- 個人間の借金取り立てには貸金業法の規制が適用されない
- 個人の貸主による取り立ては刑法に抵触し違法となるケースがある
- 個人間の借金で法外な利息を要求されたときは返済義務がない
- 個人間の借金トラブルは弁護士を通じて円満に解決すべきである
友人や知人、先輩など個人間の借金をなかなか返済できず、厳しい取り立てを受けてお困りの方も少なくないことでしょう。
個人の貸主の中には事情を話せば返済を待ってくれる人もいますが、逆に貸金業者よりも厳しい取り立てをする貸主も多いものです。しかし、度を超えた取り立て行為は違法となることがあります。
違法な取り立てを受けた場合には泣き寝入りをすべきではなく、適正な対処が必要です。
そこでこの記事では、個人間の借金で取り立てが違法となるケースとその場合の対処法、貸主とのトラブルを円満に解決するために弁護士ができることなどについて、わかりやすく解説します。
個人間の借金の取り立てが貸金業者より厳しくなる理由
個人間の借金でどれくらい厳しい取り立てが行われるかは貸主の意向次第ですが、貸金業者より厳しい取り立てをしてくる貸主も少なくありません。その理由として、次の3点が挙げられます。
- 貸金業法の規制が適用されない
- 貸し倒れのリスクを考慮していない
- 裁判や差し押さえの手続きに慣れていない
貸金業法の規制が適用されない
貸金業者による取り立てについては貸金業法でさまざまな禁止行為が定められています。
しかし、個人間の借金取り立てでは貸金業法の規制が適用されません。それもあって、個人の貸主の中には闇金に負けず劣らずの厳しい取り立てをする人がいます。
ちなみに、貸金業法で業者が禁止されている取り立て行為は次のようなものです。
- 暴言を吐いたり大人数で押しかけるなどして威迫すること
- 深夜(午後9時以降)および早朝(午前8時以前)の取り立て
- 勤務先への電話や訪問
- 貼り紙や立看板などにより借金した事実を第三者の目にさらすこと
- 家族などの第三者に返済を要求すること
- 他からの借入で返済するように要求すること
- 弁護士や司法書士からの受任通知を受け取った後に返済を直接請求することなど
貸し倒れのリスクを考慮していない
貸金業者は貸し倒れのリスクを考慮した上でビジネスとしてお金を貸しています。しかし、個人の貸主は通常、「貸したものは返してもらえる」「どうしても返してもらわないと困る」と考えます。
そのため、個人間の借金をなかなか返してもらえない場合、貸主は感情的になりがちです。
貸金業者は、一定の割合で貸し倒れが発生しても利益が残るように貸出利息を設定しています。実際に貸し倒れが発生しても、会計上の損金処理によって損失を抑えることも可能です。
それに対して、個人の貸主が貸し倒れにあうと、自分の大切なお金を失うことになり、損失を被ってしまいます。そのため、「絶対に返してもらう」という姿勢で厳しい取り立てをしてくることが多いのです。
裁判や差し押さえの手続きに慣れていない
貸金業者は法的手続きに慣れているので、債権を回収できない場合には裁判を起こした上で、強制執行により給料や預貯金などを差し押さえてきます。
一方、個人の貸主は法的手続きに慣れていないこともあり、裁判や差し押さえの手続きには高いハードルを感じています。そのため、借主から債権を直接回収するために、厳しい取り立てを行うことになりがちです。
ただし、個人の貸主も大金を貸していたり、何としてでも回収したい場合、弁護士に依頼するなどして、裁判や差し押さえの手続きをしてくるケースもあることに注意が必要です。
個人間の借金で取り立てが違法となるケースと対処法
個人間の借金では、貸主の取り立て行為を直接的に規制する法律はありません。しかし、刑法に抵触するような悪質な取り立ては違法です。
以下では、個人間の借金で取り立てが違法となる主なケースと、その場合の対処法をご紹介します。
- 自宅に無断で入る、居座る
- 暴言や暴力で威圧する
- 消費者金融などから借りて返済するように迫る
- 家族などの第三者に返済を迫る
- 勤務先に押しかけて返済を迫る
- 自宅に貼り紙や落書きをする
自宅に無断で入る、居座る
貸主が自宅に取り立てに来た場合には、住居侵入罪や不退去罪といった違法行為に該当する可能性があります。
- 住居侵入罪
- 無許可で自宅に立ち入った場合
- 3年以下の懲役または10万円以下の罰金
- 不退去罪
- 帰ってほしいと告げられても居座った場合
- 3年以下の懲役または10万円以下の罰金
取り立てに来られても借金を返済できない場合には、できる限り玄関ドアを開けずにインターホンなどで応答するようにしましょう。
自宅に無断で立ち入られて居座られた場合は、すぐにはお金を返せないことを説明し、その場はお引取り願うようにすることが得策です。どうしても帰ってもらえない場合には、警察に通報して対処してもらうしかありません。
暴言や暴力で威圧する
取り立ての際に暴言や暴力で威圧された場合には、脅迫罪、暴行罪、傷害罪といった違法行為に該当する可能性があります。
- 脅迫罪
- 暴言を吐いた場合
- 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
- 暴行罪
- 殴る・蹴るなどの暴力を振るった場合
- 2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
- 傷害罪
- 暴力によって怪我をさせた場合
- 15年以下の懲役または50万円以下の罰金
暴言や暴力を受けたときは、可能であれば早めにその場から立ち去るようにしましょう。身の危険を感じるときは、警察に通報すべきです。
言いなりになったり応戦したりすると、深刻なダメージを負ったり、自分も罪に問われるおそれがあることに注意しなければなりません。
繰り返し暴言や暴力が行われる場合には警察に相談し、被害届や告訴状の提出も検討しましょう。
そのためには、暴言・暴力の状況を録画または録音したデータや、怪我の写真、診断書などの証拠も重要となります。
消費者金融などから借りて返済するように迫る
取り立ての際に「返済できない」と答えると、消費者金融や闇金などから借りてでもすぐに返済するように迫られることもあるでしょう。このような行為は、恐喝罪という違法行為に該当する可能性があります。
- 恐喝未遂罪
- 他から借りて返済するように迫った場合
- 10年以下の懲役
- 恐喝既遂罪
- 他から借りて返済するように迫り、実際に返済させた場合
- 10年以下の懲役
貸主に対する返済義務を負ってはいても、他から借金をしてまで返済する義務はないので、明確に拒否しましょう。
相手が納得しない場合には、いつまでに返済できるのかを約束しなければならないこともありますが、無理な返済プランを約束することは控えなければなりません。
理解を求めても相手が引き下がらず、身の危険を感じるような脅迫をしてくる場合には、警察に通報することです。
家族などの第三者に返済を迫る
貸主が借主の家族や親戚などの第三者に返済を迫る行為は、恐喝罪という違法行為に該当する可能性があります。
- 恐喝未遂罪
- 第三者に返済を迫った場合
- 10年以下の懲役
- 恐喝既遂罪
- 第三者に返済を迫り、実際に返済させた場合
- 10年以下の懲役
このような被害を防止するためには、家族や親戚などに事情を話した上で、貸主から返済要求を受けたら警察に通報するように伝えておくしかないでしょう。
家族や親戚などの第三者に対する返済要求が続く場合は、警察に相談し、被害届や告訴状の提出も検討すべきです。
勤務先に押しかけて返済を迫る
貸主が取り立てのために借主の勤務先に電話をしたり、訪問したりする行為は、それだけ違法となるわけではありません。しかし、次のように度を超えた行為が行われた場合は違法となります。
- 威力業務妨害罪
- 執拗な返済要求や居座りなどで仕事の邪魔をした場合
- 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 名誉毀損罪
- 同僚などの前で返済を迫った場合
- 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
- 建造物侵入罪
- 違法な取り立て行為を目的とした立ち入った場合
- 3年以下の懲役または10万円以下の罰金
- 不退去罪
- 帰ってほしいと告げられても居座った場合
- 3年以下の懲役または10万円以下の罰金
勤務先に対しても事情をあらかじめ説明しておくことが理想的ではありますが、それは難しいことが多いものです。
職場に取り立てに来られたときは、他の従業員の仕事の邪魔にならないように席を外して相手と話し合いましょう。
なかなか帰ってもらえなかったり、頻繁に電話をかけてこられたりして実際に業務妨害や名誉毀損の被害が生じている場合には、警察に通報すべきです。
自宅に貼り紙や落書きをする
自宅の玄関や壁に貼り紙や落書きをされたり、物を壊されたりしたときは、器物損壊罪や名誉毀損罪といった違法行為に該当する可能性があります。
- 器物損壊罪
- 自宅に貼り紙や落書きをする、物を壊した場合
- 3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料
- 名誉毀損罪
- 貼り紙や落書きなどによって借金の事実やプライバシーをさらした場合
- 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
これらの違法行為を受けた場合は、貼り紙や落書き、壊された物を撮影するなどして証拠化し、警察に相談しましょう。
可能であれば、訪問者にわかるような場所に防犯カメラを設置しておくと、被害の防止に有効です。
個人間の借金で返済を拒否できるケース
個人の貸主から違法な取り立てを受けても、借りたお金を返していないという負い目があることから、強く抗議しにくいということもあるでしょう。
しかし、次のような場合には返済義務がないので、返済を拒否して抗議することも可能です。
- 法律上の上限金利を超える利息を要求されている
- 消滅時効が成立している
- 借用書などの証拠がない
法律上の上限金利を超える利息を要求されている
個人間の借金にも利息制限法と出資法が適用されるため、これらの法律に違反する要求をされた場合には返済を拒否できることがあります。
上限金利 | 返済を拒否できる範囲 | |
---|---|---|
利息制限法 | 借入額により年15~20% | 上限金利を超える利息 |
出資法 | 年109.5% | 元本・利息すべて |
なお、利息の取り決めがない場合は、利息を支払う必要はありません。
返済が遅れた場合の遅延損害金の取り決めがない場合は、民法上の法定利率である年3%(2020年3月31日以前の借金については年5%)が遅延損害金の利率の上限となります。
消滅時効が成立している
個人間の借金にも時効があり、消滅時効が成立した場合には「時効の援用」をすることで返済を拒否できます。
時効期間は、次のように貸金業者からの借金の場合とは異なることがあるので、ご注意ください。
時効期間 (2020年3月31日以前の借金) |
時効期間 (2020年4月1日以降の借金) |
|
---|---|---|
個人間の借金 | 10年 | 5年 |
貸金業者からの借金 | 5年 | 5年 |
「時効の援用」をするには、貸主宛の消滅時効援用通知書を作成し、内容証明郵便で送付するのが一般的です。
借用書などの証拠がない
個人間の借金では、借用書や契約書などを作成していないことも多いものです。
借金の証拠がなければ、事実上、返済を拒否することもできます。法律上は、返済を請求する側がお金を貸した事実を証明する必要があるからです。
しかし、個人的な信頼関係に基づいて借金をした以上は、借用書がないからといって返済を拒否すべきではありません。通帳の入出金履歴や振込明細書など、他の証拠で借金の事実を立証される可能性があることにも注意する必要があります。
ただ、次のような場合には、証拠がないことを理由として返済を拒否することも検討しましょう。
- 借りてもいないお金の返済を要求された
- 借りた金額を超える返済要求を受けた
- 返したのに再度返済を要求された
個人間の借金も解決できる債務整理とは
違法な取り立てを受けたときには警察に相談して身の安全を確保すべきですが、根本的に解決するためには借金問題そのものに対処しなければなりません。個人間の借金も、債務整理の対象となります。
債務整理には、主に次の3種類の手続きがあります。
任意整理 | 債権者との直接交渉により借金の減額や返済期限の延長を図る |
---|---|
個人再生 | 裁判所の手続きを利用して借金を大幅に減額できる |
自己破産 | 裁判所の手続きを利用して借金が全額免除される |
借金額や収入・資産の状況などに応じて適切な手続きを選択して行えば、個人間の借金も解決できます。
貸金業者からの借金も抱えている場合にも、債務整理でまとめて解決を図るとよいでしょう。
個人間の借金で債務整理をするときの注意点
個人間の借金で債務整理をするときには、次の3点に注意が必要です。
- 債務整理に反対されることがある
- 個人間の借金を隠して申し立ててはいけない
- 申立て前に優先的に返済してはいけない
債務整理に反対されることがある
貸金業者のほとんどは債務整理に協力的ですが、個人の貸主は債務整理に反対することがあります。具体的には、次のように債務整理に支障をきたす可能性があることに注意しなければなりません。
任意整理 | 債権者が交渉に応じなければ和解が成立しない |
---|---|
個人再生 | 債権者の多数が再生計画案に反対すると手続きが打ち切りとなる |
自己破産 | 債権者が免責に意義を述べると借金が免除されない可能性がある |
個人の貸主は通常、債務整理に関する法律を熟知しているわけではないので、感情的に反対するのもやむを得ない側面があります。
事前に個人の貸主には事情を話し、債務整理をすることがお互いにとって最善の解決策であることを伝えて、理解を求めることが重要です。
個人再生や自己破産で借金が減免されても、手続き終了後に任意で返済することは許されるので、その旨の約束をすることも検討するとよいでしょう。
個人間の借金を隠して申し立ててはいけない
個人再生と自己破産は、すべての債権者を手続きの対象とする必要があります。個人の貸主の理解が得られないからといって、除外して申立てを行ってはなりません。
特定の債権者を故意に隠して申立てを行ったことが発覚すると手続きを打ち切られ、借金の減免が認められなくなります。
なお、任意整理では手続きの対象とする借金を自由に選べます。貸金業者とだけ任意整理をして返済の負担を軽減し、個人の貸主には約束どおり返済する方向で解決を図ることも可能です。
申立て前に優先的に返済してはいけない
個人再生または自己破産をする場合には、申立て前に個人の貸主にのみ返済することも控えるべきです。
特定の債権者にのみ優先的に返済することを「偏頗弁済」といいます。申立て前に偏頗弁済をすると、個人再生では返済額が増える可能性があり、自己破産では免責不許可となるおそれがあります。
※ 免責不許可になると借金を0にできない。
個人間の借金トラブルで弁護士に依頼するメリット
個人間の借金トラブルで困ったときは、弁護士に相談・依頼することを強くおすすめします。法律の専門家によるサポートを受けることで、次のようなメリットが期待できます。
- 貸主への対応を代行してもらえる
- 話し合いによる円満な解決が期待できる
- 他の借金がある場合もまとめて解決できる
貸主への対応を代行してもらえる
弁護士に依頼すれば貸主宛に受任通知が送付されます。受任通知とは、弁護士が依頼者の代理人になったことを通知するとともに、直接取り立てをしないようにするための通達です。
以降は弁護士が代理人となって貸主との交渉や対応を代行してくれます。取り立てや脅しから開放されますので、精神的なプレッシャーを軽減することができます。
話し合いによる円満な解決が期待できる
個人の貸主は、受任通知を受け取った後も借主に対して直接、返済を請求してくることがあります。その場合も、弁護士が相手方と交渉してくれるので、当事者間の感情的な対立を回避することが可能です。
弁護士が専門家としての立場で冷静かつ論理的に交渉することで、円満な解決もで期待できます。
他の借金がある場合もまとめて解決できる
他の借金がある場合も、弁護士に相談すれば状況に応じた最適な解決方法をアドバイスしてもらえます。
債務整理の手続きは弁護士が全面的に代行するので、個人間の借金も貸金業者からの借金もまとめて解決できます。
まとめ
個人間の借金を返済できなければ貸主は多大な損失を被るため、厳しい取り立てをしてくることもやむを得ません。
違法な取り立てに対しては警察への相談などを検討すべきですが、返済できない借金を放置せず、早めに適切な対処法をとることも重要です。
個人の貸主から厳しい取り立てを受けてお困りの場合は、弁護士の力を借りて身の安全を確保しつつ、根本的な解決を図りましょう。