経営再建の基本的な方法と流れ

経営再建の基本的

景気の回復でこのところ企業の業績は向上しているといわれます。しかし、中小企業あるいは小規模企業の経営は依然厳しい状況にあることを見逃せません。
円安により原材料コスト高、さらに人手不足による人件費高などが経営を圧迫し、円安倒産、人手不足倒産なども顕著になっています。

企業全体の倒産件数こそ減少傾向にありますが、経営規模の小さな企業にとっては厳しい状況が続いていることに変わりありません。

そこで今回は、倒産を回避し、経営の再建を図る道筋と、その基本的な方法などについて説明していきます。

企業の生存率とは?

企業の生存率という言葉を聞いたことがあるでしょうか?人間には寿命がありますが、企業には、統計的にどのくらいの期間存続できるかという、いわゆる生存率があるのです。

よく「企業の命は30年」といわれます。ただ、これには、その裏づけとなる統計がありません。
公式の統計としては、経済産業省の「中小企業白書2011」があります。それによると、企業は創業後、10年で約3割の企業が廃業あるいは倒産などで、撤退を余儀なくされています。そして20年後には約5割の企業が市場から姿を消しています。

もちろん、新規の企業が絶えず市場に参入していますが、新陳代謝の激しい競争市場の中で、企業が競争に勝ち残り、長期にわたって経営を存続させることは非常に難しいといえます。

経営環境の変化

企業の存続に際しては、経営を取り巻く環境の変化が大きく影響します。いわゆる、景気の好不況の波です。
景気の上昇期にあっては、企業は少なからずその恩恵を受け、業績は向上します。逆に、不況期の場合は、企業自身の経営努力には限界があり、総じて企業の業績は悪化します。

もちろん、独自の商品、独自の技術を武器に、不況期でも経営を維持あるいは上昇させる企業もみられます。しかし、そうした企業は限られた一部といってよいでしょう。

企業間格差、業種間格差の広がり

昨今の企業経営の環境は、景気回復期の過程にあるといえます。いわゆるアベノミクス効果により、経営環境は好転しつつあります。ただ、仔細に見ると、必ずしもそうはいえない面があります。企業間格差、業種間格差が広がっていることを見落とすわけにはいきません。

企業間格差は、企業の規模による格差です。いわゆる大企業と中小企業、小規模企業との業績格差です。

中小企業は中小企業基本法で製造業の場合、資本金3億円以下または従業員数が300人以下の企業、卸売業は資本金1億円以下または従業員数100人以下の企業、小売業・サービス業は資本金5000万円以下の企業とされています。

大企業は法律的な定義はありませんが、中小企業以上の企業がその範疇に入ります。

小規模企業は、中小企業基本法で、製造業は従業員数20人以下、商業・サービス業は同5人以下と定められています。

2015年3月期決算の状況を見ると、東京商工リサーチの調べでは、資本金1億円以上の企業の54%が増収を確保したのに対し、1億円未満では47%しか増収を確保できませんでした。

注目される円安、人手不足倒産

企業倒産件数は、景気回復を反映してここ数年減少傾向にあります。2014年の年間倒産件数は9731件で、1990年以来24年ぶりに1万件を下回りました。

倒産企業の内わけは、圧倒的に中小企業、小規模企業が多いのですが、注目すべきは、円安倒産、人手不足倒産が目立つことです。

大企業の場合は、円安によって、輸出が促進されますが、中小企業の場合は、下請けでの原材料加工など、部品製造の割合が多く、円安による原材料高の影響を見事に受けます。
円安倒産は、2014年の月間平均では20件~30件と、例年の2倍以上に上っています。

人手不足も、賃金上昇によるコスト高で収益を圧迫される中小企業が多い上、人手確保難から廃業に追い込まれる企業も目立っています。
2015年1-8月の人手不足倒産は207件と前年同期(198件)を上回っています。

企業の倒産は、経営者にとって、なんとしても避けなければならない事態です。そのためには、経営が悪化した場合の事業再生の方法を日ごろから把握しておくことが重要です。

ヒト、モノ、カネの循環的な回復が重要

経営の3要素の循環的な回復

企業経営には、ヒト(組織機能)、モノ(流通・生産機能)、カネ(金融機能)の3要素がしばしば指摘されます。これらは、別個に独立して存在するわけではありません。それぞれが相互に影響を及ぼす関係にあります。

例えば、資金繰りが悪化した、債務超過に陥ったなどの場合も、そこに至るまでには、景気や業界の動向、消費者の需要の変化、経営方針、労務管理、原価管理などのマネジメントによる要因が存在しているはずです。
 
そのため、事業の再生を考える場合、一時的な財務面だけの支援に頼るのではなく、財務状況が苦境に陥った原因を特定し、組織機能や流通・生産機能の見直しを同時に行う必要があります。

それによって、経営の3要素の循環的な回復を図ることが出来るのです。

企業再生の流れ

経営要素の循環的な回復を図る前提として、まず、経営者や従業員が企業再生に向けて熱意を持って取り組むことが大事です。それとともに、仕入先・販売先や債権者などのステークホルダー(利害関係者)の協力も不可欠になります。

経営再建といっても、仕入れや販売が円滑に行われなければ、それは“絵に画いた餅”に終わります。また、債権者の判断如何によって設備・物品などの事業基盤や企業そのものの存立が危うくなる恐れもあります。

企業の再生は、企業が倒産に陥りそうになった場合、そのまま会社を清算するのか、あるいは、債務の一部免除や弁済期間の繰り延べなどによって、事業の再構築を図ることが可能なのかをまず、判断する必要があります。

ただ、事業の再構築を図るといっても、いくつかの事業の中で、黒字の事業が存在する、あるいは、成長が見込める事業のあることが重要です。
 
黒字の事業あるいは、成長性の見込める事業が存在する場合は、黒字化に向けた徹底したリストラ(生産・販売設備の見直しや人件費等のコストの削減)を行います。すべての事業が赤字で、黒字化の見込みがない場合は会社の清算を行わざるを得ません。
 

企業再生に法的手続きと私的手続き

企業の再生には、法的手続きによる再生と、私的手続きによる再生があります。

法的手続きによる再生は、原則としてすべての債権者の要求を拘束し、弁済禁止の保全処分等により、企業資産の流出を防ぐことができます。
しかし、法的手続きの場合、手続きが長期化するだけでなく、手続き開始の申し立てを行うことで、「倒産」というマイナスイメージが広がり、取引の維持・拡大の上で、ダメージを受ける場合があります。

一方、私的な手続きは、金銭的・時間的なコストを抑え、仕入先や販売先の信用不安を回避することが可能で、柔軟な再生策の実行が可能です。
再生策としては、財務諸表や決算書などの通常の財務会計でなく、企業独自の管理会計の導入が有効です。

財務会計は、外部に対する情報公開の意味が大きいのですが、管理会計は、企業自身の収益性や採算性を明らかにし、再生への戦略を立てるのに有効です。

再生支援協議会を活用

「経営がおかしくなった」「販売が先細りになった」「このままでは倒産するかもしれない」経営者がそう判断した場合、すぐに事業再生に取り組む必要があります。

その場合、役立つのが、「中小企業再生支援協議会」です。いわば、中小企業の地域病院です。

現在、全国の各都道府県に設置され、企業の健康診断から、再生計画作成まで、さまざまな相談、支援を行っています。管理会計を含め、専門家のアドバイスを受けて適切な再生計画を作成することができます。

まとめ

企業が倒産を回避し、再建を図るには、いくつかの方法、流れがあります。また、再生を支援する公的な機関も存在します。それらを活用しながら、最も適した方法によって、経営の再建を図ることが大切です。

「経営者が再生に向けて強い意志を持っている」「現状、借入金の返済に苦しんでいるが、営業利益段階で利益を計上している」「銀行から再生計画の作成を求められた」「借入金の返済猶予を申し入れたが断られた」等々の企業は中小企業再生支援協議会に相談してみると良いでしょう。