経営戦略という言葉をよく聞きますが、実は、その具体的な中身をきちんと理解されている経営者は少ないのではないでしょうか。企業の経営や事業を、漫然と行っている、あるいは、単に、売上、利益だけに関心が向いている社長さんも少なくないと思われます。
そうした企業や事業は、ちょっとした環境変化や競合企業の出現で、たちまち経営が行き詰まります。
経営戦略は、環境変化にも左右されず、激しい市場競争にも勝ち抜ける経営の“虎の巻”といってもよいでしょう。虎の巻といっても、奇策や手品ではなく、しっかりした社長の思い・経営ビジョンに裏打ちされた戦略を指します。
戦略の基本となるのは、SWOT分析による、自社の弱点と強みの明確化であり、強みを最大限に活かして事業チャンスを取り込み、自社の経営資源を、「選択と集中」によって投入する方策です。
今回は、SWOT分析を軸とした経営戦略の立案と、その実行策を考えてみました。
求められる経営ビジョン
経営戦略の基本としてまず求められるのは、経営環境を冷静に判断・分析したうえでの経営者の経営哲学、経営ビジョンです。
経営環境は、その時々の経済情勢や世界情勢によっても大きく変わりますが、そうした変化を踏まえながらも、企業の存在意義や社会に果たす役割を見据え、将来の企業のあり方、経営の方向、経営の目的を明示するのが経営哲学であり、経営ビジョンです。
経営哲学は、経営者の「思い」といっても良いでしょう。特に中小企業の場合、経営者である社長の考え方、信念、経営哲学は、ストレートに社員に伝わり、社員の働き方や意欲にも影響を及ぼし、ひいて業績を大きく左右します。
社長として、社会に果たす会社の役割や、企業の使命を明確に掲げないと、社員、従業員の仕事の方向が定まりません。
経営の使命は三つに分けられる
経営の使命すなわち企業の役割は、大きく三つに分けることが出来ます。
一番目は、経営上の目的、つまり、売上を伸ばし、利益を上げることです。その上で、二番目は従業員の能力を最大限に活かす、三番目に社会的責任を果たすという点です。
一番目の経営上の目的を実現するためには、トップとしての「マネジメント力」「改革推進力」「業務遂行力」が欠かせません。二番目の従業員の能力開発は、人を育てる、仕事のやりがいを与える、働く環境を作り出すことなどが必要です。三番目の社会的責任は、企業は社会あっての存在であり、社会への貢献がないと、将来にわたる企業存続が困難になります。社会への貢献としては、文化・教育活動やボランティア活動、地域や地球環境問題への貢献などが考えられます。
SWOT分析で自社の強み、弱みを知る
経営戦略の中核ともなる経営上の目的、すなわち売上を伸ばし、利益を上げるためには、近年、マネジメントツールのひとつとして重要視されているSWOT分析が不可欠です。
SWOT分析は、内部環境分析(自社の強み分析:Strengthと、弱み分析:Weakness)、外部環境分析(機会:Opportunityと、脅威:Threat)の二つの分析ツールで構成されます。
1960年代に米国で考案されたマネジメントツールのひとつで、日本でも、1980年代以降、経営分析手法として普及しました。
この手法は、一言で言えば、自社の強みと弱みを分析し、強みを最大限に生かせる事業機会を積極的に取り込んで、経営資源を投入する手法です。
脅威というのは、思わぬ外部環境の変化や不祥事などで、経営が危機にさらされるケースなどです。そうした場合に、経営への影響を最小限にとどめる対策を講ずる必要があります。
マトリクス表に整理して解決策を見出す
SWOT分析は、専門家や経営コンサルタントに頼まなくても、トップ自ら分析を行うことができます。ポイントは、企業を取り巻くさまざまな要素を、強み(S)、弱み(W)、事業機会(O)、脅威(T) の四つに分類し、マトリクス表にまとめます。そうすることで自社の強みと弱みを一目瞭然に整理でき、解決策を見つけやすくなります。
マトリクスに整理する段階では、社員や関係者が意見を出し合い、問題意識を共有することも、解決策の実行に効果があります。
SWOT分析は二段階で作成します。まず、第一段階では、自社の事業や組織におけるS、
W、O、Tをそれぞれ抽出します。第二段階は、分析の実行に向けた対策の作成です。その場合、第一段階のうち、SとWについて、より具体的に、しかも対策の方向性を併せて示します。
例えば、企業の持つ人材、設備、資金、技術、情報、拠点などについて、それぞれのSとWを抽出し、強みを生かすための方策を盛り込みます。
Wすなわち弱点については、事業や組織の縮小ないし転換を含めた見直し策を示します。もちろん、仕分けが難しい場合もありますが、一般的には、内部環境分析では、その企業内で改善することの出来る対策が中心になります。
分析結果の実行に重要なマネジメント力
SWOT分析の結果を実行する際に重要になるのが、トップの「マネジメント力」や「改革推進力」「業務遂行力」です。「マネジメント力」は経営ビジョンに基づいた経営力すなわち、組織、人材の活用策です。組織を運営するための人材の配置や人材の能力開発、育成強化などが求められます。
変化に対応した改革推進力が不可欠
改革推進力は、外部環境の変化に対応した組織、人材の配置等の見直しです。経営に必要なのは、惰性や旧態依然の経営を排することであり、不断の見直しが重要です。
企業を取り巻く環境は、経済分野であれ社会情勢であれ、場合によっては国際的な政治経済の環境変化も企業経営に影響を及ぼすことがあります。
外部環境のこうした変化に対応するためには、経営の見直し、不断の改革の推進が不可欠です。従来の経営の延長線上に企業の未来はありません。変化に対応できなかった企業は、市場からの退場を迫られます。
改革の目標は、単に売上や利益を伸ばすことだけではありません。もちろん、株主や従業員などの利害関係者の期待に応えるための財務上の目標は重要です。しかし、それ以外にも、顧客への対応としての改革目標の設定、業務プロセスの改革なども課題です。
例えば、顧客へのどのようなサービスが求められるか、顧客満足度をより向上させるための対策は何かなどの指針や指標が必要です。さらに日常における業務プロセスでは、製品販売やサービスのスピードアップ、効率化のための方策などが求められます。
業務遂行力は、以上のような業務改革を確実に実行するための推進力となるもので、経営的にはPDCAサイクルと呼ばれます。P(Plan:計画)→D(Do:実行)→C(Check:評価)→A(Action:改善)のサイクルを回しながら、経営目標の達成を目指す手法です。
「競争優位」「コスト削減」などの経営目標を掲げる
経営目標は、経営戦略上の核となるもので、トップの経営理念や経営ビジョンに裏付けられた具体的な計画といえます。
経営目標としては、例えば、激しい市場競争を展開している業界では、「競争の優位性」確立を第一の目標として掲げる企業もあるでしょう。そのためには、市場占有率、顧客数、売上高等の数値目標を掲げるケースも必要です。
コスト削減を第一の目標に掲げる企業では、省力化や自動化、合理化を推進する必要があります。品質の向上を目標とする企業の場合は、クレーム件数の削減や返品率の改善、定期的なアンケート調査による品質改善策に取り組むことが大事です。
まとめ
以上のような経営目標を達成するための企業の経営戦略は、SWOT分析による強みを生かした経営と、経営資源の集中投入及び、組織、人材活用などの総合的な経営力強化によって、市場競争に勝ち残るための方策といえます。
経営戦略は、その企業の業態、市場環境などによって異なりますが、目標達成の分析ツールであるSWOT分析は、どの企業にも適用できます。SWOT分析によって、企業の現状を分析し、それを踏まえた経営目標の構築とそれに向けた実行は、経営戦略そのものといってよいでしょう。