判所の手続きを利用する債務整理では、「債権者平等の原則」に従う必要があるからです。返済するのであればすべての債権者に返済し、返済しないのであればどの債権者にも返済しない、という対応が必要となります。
申し立て前に一部の債権者にのみ優先的に返済することを「偏頗弁済」といいます。偏頗弁済をすると、自己破産や個人再生の手続きに支障をきたすことがあるのです。
具体的には、自己破産では偏頗弁済が「免責不許可事由」に該当します。そのため、自己破産を申し立てても、原則として借金が一切免除されなくなります。
個人再生では、偏頗弁済した金額が保有資産の額に加算されます。
個人再生を申し立てれば、借金総額が500万円以下なら返済総額を100万円にまで減らすことが可能です。しかし、保有資産の総額が100万円を超える場合には、保有資産の総額に相当する金額を返済しなければなりません。このことを「清算価値保障の原則」といいます。
例えば、保有資産がほとんどない場合でも、200万円を偏頗弁済していると、個人再生によって最低200万円以上を返済しなければなりません。個人再生による返済は原則3年なので、毎月約5万6,000円程度の返済が必要となってしまいます。
親族が債務整理に協力するとは限らない
貸金業者は債務整理の仕組みを理解しているので、債務整理に協力してくれることがほとんどです。しかし、親族など個人の債権者は、スムーズに協力してくれるとは限りません。
ビジネスとして融資している貸金業者とは異なり、個人の債権者は、なけなしのお金を厚意で貸していることがほとんどです。貸金業者のように損金処理で損失を抑えることもできません。そのため、あくまでも返済を迫られるケースが少なくありません。
親族が債務整理に協力してくれなければ、債務整理で次のような支障が生じることがあります。
任意整理 | 交渉に応じてもらえない。 応じてもらえたとしても、厳しい条件を要求される。 |
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個人再生 | 小規模個人再生の場合は反対意見を裁判所に提出される。 反対意見が多数の場合は、借金の減額が認められない。 |
自己破産 | 免責に対する反対意見を裁判所に提出される。 免責不許可事由に該当しなければ最終的に借金が免除されるが、手続きが複雑化する。 |
債務整理による親族とのトラブルを回避する方法
- 貸金業者からの借金のみを任意整理する
- 債務整理後に自主的に返済する
親族とのトラブルを回避して債務整理を成功させるためには、以下の方法が有効です。
貸金業者からの借金のみを任意整理する
任意整理では「債権者平等の原則」が適用されないため、手続きの対象とする債権者を自由に選べます。そのため、貸金業者からの借金のみを整理し、親族からの借金は約束どおりに返済することも認められます。
貸金業者への返済の負担を任意整理で軽減すれば、親族からの借金を返済しやすくなるでしょう。
弁護士・司法書士に任意整理を依頼した場合には、受任通知の送付によって貸金業者への返済がいったんストップします。その後、和解が成立するまでには一般的に3ヶ月程度は要するので、その間に親族からの借金を完済できるケースもあるでしょう。
債務整理後に自主的に返済する
自己破産または個人再生をした場合は、親族からの借金も強制的に減免されます。しかし、手続き終了後は、減免された借金を自主的に返済することも認められます。
法律上、自己破産・個人再生で減免された借金は「自然債務」となります。自然債務とは、債権者からの返済請求権は認められないものの、債務者が自主的に支払うのであれば債権者が弁済を受領できる債務のことです。
自己破産または個人再生をする場合には、事前に貸主に対して、手続き終了後に少しずつ返済する旨を伝えておきましょう。そうすることで貸主の理解が得られやすくなり、自己破産・個人再生の手続きをスムーズに進めやすくなります。
親族との借金問題の解決を弁護士・司法書士に依頼するメリット
親族との借金問題で困ったら、弁護士または司法書士という法律の専門家に解決を依頼することで、次のようなメリットが得られます。
- 最善の解決方法をアドバイスしてもらえる
- 任意整理では論理的に交渉してもらえるので、適切な条件で和解が成立しやすい
- 自己破産、個人再生では事前に的確な説明をしてもらえるので、貸主の理解が得られやすい
- 複雑な手続きを一任できるので、債務整理に成功しやすい
- 受任通知の送付により、債権者からの督促と返済がいったん止まる
- 債務整理でやるべきこと、やってはいけないことが分かる
メリットをひと言にまとめると、借金問題を適切に処理することで、良好な親族関係を保つことができます。親族との借金問題の解決を弁護士・司法書士に依頼するメリットは、大きいといえるでしょう。
まとめ
親族からの借金も返済義務があるので、返せない場合は債務整理も視野に入れて、適切な解決を図るべきです。
ただ、親族など個人の債権者は貸金業者とは異なり、感情的な問題も絡むことから、債務整理では特別な配慮を要することも多いです。そんなときは、弁護士・司法書士を間に入れることで、スムーズに手続きを進めやすくなります。
借金問題を放置すると、親族間の人間関係が悪化するおそれが大いにあります。感情的にいがみ合っても借金問題は解決しませんので、弁護士・司法書士の力を借りて対処することをおすすめします。