- 無職でも任意整理ができる可能性があり、メリットもある
- しかし、無職で任意整理をするのは難しい場合が多い
- 無職で任意整理ができない場合には自己破産で解決することが望ましい
- 無職の方が借金問題を解決するには弁護士・司法書士に相談した方がよい
任意整理は、債権者と直接交渉することにより借金を減らしてもらうことが可能な債務整理の方法です。返済の負担を軽くすることは可能ですが、自己破産とは異なり借金がゼロになるわけではなく、残った借金は返済していかなければなりません。
そのため、基本的に任意整理をするためには安定収入が必要であり、無職の方が任意整理をすることは難しいのが実情です。
しかし、無職であるからといって任意整理はできないと決まっているわけではありません。また、任意整理ができない場合でも他の債務整理で借金問題を解決することは可能です。
この記事では、無職の方が任意整理をできるケースとできないケースをご紹介し、できない場合に借金問題を解決する方法と注意点についても、わかりやすく解説します。
無職でも任意整理できるケース
現在無職でも、元金を3年~5年で完済できるだけの資力がある場合には、任意整理が可能です。
以下のケースに該当する場合は、任意整理を検討してみるのもよいでしょう。
就職して収入が得られる予定がある
現在は無収入でも、近い時期に就職して安定的な収入が得られる見込みがある場合は、任意整理の手続きをとることが可能です。
必ずしも正社員として就職しなければならないわけではありません。アルバイトやパートでも、継続的な返済が可能となるだけの収入が得られるのであれば任意整理をすることに支障はありません。
ただし、なかなか仕事が見つからず長期間が経過してしまうと、任意整理での解決は難しくなる可能性があります。
任意整理をするまでの期間に制限はありませんが、遅延損害金が加算されていくため、一般的におおよそ6ヶ月以上の期間が空いてしまうと返済額が大きくなってくる傾向にあります。
年金を受給している
無職でも年金を受給していて、毎月数万円は返済に充てられるという状況であれば、任意整理で解決できる可能性が十分にあります。
一方で、年金を生活費に充てるとほとんど残らない場合には、任意整理はできません。
返済に充てることが可能な資産がある
換金可能な資産がある場合は、それを返済に充てることで任意整理ができる可能性があります。
預貯金だけでなく、持ち家や自動車、生命保険、有価証券、貴金属や骨董品など、処分しても構わない資産がないかを確認してみましょう。
家族等の収入で返済できる
任意整理後の返済は、必ずしも自分の収入や資産で行う必要はありません。配偶者や親、子、親戚などで頼れる方がいる場合は、返済に協力してもらうことで任意整理をすることも可能です。
ただし、この場合には当然ですが家族等に内緒で手続きをするわけにはいかないので、借金問題を打ち明けて相談しなければなりません。
過払い金で完済が見込まれる
任意整理を行う過程で利息引き直し計算を行いますが、そこで過払い金の発生が判明することがあります。過払い金で借金の完済が見込まれる場合は、任意整理と一緒に過払い金返還請求を行うことで解決が可能です。
ただし、2007年以降の借金からはほとんど過払い金が発生しないため、最近では過払い金返還請求が可能なケースは少なくなりつつあります。
2007年以前から借金をしていた方は、過払い金発生の見込みについて弁護士または司法書士に相談し、確認した方がよいでしょう。
無職の人が任意整理で得られるメリット
無職でも任意整理が可能なケースに該当する方は、積極的に任意整理を検討してみるのもよいでしょう。
任意整理を選ぶことで得られるメリットは以下のとおりです。
費用の負担が比較的軽い
任意整理は他の債務整理とは異なり裁判所の手続きを利用しないため、実費はごくわずかで済みます。
どの債務整理を選ぶ場合でも弁護士または司法書士に依頼して手続きを進めるのが一般的ですが、弁護士費用・司法書士費用も任意整理の場合は比較的低額となる傾向にあります。
現在無職の方が債務整理をする際に、費用の負担が軽いという点は大きなメリットとなるでしょう。
ただし、任意整理でも債権者数が多い場合は弁護士費用・司法書士費用が高額となることもあります。実際の費用は必ず依頼前に説明を受けて確認する必要があります。
就職活動に影響がない
自己破産をする場合は、手続き中だけですが一部の資格や職業に制限がかかります。せっかく就職しても、その後に自己破産を申し立てると、場合によっては退職しなければならないこともあります。
それに対して、任意整理の場合は資格や職業上の制限が一切ないので、自由に就職活動をして就きたい職業に就くことが可能です。
資産を手放す必要がない
自己破産を選択すると、一定の評価額を超える財産は処分しなければなりません。無職の方の場合、いったん財産を処分すると再び入手するのが難しいこともあるでしょうから、この点は大きなデメリットになりかねません。
それに対して、任意整理では資産の有無は問われないので、自己判断で返済のために換金する場合を除いて資産を手放す必要はありません。
無職で任意整理できないケース
実際のところ、無職の場合、任意整理をするのは難しいことが多いものです。
以下のケースに該当する場合は、任意整理を選択することはできません。
長期的な安定収入が見込めない
資産を換金したり家族等の協力で返済できる場合は別ですが、少なくとも3年~5年にわたって安定収入が見込めない場合は、任意整理で和解ができても返済していくことができません。
なかなか仕事が見つからない場合や、病気などで働けない場合の他、期間契約社員や短期のアルバイトなどでは任意整理に失敗する可能性があります。
借金総額が大きく膨らんでいる
収入を得られる見込みがあるとしても、3年~5年で完済できないほどに借金総額が膨らんでいる場合には、任意整理で解決することはできません。
具体的に借金総額がいくらまでなら任意整理が可能かは、収入や生活状況によって異なります。
借金200万円なら、5年払いで毎月の返済額は約3万4,000円です。就職後の収入から生活費を差し引いた後、これだけの金額が残らないのであれば任意整理はできないということになります。
生活保護を受給している
無職で生活保護を受給している、または受給予定の方は、残念ながら任意整理はできません。
なぜなら、生活保護は国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障するための制度であり、そのために必要な金額のみが支給されるからです。
生活保護費を借金の返済に充てることは禁止されています。もし、返済に充てたことが発覚すると支給が打ち切られ、生活に窮することになってしまうでしょう。
生活保護を受給している場合は、自己破産で借金問題を解決するしかありません。
無職で任意整理できない場合の借金解決方法
借金問題を解決するための債務整理には、任意整理の他にも個人再生および自己破産という手続きがあります。
この3つの手続きはそれぞれ異なる特徴を持っているので、スムーズに借金問題を解決するためには状況に合った手続きを選ぶことが重要です。
借金を抱えた無職の方が任意整理を選べない場合でも、個人再生または自己破産で解決できる可能性があります。
個人再生はできる可能性はあるが難しい
個人再生とは、裁判所の手続きを利用して借金総額を大幅に減額することが可能な手続きのことです。
借金総額を原則的には5分の1に、最大で10分の1にまで減額することが可能で、減額後の借金は原則3年、最長5年で分割返済していきます。
例えば、借金総額が500万円までなら返済額を100万円にまで減らすことが可能で、毎月の返済額は約1万7,000円(5年払い)~約2万8,000円(3年払い)です。
個人再生を申し立てるためには、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があることが法律上の要件とされています。
「将来において」収入を得られる見込みがあればよいので、現在は無職でも構いませんが、申立ての時点で就職の予定を証明できなければ申立てが却下されてしまいます。
また、本人の労働による収入に限らず、年金収入や家族等からの援助でも「将来において継続的に又は反復して」得られるのであれば、この要件を満たします。
ただし、減額後の借金を継続的に返済していける見込みがあることを客観的に証明できなければ、やはり申立てが却下されることになります。
自己破産は収入の有無を問わず利用可能
自己破産とは、裁判所の手続きを利用して借金の返済義務を全て免除してもらうことが可能な手続きのことです。債務整理の中で唯一、借金が残らない手続きなので、無職で無収入の方も利用可能です。
無職の方で、借金を減額しても返済していくことが難しいという場合には、基本的に自己破産が適しているといえます。
ただし、次にご説明するように注意すべき点もあります。
無職の方が自己破産をするときの注意点
無職の方が自己破産をするときには、以下の点にご注意ください。
自己破産をするにも費用がかかる
自己破産手続きは自分で行うことも不可能ではありませんが、専門的な知識や経験が要求されるため、失敗を避けるためには弁護士・司法書士に依頼して行うことがおすすめです。
ただし、そのためには費用がかかります。その費用の中でも大きなウェイトを占めるのが弁護士費用・司法書士費用です。具体的な金額は事務所によって異なります。
無料相談や着手金の分割払いに対応している事務所もありますので、事前に確認した上で相談するようにしましょう。
また、法テラスには弁護士費用・司法書士費用を立て替えてもらえる制度があります。一定の利用条件がありますが、無職の方ならほとんどの場合は条件を満たすと考えられます。
立て替えてもらった費用は原則として毎月1万円ずつの分割で法テラスへ消化することになりますが、生活保護受給者については償還が免除されます。
手続き中は就職活動に影響が及ぶことがある
自己破産の手続き中は一部の資格や職業に制限がかかります。そのため、手続き中は就職活動に影響が及ぶ可能性があります。
手続きが終了してから就活するか、企業に雇用開始日を調整してもらいましょう。
資産を失うことがある
自己破産をすると、原則的に財産を処分しなければなりません。借金の返済義務を免除してもらう代わりに、財産を所有しているのであれば換金して債権者への配当に充てるべきとされているからです。
ただし、生活に必要な財産は処分されないので、生活に支障をきたすことはありません。
その他にも、99万円以下の現金と、その他の財産で評価額20万円以下のものは処分不要です。そのため、実際には自己破産をしても何ら資産を失わないというケースも数多くあります。
免責が許可されるとは限らない
破産法には「免責不許可事由」というものが定められており、該当する事由がある場合には免責が許可されません。免責が許可されないということは、破産をしても借金はそのまま残るということです。
例えば、もっぱら浪費やギャンブルで借金を作った場合は免責不許可事由に該当するため、免責が許可されません。
ただし、免責不許可事由がある場合でも、事情によっては裁判所の裁量により免責が許可されることがあります。このことを「裁量免責」といいます。
裁量免責が認められるかどうかは、借金が膨らんだ経緯や現在の生活状況、本人の反省状況をはじめとして、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。
無職で就職活動をしても仕事が見つからない、病気のために働けない、などの事情がある場合には、裁量免責を認める方向で考慮してもらえる可能性もあります。
とはいえ、裁量免責を得ることは簡単なことではありませんので、自己破産の申立て前に弁護士または司法書士に相談したほうがよいでしょう。
無職の方の債務整理で弁護士・司法書士ができること
無職の方が借金を抱えている場合、任意整理が可能なケースもありますが、自己破産をせざるを得ないケースもあります。
いずれにせよ、無職の方の借金問題については、弁護士または司法書士に相談することを強くおすすめします。法律の専門家の力を借りることで、以下のメリットが得られます。
最適な解決方法を提案できる
任意整理が可能か、自己破産の方が適しているかという選択を的確に行うためには、専門的な知識が要求されます。選択を誤ると借金問題の解決に支障をきたし、悪化するおそれがあります。
債務整理を決意したら、最初に弁護士または司法書士に相談し、最適な解決方法についてアドバイスを受けるようにしましょう。
費用を抑える方法もアドバイスできる
この点は事務所にもよりますが、着手金の分割払いに対応している事務所なら、無理なく支払えるよう支払い方法についても柔軟に相談に乗ってくれるはずです。
また、法テラスと契約している弁護士・司法書士に相談すれば、その専門家を通して費用の立て替え制度を申請してもらうことも可能です。
この点、法テラスに直接申し込むと専門家を選べないため、債務整理の経験が乏しい専門家が担当となることがあるのでご注意ください。
手続きを全面的にサポートする
解決方針が決まり、費用の問題もクリアしたら、債務整理の手続きは弁護士・司法書士が全面的にサポートしてくれます。
自分で複雑な手続きを行う必要はありません。弁護士・司法書士が的確に手続きを進めてくれるので、納得のいく結果が期待できるはずです。
まとめ
任意整理は債務整理の中で最もデメリットが少ない手続きなので、借金問題に悩む方の多くが任意整理を検討するものです。無職の方でも、利用可能な場合は積極的に検討してみるとよいでしょう。
ただ、任意整理は債務整理の中で最も返済の負担が重い手続きであることにも注意が必要です。
無職の方で、今後の収入があまり見込めないような場合は、自己破産で借金をなくしてしまった方がよいことが多いでしょう。
いずれにせよ、一人で悩まず弁護士・司法書士から専門的なアドバイスを受けることがおすすめです。無職の方でも債務整理は可能ですので、最適な方法で借金問題解決してしまいましょう。