- 偽装ファクタリングは違法な貸金契約である
- 闇金や詐欺業者がファクタリングをかたって営業していることが多い
- 偽装ファクタリングを事前に見抜くことは可能である
- 偽装ファクタリングの被害にあったら返金請求できることもある
資金繰りに困った企業が簡単かつ確実に資金を調達できる手段として、ファクタリングというものがあります。
ファクタリングそのものは合法の資金調達方法ですが、近年では闇金業者や詐欺業者が行う違法で悪質な「偽装ファクタリング」が増えていることに注意が必要です。
手軽に資金が調達できるからといって偽装ファクタリングに手を出したところ、その相手が闇金だったというケースがあります。
この記事では、偽装ファクタリングとは何か、偽装ファクタリングが違法である理由、そして被害に遭ったときの対処法について解説します。
そもそもファクタリングとは
偽装ファクタリングの問題を考える前に、「ファクタリング」という資金調達方法を正しく知っておきましょう。
ファクタリングの仕組み
そもそもファクタリングとは、企業が取引先に対して有する売掛債権を、支払い期日前に買い取ってもらうサービスです。一定の手数料が割り引かれますが、企業は売掛債権の売却代金として早期に資金を調達することが可能となります。
売掛債権を売却する企業と買取り業者との間では、金銭消費貸借契約ではなく債権譲渡契約が結ばれるのが特徴です。融資でないので審査は比較的緩やかで、企業はスピーディーに資金を調達できます。
買取り業者は、契約で譲り受けた売掛債権を行使して債権を回収するという仕組みです。ファクタリングには「3者間ファクタリング」と「2者間ファクタリング」とがあるので、それぞれの取引の流れもご説明します。
3者間ファクタリングの流れ
3者間ファクタリングでは、資金を調達する企業・取引先・買取り業者の3者が取引に参加します。取引の流れは以下のとおりです。
- 企業が買取り業者に利用申込みをする
- 買取り業者で審査が行われる
- 企業と買取り業者が債権譲渡契約を結ぶ
- 買取り業者が取引先へ債権譲渡通知を送付するか、取引先の承諾を得る
- 買取り業者から企業へ売却代金が支払われる(手数料が割り引かれる)
- 支払い期日に取引先が買取り業者へ売掛金を支払う
手数料率は買取り業者によってさまざまに異なりますが、一般的に2者間ファクタリングの場合より低く、年10%以内のことが多いです。
このように取引先も含めて債権譲渡の取引が行われるため、3者間ファクタリングでは「偽装」が生じる可能性は低いといえます。ただし、企業にとってはファクタリングの利用が取引先に知られてしまうというデメリットがあります。
そうなると取引先からの信用を失ってしまうおそれがあるので、資金繰りに窮した企業の多くは、2者間ファクタリングの利用を考えることになります。
2者間ファクタリングの流れ
2者間ファクタリングでは、資金を調達する企業と買取り業者の2者だけで取引が完結します。取引の流れは以下のとおりです。
- 企業が買取り業者に利用申込みをする
- 買取り業者で審査が行われる
- 企業と買取り業者が債権譲渡契約を結ぶ
- 企業と買取り業者が集金委託契約を結ぶ(債権譲渡通知は行われず、取引先には知らされない)
- 買取り業者から企業へ売却代金が支払われる(手数料が割り引かれる)
- 支払い期日に取引先から企業へ売掛金が支払われる
- 企業が受け取った売掛金を買取り業者へ支払う
手数料率は買取り業者によってさまざまに異なりますが、一般的に3者間ファクタリングの場合より高く、年10~30%のことが多くなっています。
2者間ファクタリングでは取引先が参加しないため、企業と買取り業者との間で「集金委託契約」が結ばれます。債権を譲渡した企業が、譲受人である買取り業者のために取引先から売掛金を集金し、買取り業者に渡すという仕組みです。
ただし、あくまでも「集金」業務が委託されるだけであり、取引先が支払わない場合に企業が取り立てを行う必要まではありません。
2者間ファクタリングでも3者間ファクタリングでも、正しいファクタリング取引では、取引先の不払いや倒産などのリスクは、買取り業者が負います。
偽装ファクタリングとは
偽装ファクタリングとは、ファクタリングをかたって実質的には高金利で金銭を貸し付けられる悪質な取引のことです。
債権の買取りであって融資ではないので柔軟な対応が可能であると謳い、インターネットなどで以下のような宣伝文句の広告を出し、利用者を募っています。
- 返済不要
- 利息なし
- 遅延損害金もなし
- 年中無休、即日対応します
偽装ファクタリングは、取引先への債権譲渡通知が行われない2者間ファクタリングの仕組みを悪用して行われるケースがほとんどです。
契約時には債権譲渡の形式を装って買取り代金が渡されますが、年数百%以上にも上る暴利で手数料を徴収されます。そして、債権の支払い期日に債権額を支払えなければ、悪質な取り立てを受けるのです。闇金や詐欺業者の手口そのものなので、偽装ファクタリングに手を出してはいけません。
偽装ファクタリングが違法である理由
正しいファクタリングは合法ですが、偽装ファクタリングは違法です。その理由は以下のとおりです。
実質的には貸金契約である
偽装ファクタリングのほとんどは2者間ファクタリングの仕組みを悪用しています。取引先への債権譲渡は行われず、買取り業者がその債権を管理・回収する実態はありません。
そればかりか、申込み企業と買取り業者との契約では債権回収不能のリスクに備えて、買取り業者に債権の買戻請求権や償還請求権が付けられていることがほとんどです。つまり、買取り業者への支払いは申込み企業が責任を持って行わなければならないこととされているのです。
この仕組みは実質的に見て、売掛金債権を担保とした融資と同じです。手形の割引に近い仕組みであるともいえます。
そして、貸金業法や出資法では、「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付」は金銭の貸付に当たるとされています。
したがって、偽装ファクタリングは法律上、債権譲渡契約ではなく金銭貸付契約に当たります。
無登録業者が営んでいる
金銭の貸付を業として営むことは「貸金業」に当たりますので、国または都道府県で貸金業者としての登録を受けた者でなければ営むことはできません。
しかし、偽装ファクタリングを営む業者のほとんどは貸金業者としての登録など受けていない無登録業者です。無登録貸金業者とはつまり闇金に該当します。
無登録で貸金業を営むことは貸金業法違反に該当し、「10年以下の懲役もしくは3,000万円以下の罰金、またはその両方」という刑罰も用意されています。
法外な高金利を伴うことが多い
偽装ファクタリングで要求される手数料の利率は、闇金の金利と同等に法外なものであることがほとんどです。年数百%以上であることが多く、年千%を超えることも少なくありません。
しかし、偽装ファクタリングが実質的に貸金契約に該当する以上、手数料は利息とみなされ、その利率は出資法によって制限されます。出資法における上限利率は、年109.5%です。
したがって、偽装ファクタリングのほとんどは出資法違反に該当し、「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方」という刑罰も用意されています。
偽装ファクタリングの特徴
偽装ファクタリングには、以下のように正規のファクタリングとは異なる特徴があります。
これらの特徴を知っておくことで、事前に偽装ファクタリングを見抜くことが可能となりますし、もし契約してしまった場合でも早期に気付いて対処することが可能となります。
買取り金額が相場より低い
売掛債権の買取り金額が低いということは、手数料の利率が高いということです。
ただ、あくまでもファクタリング業者は、「債権の売買」「債権譲渡」を謳っていますので、金利や利息の説明は行いません。そのため、債権額と買取り金額との差額を計算して手数料率を確認する必要があります。
正規のファクタリングの手数料の相場は高くても年30%までなので、手数料率が年30%を超える場合は契約しない方がよいでしょう。
契約時の説明が曖昧
偽装ファクタリングを行う業者のほとんどは、闇金または詐欺業者です。金融や法律に関する専門的な知識を有しているわけではないので、契約時の説明が曖昧なことが多いという特徴があります。
また、詳細を説明すると取引の違法性に気付かれてしまうおそれがあるため、あえて契約の内容や取引の流れについては詳細に説明しないという側面もあります。
本来、ファクタリングは融資よりも複雑な手続きですので、契約時には詳細な説明が必要なはずです。説明が曖昧な業者との契約には注意する必要があります。
審査が甘い
ファクタリングにも審査がありますが、偽装ファクタリングでは審査が甘いという特徴があります。
実際には、闇金や詐欺業者は審査など行いません。利用者がお金を返さなければ強行的に取り立てるからです。
契約時には利用者を信用させるために形式的には審査を行うように見せかけますが、それは利用者の支払い能力を考慮して金利の利率を検討するプロセスに過ぎません。
正式な審査は行われないので、非常に緩やかな条件で利用できるという特徴もあります。「他社で断られた企業もOK」などと謳う業者には注意しなければなりません。
保証人などの担保を要求される
偽装ファクタリングでは、契約時に保証人や保証金などの担保を要求されることもよくあります。
正規のファクタリングは債権譲渡契約なので、担保などは不要です。しかし、偽装ファクタリングでは債権譲渡など行わず、あくまでも申込み企業から金銭を回収することを考えているため、担保を要求してくるのです。
ファクタリングなのに担保を求められたら、偽装ファクタリングであると判断して間違いありません。
買取り金を現金で手渡しされる
正規のファクタリングでは、一般的に買取り金は口座に振り込まれます。しかし、偽装ファクタリングでは現金の手渡しで支払われることが多いです。
闇金や詐欺業者は偽装ファクタリングが違法な取引であることを知っているので、証拠を残さないために銀行口座の利用を回避しているのです。
契約時に買取り金の受け取り方法を尋ねてみて、現金手渡しだと言われたり、明確な説明がなかったりする場合は、偽装ファクタリングを疑った方がよいでしょう。
契約書や領収書を渡されない
契約書や領収書は、取引の重要な証拠となります。そのため、偽装ファクタリングを行う業者は証拠を残さないために、契約書や領収書を渡さないことが多いです。これも闇金や詐欺業者の典型的な手口であるといえます。
この点を契約前に確認することは難しいですが、契約後に気付いたら速やかな対処が必要です。
偽装ファクタリングの被害に遭ったときの対処法
偽装ファクタリングを見抜けず、被害に遭ってしまったときには、以下の対処法で解決していくことになります。
出資法違反の場合は返済不要、返金請求も可能
手数料の利率が出資法に違反する暴利の場合の対処法は、闇金被害への対処法と同じです。
業者から返済を迫られても、支払う必要はありません。なぜなら、出資法に違反する高金利を伴う金銭貸付契約は犯罪行為であり、民事上も公序良俗違反として無効だからです。
業者から買取り金と称して受け取ったお金は不法原因給付となり、業者に法律上の返還請求権は認められません。そのため、返還する必要はないのです。
もし、いくらかでもお金を支払ってしまった場合は業者の不当利得となるので、返金請求が可能です。
出資法違反でない場合は返済方法を交渉する
稀にですが、偽装ファクタリングでも手数料率が出資法の上限利率の範囲内であることも考えられます。
出資法に違反しない取引は犯罪には該当しないので、民事上も無効とはなりません。そのため、業者に返済する義務が生じます。
売掛債権の支払い期日に全額を支払えない場合には、分割払いなどの交渉が必要です。
偽装ファクタリングの被害で困ったら弁護士・司法書士に相談を
偽装ファクタリングの被害に遭ってしまったら、まずは弁護士や司法書士という法律の専門家に相談することを強くおすすめします。
出資法違反の闇金や詐欺業者に対しては、弁護士・司法書士が警告して交渉してくれるので、取り立てが止まります。返金交渉についても、弁護士・司法書士に任せることが可能です。
出資法に違反しない偽装ファクタリングの場合でも、弁護士・司法書士が業者と返済方法について的確に交渉してくれるので、支払い可能な返済プランで和解できる可能性が高まります。
一人で対応しようとすると、闇金や詐欺業者による悪質な取り立てによって金銭的な被害が増大するだけでなく、仕事や生活に支障をきたすおそれもあります。弁護士・司法書士のサポートを受け適切に対応することが大切です。
まとめ
ファクタリングはそもそも法的に複雑な仕組みとなっていることもあり、偽装ファクタリングの違法性に気付かず被害に遭ってしまう人が後を絶ちません。
ファクタリングについてわからないことがあれば、弁護士・司法書士に相談して慎重に利用することをおすすめします。
万が一、被害に遭ってしまったときは、弁護士・司法書士の力を借りて適切に解決しましょう。