- 保険証の悪用で闇金から請求されても返済する義務はない
- ネットなどで信用できない相手に保険証のコピーや写真を送るのは危険である
- 身に覚えのない闇金から請求されたら弁護士・司法書士への相談がおすすめ
近年、健康保険証を悪用されて様々な被害に遭うケースが増加しています。特に、他人の保険証を悪用して闇金から借金する事例が目立っています。
保険証悪用された本人は、突然、闇金から請求を受けて驚くことでしょう。「自分は借りていない」と主張しても闇金は聞き入れず、厳しい取り立てを受けることが多いです。
このような事態に巻き込まれた場合、適切に対処しなければ闇金に大金を巻き上げられたり、嫌がらせによって平穏な生活を送れなくなるおそれがあります。
そこで、この記事では、保険証を悪用されて闇金の申し込みに使われた場合に、返済義務はあるのか、返済を迫る闇金にはどのように対処すればよいのかを解説します。
保険証を悪用されないための対処法もご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
他人の保険証を悪用して借金できるのか
そもそも、他人の保険証を使って借金をすることが可能なのかと疑問に思う方もいることでしょう。
結論からいうと、正規の貸金業者から借金をすることは不可能に近いですが、闇金からは比較的容易に借金ができてしまいます。
正規の貸金業者では、ほぼ不可能
正規の貸金業者は融資の際に申込者に対して本人確認書類の提示を求めますが、保険証1点のみでお金を貸すことは基本的にありません。
貸金業者は、融資を行う際には顧客が本人であることの確認を義務付けられています(犯罪による収益の移転防止に関する法律4条1項)。
本人確認の方法として、日本貸金業協会は、非対面で融資を行う場合には、なりすましや偽りを防止するために、複数の本人確認書類を求めるなどして、顧客と取引相手の同一性の判断に慎重を期すことを推奨しています。
貸金業者がこのルールに従わず、なりすましや偽りによる融資が発生した場合には、金融庁による是正命令や業務停止命令などの行政処分を受けるおそれがあります。
したがって、非対面の取引においては、正規の貸金業者が保険証1点のみでお金を貸すことはないといってよいでしょう。この点は、クレジットカード会社や銀行などの金融機関でも同じことです。
闇金では可能
闇金も融資の際には基本的に申込者の本人確認書類を求めますが、正規の貸金業者ほどに厳重な確認はしません。そもそも闇金は法律を守る気がない違法業者だからです。
闇金が本人確認書類を求める主な目的は、返済を要求する相手の個人情報を取得することにあります。
万が一、なりすましが発生したとしても、本人確認書類の名義人に対して返済を迫り、お金を巻き上げればよいと考えているのです。
そのため、闇金では非対面取引でも健康保険証1点で借金できることが多いです。その結果、他人が保険証を悪用して闇金から借金をし、保険証の名義人が返済を迫られるケースが多発しています。
保険証の悪用で闇金から借金されるケース
保険証は身分証明書としても使える重要な書類なので、不注意で他人の手に渡ると悪用されるおそれがあります。
保険証の悪用で闇金から借金されることが多いのは、次のようなケースです。
保険証の紛失や盗難に遭った
保険証を落とすなどして紛失した場合、悪い人に拾われると悪用されてしまうでしょう。拾った人が基本的には悪い人ではなくても、たまたま他人の保険証を拾うと魔が差して、悪用されるかもしれません。
保険証を盗難された場合は、さらに危険度が高いです。財布やバッグを盗まれ、保険証を抜き取られるケースは少なくありません。
そもそも他人の財布やバッグを盗むような人はお金に困っているはずなので、現金やクレジットカードだけでなく、保険証や免許証なども抜き取り、本人になりすまして闇金から借金するおそれが多分にあります。
保険証のコピーや写真をどこかに送った
近年では、インターネットを通じて様々なサービスの利用を申し込む際に、本人確認書類として保険証などのコピーや写真を相手に送る機会が多くなりました。
例えば、消費者金融や銀行カードローンをネットで申し込む際にも、本人確認書類のコピーを郵送したり、写真を撮ってWebで送信するように指示されます。
正規の業者が受け取った保険証を悪用することはありません。保険証のコピーや写真を送る際にも、記号や番号、保険者番号などの個人情報はマスキングするなどして写らないように指示されます。
しかし、通販や投資、ギャンブルなど様々な分野で詐欺をはたらく悪質業者はこの限りではありません。このような業者は、マスキングしていない保険証のコピーや写真を送るように求めることが多いです。
たとえ詐欺に引っかからなかったとしても、保険証のコピーや写真を送ってしまうとそれを悪用され、闇金から借金される可能性があります。
SNSなどで個人間融資を持ちかける相手に保険証のコピーや写真を送ってしまった場合にも、同様のリスクがあります。
家族が保険証を持ち出した
中には、家族が保険証を持ち出して闇金から借金をするケースも見受けられます。
ブラックリストに登録されている人や未成年者などが、カードローンやクレジットカードなどを利用するために家族の保険証を持ち出すことが多いですが、正規の業者で申し込みを断られると、闇金に手を出してしまうケースがあるのです。
病院にあまり行かない人などは、保険証を家の中の引き出しなどに入れっぱなしにしていることも多いでしょう。厳重に管理していなければ、家族に保険証を悪用されるリスクもあるので注意が必要です。
保険証を悪用されて闇金から請求された場合、返済義務はある?
保険証を悪用された場合でも、返済を請求してくる闇金は「あんたの名義で契約しているんだから、返済する義務がある」などと言って返済を迫ってきます。
では、保険証を悪用されて闇金から請求された場合、保険証の名義人に返済義務はあるのでしょうか。
他人が無断でした契約は無効なので返済義務はない
契約は、当事者同士の合意によって成立するものです。他人が無断で借金の契約をした場合、保険証の名義人が契約に合意したわけではないので、契約無効です。したがって、名義人に返済義務はありません。
ただし、名義人が借入先に対して少しでも返済すると、契約を追認したことになってしまいます。無効の契約を追認した場合は、追認した人が新たに契約を結んだものとみなされます(民法119条但し書き)。
その後は、名義人自身の借金として返済義務を負うことになってしまいます。追認した場合でも、年数百%~数千%の利率による貸し付けは公序良俗違反なので無効を主張できます。
闇金による貸し付けは無効なので返済義務はない
ほとんどの場合、闇金による貸し付けは無効なので、たとえ自分の名義で借りたとしても返済義務はありません。
出資法の上限利率(年109.5%)を著しく上回る高利(年数百%~数千%)による貸し付けは、それ自体が出資法違反という犯罪行為です。そのため、民事上も公序良俗違反として契約無効と考えられています。
このように違法な契約に基づき闇金が顧客に交付したお金は不法原因給付に該当するため、闇金は返還を請求することができません。
その結果、闇金からの借金を返済する義務はないのです。ただし、闇金の中にも年数百%より低い利率で貸し付けをしている業者があるかもしれません。
その場合でも年109.5%を超える利率の約定がある場合には契約無効となりますが(利息制限法42条1項)、元本については不当利得として返済する義務が生じる可能性はあります。
結論として、年数百%~数千%という高利の利率による利息を要求する闇金に対しては、いかなる意味でも返済義務はないと考えて差し支えありません。
保険証の悪用で闇金から請求されたときの対処法
それでは、保険証を悪用され、実際に闇金から請求されたときには、どのように対処すればよいのでしょうか。
返済を拒否する
まず、闇金に対しては返済を一切拒否してください。
闇金は脅迫的な取り立てや悪質な嫌がらせで精神的に追い込んできますので、事態を収めるために返済してしまおうと考える人もいますが、ほとんどの場合は逆効果です。
闇金は、借入名義人に返済義務がないことを承知の上で、強引に取り立てをしてお金をむしり取ろうとしています。
そんな闇金に対して少しでも返済すると、「この人は脅せばお金を支払う」と判断されてしまいます。「カモ」と認定され、次々にお金の支払いを要求されることが多いです。
闇金に返済をしても解決にはつながらないとお考えください。
警察に相談する
まず保険証を紛失したら警察に届けることが必要です。最寄りの警察署に「遺失物届」あるいは悪用された場合は「被害届」を出しましょう。
もしも悪用されて、身に覚えがない闇金から連絡が来た場合、1人で対処するのは危険です。身の危険を感じるようなケースでは警察に相談しましょう。
暴行や脅迫を受けたり、物を壊されたりなどして実害が生じている場合は、被害届を出せば警察が対処してくれる可能性があります。
ただし、警察には民事不介入の原則があるので、実害が生じていない場合は民事の問題であると判断され、対処してもらえないことも多いです。
そのため、警察への相談は緊急的な対処法として有効な場合もありますが、根本的な解決にはつながりにくいのが実情です。
弁護士・司法書士に相談する
闇金問題を根本的に解決するためには、弁護士・司法書士に相談するのが最も有効な対処法です。
闇金に強い弁護士・司法書士は、取り立てや嫌がらせを止めるためのノウハウを豊富に有しているので、相談してアドバイスを受けるだけでも気が楽になることでしょう。
依頼すれば、弁護士・司法書士から闇金に対して、取り立てや嫌がらせを止めるように警告し、交渉してくれます。
闇金は弁護士・司法書士による法的措置を恐れているので、多くの場合はこれだけで取り立てや嫌がらせが止まります。
もし、取り立てや嫌がらせが続く場合には、弁護士・司法書士が刑事告訴や、闇金の携帯電話の利用停止、銀行口座の凍結などの手続きをとってくれます。
こうすることで闇金は営業できなくなるので、取り立てや嫌がらせも止まることがほとんどです。
保険証を悪用されないための対処法
闇金などによる被害に遭わないためには、最初から保険証を悪用されないに越したことはありません。
保険証は厳重に管理することが最も重要ですが、ここでは、その他にも保険証を悪用されないための対処法をご紹介します。
信用できない相手にコピーや写真を送らない
悪質業者など信用できない相手には、保険証のコピーや写真を送らないようにしましょう。
悪質業者かどうかを見分けることが難しい場合もありますが、正規の業者なら先ほどもご説明したように、保険証のコピーや写真を送る際に、記号や番号、保険者番号などの個人情報はマスキングするなどして写らないように指示するはずです。
すべての悪質業者がマスキングしない保険証のコピーや写真を送るように求めるとは限りませんが、ひとつの判断基準にはなるでしょう。
SNSで個人間融資を持ちかける相手に保険証のコピーや写真を送ることは、危険極まりないのでやめておきましょう。
遺失届・盗難届を出す
保険証を紛失したり盗難に遭った場合には、すぐに警察署で遺失届や盗難届を出しておきましょう。
早めに遺失届や盗難届を出しておけば、その後に保険証を悪用されて借金をされても、自分が借りたのではないことの証明が可能となります。
保険証の再発行を申請する
遺失届や盗難届を提出したら、保険証の再発行の申請をしましょう。
社会保険に加入している方は勤務先の担当部署へ、国民健康保険に加入している方はお住まいの自治体の役所へ申し出れば、再発行の申請ができます。
保険証のコピーや写真を信用できない相手に送ってしまった場合も、再発行の申請をしておいた方がよいでしょう。
保険証の不正利用が認められるケースなどでは、保険証番号を変更してもらえる場合もあります。再発行の申請をする際に、事情を話して保険証番号の変更も申し出てみることをおすすめします。
保険証を悪用された時に弁護士・司法書士に依頼するメリット
保険証を悪用されて闇金から請求された場合は、1人で対処しようとせず、弁護士・司法書士に対応を依頼することを強くおすすめします。
闇金に強い弁護士・司法書士のサポートを受けることで、以下のメリットが得られます。
- 闇金への返済義務の有無を明確に説明してもらえる
- 闇金への対応を一任できる
- 早期に取り立てや嫌がらせが止まることが多い
- 闇金に対して1円も支払わずに解決することが可能
- 保険証を悪用した人物が見つかった場合は、その人に対する損害賠償請求などの措置も可能となる
闇金問題で弁護士・司法書士に依頼するメリットは大きいといえるでしょう。闇金に追い込まれる前に、早めに相談するのがおすすめです。
まとめ
保険証を悪用されて闇金から借金されるケースは、実際に増えているようです。
特に、インターネットが広く普及した昨今では、保険証の写真がデータとして出回りやすいことに注意しなければなりません。
万が一、闇金から突然の請求を受けた場合には、すぐ弁護士・司法書士にご相談ください。
理不尽な支払い要求に屈することなく、弁護士・司法書士の力を借りて適切に対処しましょう。