- ボーイズバーの売掛営業の手口は悪質化しており、社会問題となっている
- 売掛営業が違法となり、支払い義務がないケースもある
- 売掛金が払えないときは弁護士を通じて減額交渉もできる
- 債務整理をすればボーイズバーの売掛金も整理できる
ボーイズバーはホストクラブよりも低料金で遊べる店ですが、それでも多額の売掛金(ツケの代金)を作ってしまい、払えなくなる女性が少なくありません。
売掛金は基本的に支払わなければなりませんが、中にはボーイズバーの売掛営業が違法であり、支払い義務がないケースもあります。
昨今、ホストクラブやボーイズバーにおける悪質な営業手法が社会問題化していますので、支払い義務の有無はきちんと確認した方がよいでしょう。
この記事では、ボーイズバーの売掛営業の手口や売掛金の支払い義務がないケースについて解説した上で、売掛金が支払えないときの対処法も紹介します。
ボーイズバーとは
まずは、ボーイズバーがどのような店なのかを確認しておきましょう。
ボーイズバーの特徴
ボーイズバーとは、男性従業員のみが接客するバーのことです。バーとは、カウンター越しにお酒などを提供し、接客する飲食店のことをいいます。
普通のバーと比べて、ボーイズバーの雰囲気はカジュアルで、スタッフ(キャスト)による接客が積極的で親密という特徴があります。
それでいて、ホストクラブのように濃密な接待はなく、ホストクラブよりも低料金で遊べることも特徴的です。
ホストクラブとの違い
ボーイズバーとホストクラブは同じようなものと考えている人も多いですが、両者には次のような違いがあります。
ボーイズバー | ホストクラブ | |
---|---|---|
風俗営業法 | なし(深夜酒類提供飲食店営業) | 適用 |
営業時間 | 制限なし | 原則24時まで |
接客スタイル | カウンター越しで会話 | ボックス席でつきっきりの接待 |
指名制度 | 基本的にはなし | あり |
料金設定 | 比較的低額 | 高額 |
ボーイズバーには「接待」がないのに対して、ホストクラブには「接待」があると点が大きく違います。
風俗営業法上の接待とは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」と定義されています。分かりやすくいうと、担当ホストがボックス席で特定の客につきっきりでサービスをする接客スタイルのことです。
それに対して、ボーイズバーには風俗営業法が適用されないため、接待はできません。したがって、担当のスタッフが特定の客にだけ専念してサービスを提供することはありません。
ボーイズバーの料金の相場
ボーイズバーの料金は、1時間当たり1,000~2,000円程度、フリータイムでは3,000円~4,000円程度のところが多いです。
チャージ料やサービス料が別途かかるところもありますが、ホストクラブよりはかなり低料金となっています。
ホストクラブでも、初回のセット料金はボーイズバーとさほど変わらないところもありますが、ホストを指名すると3,000円程度の指名料がかかります。
さらに、飲食物の価格も高いことがあり、ボトル1本で数十万円~数百万円がかかることもあります。そのため、遊び方によっては一晩で100万円以上を使うことも少なくありません。
ボーイズバーの売掛金とは
次に、ボーイズバーの売掛金の仕組みを確認しておきましょう。
そもそも売掛金とは
そもそも売掛金とは、商品の販売やサービスの提供と同時に代金をやりとりするのではなく、あとで代金を回収する仕組みのことです。
いわゆる「ツケ」や「カケ」で飲食やサービスの提供を受けたときに発生するのが売掛金です。
売った側には代金を回収するまで売掛金という債権が生じ、買った側には買掛金という債務が残ることになります。
基本的には店に対する債務
ボーイズバーにおいてツケで遊んだ場合、売掛金は基本的にスタッフではなく、店に対する債務となります。なぜなら、ボーイズバーのスタッフはほとんどの場合、店に時給で雇用されている従業員に過ぎないからです。
店が売掛をする場合は、回収できなくなることを恐れて、あまり多額の売掛は認めない傾向にあります。
それに対してホストクラブのスタッフ(ホスト)の多くは、完全歩合制の個人事業主です。ホスト個人が売り上げたお金の中から一部を店に納める形で働いています。
そのため、ホストクラブにおいてツケで遊んだ場合は、売掛金は店ではなくホストに対する債務となることがほとんどです。ただし、ボーイズバーのスタッフの中にも「時給+一部歩合制」で働いている人がいます。
そんなスタッフから勧められて売掛をした場合には、ホストクラブと同様に売掛金がスタッフ個人に対する債務となることもあります。
ツケを勧めてくる場合には、売上げを増やそうとして高額の売掛を持ちかけてくることも多いので、注意が必要です。
スタッフが店に立て替え払いをすることもある
ボーイズバーでも、スタッフが客の代金を店に立て替え払いすることもあります。この場合にもスタッフ個人に対する債務が生じます。
法律的にいえば、この債務は売掛金ではなく、スタッフからの借金ということになります。スタッフとしては、自分が代金を立て替えてでも客に店で遊んでもらった方が、歩合給が上がります。
さらに、債務があることで再度の来店も期待できますし、常連客として店に通ってもらえる可能性も高まります。
このようにして、ボーイズバーでもスタッフ個人に対する多額の売掛金や借金が発生し、客が払えなくなるケースが増えているのです。
ボーイズバーにおける売掛営業の手口
ボーイズバーのスタッフが個人の売上げを増やそうとして用いる売掛営業の手口は、次のようなものです。
恋愛感情に訴えかける
最も典型的な手口は、客の恋愛感情に訴えかけるというものです。
ボーイズバーではホストクラブのような接待はありませんが、男性スタッフが女性客をもてなし、気分よく遊んでもらうという点は同じです。
女性客の扱いに慣れたスタッフは、会話を通じて客の好意を引き出して恋愛感情を持たせる術に長けています。
そして、客の恋愛感情に訴えかけて「もっと長い時間、遊んでいってほしい」「もっとドリンクを注文してほしい」などと誘いかけてきます。
客が「お金がない」と言うと、「お金は今度でいい」「僕が立て替えておくから気にしなくていい」などと言って、売掛を持ちかけるのです。
酔わせて理性を麻痺させる
女性客もボーイズバーが疑似恋愛を楽しむところだということは知っているので、スタッフに対して本気で恋愛感情を抱く人ばかりではありません。
情に流されない女性客に対して、スタッフはお酒をどんどん勧めて酔わせようとすることもあります。ノリに任せて強いお酒を一気飲みさせるなどして、酔わせることも多いようです。
お酒の影響で客の理性が麻痺したところで売掛を持ちかけて、時間の延長を勧めたり、ドリンクを次々に勧めたりします。お酒の力を利用して客に恋愛感情を抱かせようとする手口もあります。
カードローンの利用を勧める
「ツケにしてもらっても払えない」と言って売掛を拒否する女性客もいますが、そんなとき、スタッフはカードローンやキャッシングをして売掛を支払えばよいと勧めてきます。
客が抵抗を示しても「みんな、そうしているよ」「カードローンをしても月々支払えば問題ないから」とたたみかけてきます。
もともと借金癖などなかった女性客でも、その場の雰囲気に流されて、売掛に応じてしまうことが少なくありません。
借用書を書かせる
売掛や立て替え払いをしたスタッフは、そのお金を女性客から回収しなければ自己負担とされてしまいます。そのため、集金や取り立ては厳しく、かつ、執拗に行われます。
売掛金や立替金がある程度の金額になると、スタッフは客に借用書を書くように迫ることが多いです。このようにして、それまでに発生した売掛金や立替金を借金の形にして返済の約束をすること「準消費貸借契約」といいます。
準消費貸借契約は法律上有効なので、裁判などの法的措置をとられると借用書が強力な証拠となってしまいます。そのため、客としては踏み倒すことが難しくなります。
風俗などの夜職を紹介する
どうしても売掛金や立替金を払えない女性客に対しては、スタッフが風俗やキャバクラなどの夜職を紹介することも多いです。夜職で高収入を得させて、そのお金で返済させようとするのです。
風俗やキャバクラなどで働くことは違法ではありませんが、不本意であれば避けたいところでしょう。
実際、風俗やキャバクラなどで働く女性の中には、ボーイズバーやホストクラブなどでの売掛金や、その他の借金を返済するためにやむを得ず勤務している人も数多くいます。
多額の売掛金を作ってしまったとしても、風俗やキャバクラなどで働く前に正しい対処法を検討することが大切です。
ボーイズバーの売掛営業が違法で支払い義務がないケース
ボーイズバーの売掛金問題に正しく対処するための第一ステップは、本当に支払義務があるのかを確認することです。
以下のようなケースでは、ボーイズバーの売掛営業が違法なので支払義務がありません。
騙されて売掛をした
スタッフに騙されて売掛をした場合は民法上の「詐欺」に該当し、契約を取り消せる可能性があります。取り消した契約はなかったことになるので、支払義務もなくなります。
詐欺に該当するケースとしては、例えば、1時間2,000円で飲み放題と勧誘されて入店したにもかかわらず、1万円~数万円を要求されるといったケースが考えられます。いわゆる「ぼったくり営業」のケースです。
その他にも、恋愛感情に訴えかけられて売掛をした場合には「デート商法」に該当し、消費者契約法に基づき契約を取り消せる可能性もあります。
ただし、デート商法に該当するかどうかの線引きは明確ではありません。ケースごとの判断が必要なので、消費生活センターや弁護士に相談してアドバイスを受けた方がよいでしょう。
脅されて売掛をした
スタッフから脅されて売掛をした場合は民法上の「強迫」に該当し、契約を取り消して支払いを拒否できる可能性があります。
強迫に該当するケースとしては、次のような例が考えられます。
・注文するまで退店できないと脅された
・注文しなければボーイズバーに通っていることをSNSで拡散すると脅された
・注文しなければストーカーしてやると脅された
ただし、スタッフも営業として執拗に売掛を勧めることは、よくあるものです。断ろうと思えば断れたのに、「そこまで言うのなら……」と考えて売掛をした場合は、強迫にまでは該当しない可能性が高いです。
強迫を理由として取り消せるかどうかも、弁護士に相談して確認した方がよいでしょう。
未成年者が売掛をした
売掛をした客が未成年者の場合は、親権者の同意を得てしたものでない限り、契約を取り消して支払いを拒否できる可能性があります。
成人年齢は、2022年4月1日以降は民法改正により、20歳から18歳に引き下げられました。そのため、2022年3月以前の売掛については20歳未満、2022年4月以降の売掛については18歳未満の客によるものが取消しの対象となります。
ただし、未成年者であっても成人であると偽ってボーイズバーで売掛をした場合は、取り消すことができません。
消滅時効が成立した
ボーイズバーの売掛営業が違法でなくても、売掛をしてから支払わないまま一定期間が経過すると消滅時効が成立することがあります。その場合は、時効を援用すれば支払いを拒否できます。
飲食店の売掛の消滅時効期間は、以下のようになっています。
売掛をした時期 | 消滅時効期間 |
---|---|
2020年3月31日以前 | 1年 |
2020年4月1日以降 | 5年 |
2020年4月1日以降は消滅時効期間が5年となったため、時効は成立しにくくなっています。
時効成立前に借用書を作成した場合には、債務を承認して準消費貸借契約が成立しているため、そのときから5年が経過するまで時効が成立しないことにも注意が必要です。
時効を援用したにもかかわらず執拗に支払いを迫られた場合は、取り立てが脅迫や恐喝などの違法行為に該当する可能性があります。その場合は、警察や弁護士に相談して対処しましょう。
違法な利息を要求された
借用書を作成する場合には、利息を要求されることも多いです。もし、年109.5%を超える金利を要求された場合は、出資法違反という犯罪に該当します。
そのため、民事上も準消費貸借契約が公序良俗に反するものとして無効となる可能性があります。契約が無効となれば、準消費貸借契約がなかったことになるので返済する義務はありません。
ただし、準消費貸借契約が公序良俗に反するとしても、元の売掛契約が違法でなければ支払い義務が残ることにご注意ください。
ボーイズバーへの売掛金を支払えないときの対処法
ボーイズバーの売掛営業が適法で消滅時効も成立していない場合は、売掛金の支払い義務があります。それでも支払えない場合は、以下の対処法を検討しましょう。
支払額や支払方法を交渉する
まずは、店やスタッフと支払額や支払方法を交渉してみましょう。交渉次第では、減額や分割払いを認めてもらえる余地が十分にあります。
ただし、本来は全額を一括で支払う義務があるので、誠実な態度で話し合うことが重要です。誠意が伝わらなければ、裁判などの法的措置をとられるおそれもあるので注意しましょう。
悪質な取り立てを受けた場合は警察に相談する
支払い義務がある場合でも、取り立て行為が悪質な場合は警察に相談しましょう。
次のようなケースでは取り立て行為が犯罪に該当し、警察が相手に対処してくれる可能性があります。
- 「体を売って払え」と脅された
- 取り立ての際に暴行や脅迫を受けた
- 自宅に取り立てに来て居座られ、帰ってもらえない
- 職場に取り立てにきて仕事を妨害された
ホストクラブのケースですが、ホストが売掛金を回収するため、客の女性に売春を強要し、路上で客待ちをさせたとして、強要罪の疑いで逮捕された事例もあります。
ただし、取り立て行為が犯罪に該当しなかったり、実害が生じていなかったりする場合は民事の問題となるため、警察には対処してもらえません。
債務整理をする
売掛金が到底支払えないほど多額に上っている場合は、債務整理も検討しましょう。
債務整理とは、法律に従って債務を減免することによって、借金問題からの解放を図れる手続きのことです。ボーイズバーでの売掛金や、スタッフからの借金も債務整理の対象となります。
他にも借金を抱えている場合は、まとめて債務整理をすることで借金問題を全面的に解決することも可能です。
ただし、ボーイズバーで多額の売掛金を作った場合は浪費とみなされ、自己破産では解決できない可能性もあります。債務整理には他にも任意整理、個人再生といった手続きがあり、どの手続きが適しているかは状況によって異なります。
最適な手続きで解決を図るためには、弁護士への相談がおすすめです。
ボーイズバーの売掛金問題で弁護士に相談するメリット
ボーイズバーの売掛問題で困ったら、弁護士に相談してみることをおすすめします。法律の専門家の力を借りることで、以下のメリットが得られます。
- 売掛金の支払い義務の有無を判断してもらえる
- 状況に応じて最適な解決方法をアドバイスしてもらえる
- 支払い義務がない場合は、相手への対応や警察への被害届などをサポートしてもらえる
- 支払い義務がある場合は、相手との交渉を代行してもらえる
- 債務整理をする場合は、複雑な手続きを代行してもらえる
- 状況に応じた的確な対応により最良の結果が期待できる
弁護士の力を借りるメリットは大きいといえます。弁護士は困った人の味方として対応してくれるので、気軽に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
ボーイズバーは基本的に低料金で遊べる店ですが、商売ですので、ホストクラブと同じように売掛を持ちかけられることもあります。
気軽に遊んでいるうちに売掛金が貯まってしまい、払えなくなることもあるでしょう。そんなときは一人で抱え込まず、弁護士に相談してみてください。
支払い義務の有無に応じて、最適な解決方法が見つかるはずです。ボーイズバーの売掛金に関する悩みは、弁護士の力を借りて解決してしまいましょう。