企業経営にとって、「強い組織づくり」とは、不況期や為替環境の激変に耐えうる企業体質、あるいは、激しい販売競争に勝ち抜ける経営力、更には、不祥事など思わぬ事態に遭遇した際にそれを克服できる強靭な体質などが、そのイメージとして描かれます。
そのための組織づくりの基本となるのは、経営者の経営ビジョンであり、経営目標です。
中小企業の場合、これらのビジョン、目標は、トップ自らの起業理念から導かれるものです。
強い理念に裏打ちされた経営ビジョンが明確に示されていれば、事業の目指すべき目標、そのための組織のあり方、組織の目標はおのずから明確になるはずです。
強い組織づくりのための経営ビジョン、経営目標設定の視点や、組織のあり方、組織目標の着眼点などを考えていきます。
強い組織づくりの基本
経営体質の強い組織づくりは、経営者誰しも望むところですが、その基本には、経営理念に裏打ちされた経営者の明確な経営ビジョンがなければなりません。
経営理念は、経営者が企業の運営に当たって、経営の目的を明確にし、目的実現のために企業の組織が共有すべき価値観を文言として示したものです。会社によっては、「社是」「社訓」などと呼ばれているところもあります。
経営理念は、具体的には、企業の存在価値、使命ともいえます。その企業が社会にどんな価値を提供したいのか、商品・サービスの目的は何かという基本的な考え方です。基本的な考え方とともに、それを実現する上で重視する経営姿勢も忘れてはなりません。
経営を遂行する上で「常に挑戦する姿勢」あるいは「創意工夫」など、企業によってさまざまですが、そうした経営姿勢を明確に示すことが重要です。
そして、経営理念を社員一人ひとりにブレークダウンした「行動指針」を作ることも忘れてはなりません。「相互信頼」「協調性」「自己責任」等の仕事をする上でのガイドラインが行動指針です。
明確な経営ビジョンの設定
経営理念や行動指針ができれば、次に、経営ビジョンと経営目標を設定しなければなりません。
経営ビジョンは、企業の将来への展望を示すものであり、企業のあるべき姿といってよいでしょう。それは、経営者の思いの具現化ともいえます。経営者の思いは、経営理念にもつながりますが、トップの高い「志」(こころざし)であり、「思い入れ」でもあります。
トップの「思い」や「志」が社内で共有化されている企業ほど、強い組織の企業であるということができます。共通の価値観で組織が有機的に結合し、トップの目指す方向(ベクトル)に各組織がすべて同一化している企業が最強の体質を備えた企業といえます。
組織がトップと同一の方向を向くためには、経営ビジョンは、明確なメッセージで、しかも分かりやすくなければなりません。分かりやすく明確なメッセージはトップの「旗印」ともいえます。企業競争に打ち勝つために、この「旗印」を鮮明に打ち出せない経営者は、厳しい競争に勝ち残ることはできません。
経営目標の設定
「旗印」すなわち経営ビジョンを、日々の経営に活かすのは「経営目標」です。経営目標は大別すると、「事業目標」「組織目標」の二つに分けられます。事業目標は言うまでもなく、自社の将来像を具体的な業績数値として明確化したものです。業績目標の数値は、合理的根拠に裏付けられたものであり、最大限に努力して達成可能なものでなければなりません。
業績目標の設定には、売上高や利益金額などの実数で掲げるケースや、売上高利益率、資本利益率などの業績指標で設定するケースなどがあります。企業の規模、業態に応じて設定するとよいでしょう。また、サービス業など人件費割合の大きい企業では、労働生産性や1人当たり生産性などの目標を設定します。少ない商品数で市場競争を展開している場合は、市場シェア、業界ランクなどを目標値に掲げる場合もあるでしょう。
組織目標の着眼点
会社全体としての強い組織づくりのためには、前述した経営ビジョン、経営目標などの明確化が重要ですが、個々の組織づくりのためには、組織に応じた組織構造を目指す必要があります。
組織目標を設定する際の着眼点としては、例えば、経営幹部の育成やトップ後継者づくりを重視した組織づくりの場合、その点を考慮した組織構造を目指さなければなりません。また、会社全体で組織の活性化を図る場合、できるだけフレキシブルな体制を考慮する必要があります。
このほか、社員1人ひとりの能力開発に重点を置いた組織づくりや、自社だけでなく、得意先や仕入先などとのネットワークを考慮した組織体制など、企業の業態、業務に応じた組織づくりを目指す必要があります。
組織目標の設定には、数値を掲げる
組織目標の設定に当たってはできるだけ具体的な数値を掲げることが重要です。目標という以上、どのレベルを目指すのか、どの程度の割合なのか、など目に見える形で示す必要があります。
1. 従業員数と組織構造の明確化
組織目標の数値としては、まず、従業員数と組織構造を明確にします。具体的には「従業員1人当たり売上高」「従業員1人当たり人件費」「労働生産性」などの目標値を掲げます。
また、社員構成や人材状況、財務状況などの観点から、組織ごと、部門ごとに適正人員数などを設定します。それによって、業績目標等の経営目標を効率的に遂行するための組織の状況や将来に向けての組織構造などが明確になります。
2. 営業(生産)拠点数や設備投資などの決定
次に営業(生産)拠点数や設備投資などの組織構造について。企業の経営環境は、めまぐるしく変化しています。そうした外部の経営環境を踏まえて、営業拠点数やその配置、そのための設備投資を考える必要があります。
営業拠点数などは、市場の変化に応じて決める必要がありますが、設備投資については、生産高や売上高の増加などから、投資効果を測定し、投資額の目標、資金調達などを決めます。
3. 双方向対話を通じたOJTの実施
OJTはオン・ザ・ジョブ・トレーニングの略で、職場における研修、教育訓練です。人材・能力開発に欠かせないマネジメントツールのひとつですが、従来、OJTは、指導員、講師が、従業員に対する一方通行の形で、研修を行うのが一般的でした。
双方向対話型では、教える側と教えられる側の垣根を出来るだけ低くし、職場全体のコミュニケーションの形で研修等を実施します。その場合にも、職場や部署ごとに、月1回、あるいは半年に1回などOJT実施の数値目標を掲げます。
また、その成果を確認するために、それぞれの部署の業務に応じた数値目標、例えば、販売セクションであれば、売上目標などを設定します。
スピーディな経営のための組織改革
市場環境や経営環境の変化のスピードは、近年、加速の度合いを強めており、それに即応した迅速な意思決定のできる組織づくりが求められます。そのために、分権的組織の構築が必要です。事業部制や分社化などがその具体策です。
また、競争への対応や事業展開のスピード化のための対策、外部経営資源の活用などを図るため、合併・買収(M&A)等も、迅速な組織づくりのための有効策です。
以上のような組織づくりのためには、グループ企業等の再編を含んだ思い切った組織改革が重要となります。組織改革には、トップの強いリーダシップが不可欠であり、確固とした経営ビジョンや経営目標が前提となります。
まとめ
中小企業は大企業に比べて、人材や組織の面で、弱点があるといわれます。その弱点を克服できるのは、トップの強い経営力です。
それは、ワンマン経営ではなく、冷徹な分析力と将来への構想力に裏打ちされた指導力であり、社員とのコミュニケーション能力に優れた経営者であるといえます。