- ホストに書かされた借用書が有効な場合と無効な場合の違いがわかる
- 有効な借用書は裁判で証拠となる
- 借用書が無効でもホストクラブの売掛金は原則として支払う必要がある
- 有効な借用書で返済を迫られ、払えないときは債務整理が有効である
ホストクラブでツケを利用し、売掛金がたまると借用書を書かされることがあります。その後はホストが借用書を盾として、まるでサラ金か闇金のように厳しい取り立てをしてくることが少なくありません。
しかし、借金をしたわけでもないのに借用書を書かされることに違和感を感じる方もいらっしゃることでしょう。ホストに書かされた借用書は基本的には有効ですが、実は無効な場合も少なくないので、注意が必要です。
この記事では、ホストに書かされた借用書が有効か無効かを判断するポイントや、売掛金が払えないときの対処法を詳しく解説します。
そもそも借用書とは?
借用書とは、お金の貸し借りをする際に借主が作成し、貸主に差し出す文書のことです。借入額や返済期限、利息の有無や金利などを記載し、「私はあなたから○○円を借りました。期限までに必ずお返しします」という趣旨で差し出します。
これが本来の意味での借用書ですが、お金の貸し借り以外の債権・債務がある場合にも借用書が作成されることがあります。例えば、何らかの売買代金やサービス代金がまだ支払われていない場合に、その金額を貸し借りしたことにして借用書を作成するのです。
このように、借金ではない債権・債務を借金という形に換える約束のことを「準消費貸借契約」といいます。
ホストがお客に書かせる借用書は、売掛金を貸し借りしたことにして作成されます。準消費貸借契約に基づく借用書であり、法律上有効な文書です。
借用書と契約書の違い
借用書と契約書は似ていますが、以下の違いがあります。
借用書 | 契約書 | |
---|---|---|
作成者 | 借主のみ | 借主と貸主 |
法的効力 | 借主のみが拘束される | 双方が拘束される |
記載事項 | 簡潔なことが多い | 詳細なことが多い |
借用書は借主が単独で作成するものですが、契約書は借主と貸主の双方がサインして作成するものです。
貸金業者から借金する場合には、「金銭消費貸借契約書」が作成されます。双方の権利・義務を詳細に規定して、「お互いに合意した条件を守って取引をしていきましょう」という趣旨で取り交わします。
それに対して、個人間でお金の貸し借りをする場合には、借主が果たすべき義務のみを記載した借用書を作成することが多いです。借用書の方が簡単に作成できるから、という理由もあるでしょう。
ホストがお客に書かせる文書は、ほとんどの場合が契約書ではなく借用書です。ただし、借主が文書に記載されたとおりの条件で返済義務を負うという意味では、借用書と契約書に違いはありません。
借用書の法的効力
ホストに借用書を書かされたら、法律で売掛金の支払いを強制されるのか、ということが気になるでしょう。借用書の法的効力は以下のとおりです。
お金の貸し借りをしたことの証拠となる
法的には、借用書はお金の貸し借りをしたことの証拠としての意味を持ちます。
借金(金銭消費貸借)にせよ、準消費貸借にせよ、契約そのものは口約束で成立します。借主が約束どおりに返済すれば問題はありませんが、返済しない場合、貸主は裁判をしなければならないことがあります。
裁判では、証拠の裏付けがない主張や請求は認められません。このとき、有効な借用書があれば債権・債務の証拠となり、貸主勝訴の判決が言い渡されます。
法律上の強制力はない
ホストクラブの売掛金を支払えない場合、借用書があったとしても、それだけでいきなり差し押さえを受けることはありません。
貸主が借主の財産を差し押さえるためには、確定した判決書などの「債務名義」と呼ばれる文書が必要です。借主が私的に作成しただけの借用書は、債務名義として認められないのです。
その意味で、借用書に法律上の強制力はないといえます。ただし、貸主が裁判を起こして勝訴すれば強制力のある判決書が発行されますので、ホストからの返済要求を無視することは禁物です。
ホストが客に借用書を書かせる理由
ホストが客に売掛金を請求する際に、わざわざ借用書を書かせることには以下の理由があります。
請求額を明確にするため
借用書が作成されると、ホストからの請求額が一目瞭然となります。
お客が売掛金を精算しないままツケを繰り返した場合、未払い金がいくらたまっているのかがわかりにくくなることがあります。そんなとき、債務を一本化するような形で1枚の文書を作成できれば、ホストにとっては便利です。
そこで、未払いの売掛金とひとまとめにして貸し借りをした形をとり、請求額を明確にするために借用書を書かせるのです。
売掛金の証拠を作るため
借用書は、売掛金の証拠としての法的効力を持ちます。
ホストは、ツケを繰り返すお客に対しては、本当に支払ってくれるのかという不安を感じています。売掛金を回収できなければ自腹で補填しなければならないため、場合によっては裁判をしてでも回収しようと考えているのです。
借用書がなくても裁判はできますが、売上伝票だけではお客が来店して注文した事実を証明できず、敗訴する恐れもあります。その点、借用書があれば債権・債務を簡単に証明できます。
つまり、ホストは裁判まで見据えて、お客に借用書を書かせているのです。
利息を請求するため
ホストが売掛金を請求する際、お客に借用書を書かせれば利息の請求も可能となります。
通常、売掛金に利息はつきません。個人間の債権・債務では、別途の合意がない限り利息は請求できないのです。しかし、売掛金について準消費貸借契約を結ぶ際に合意すれば、利息を請求できるようになります。
お客としても、借用書というタイトルの文書を書くとなると、「利息をとられるのも仕方ないか」と考え、合意しやすい傾向にあります。
このようにして、ホストはお客から少しでも多くのお金を引き出そうとすることがあるのです。
お客に心理的な圧力を与えるため
ホストがお客に借用書を書かせる目的の一つとして、心理的な圧力を与えるということも挙げられます。
売掛金がツケという形のままでは、お客は「そのうち払います」という対応をしがちです。
しかし、借用書という形をとり、返済期限や利息まで記載された文書にサインすれば、「払わなければ大変なことになる」と考えることでしょう。
ホストへの借用書が無効となるケース
ホストに書かされた借用書は、法的に無効であることも少なくありません。以下のケースでは借用書が無効となりますので、確認していきましょう。
記載事項に不備がある
借用書の様式に決まりはありませんが、準消費貸借契約の構成要素が明確に記載されていない場合は法的な効力が生じません。
具体的には、以下の事項のいずれかについて、記載の不備があると借用書が無効となります。
- 借主の氏名、住所
- 貸主の氏名、住所
- お金を借りた(ことにした)事実、その金額と日付
- 返済する約束をしたこと
「返済期限」も重要ですが、返済期限の記載がなくても借用書は有効であることにご注意ください。なぜなら、返済期限を定めていない場合でも、貸主が相当の期間を定めて催告し、その期間が経過すれば返済期限が到来するからです。
「利息」や「遅延損害金」についても、記載がなければホストが利息や遅延損害金を自由に請求できないものの、借用書そのものが無効となるわけではありません。
法外な金利の記載がある
利息の記載がある場合、その金利が法外なものであれば借用書が無効となる可能性があります。
個人間のお金の貸し借りでも利息を定めることは認められますが、出資法で上限金利が年109.5%と定められています。これを著しく上回る金利を伴う場合、契約全体が無効になると最高裁判所で判断されます。
「10日で1割」や「月に30%」といった金利が記載されていれば、年109.5%を大きく上回っていますので、契約無効となる可能性が高いといえます。
ただ、準消費貸借契約が無効であっても、元の売掛金債務まで無効となるとは限りません。それでも、借用書が無効であれば利息を支払う必要はありません。
時効が成立している
借用書に記載された債務が消滅時効にかかっている場合は、元金・利息とも支払う必要はありません。
個人間の金銭債務の時効期間は、民法改正により複雑化していますが、整理すると以下のとおりです。
債務発生日 | 時効期間 |
---|---|
2020年3月31日以前 | 10年 |
2020年4月1日以降 | 5年 |
なお、時効期間が経過しても、自動的に借用書が無効となるわけではありません。時効を援用することによってはじめて、借用書を無効化できるのです。
時効の援用を行うには、証拠を残すために「消滅時効援用通知書」を内容証明郵便で作成し、ホストの自宅またはホストクラブへ送付しましょう。
未成年者が単独で作成した
未成年者が親権者など法定代理人の同意なく結んだ契約は、取り消せます。準消費貸借を取り消せば契約がなかったことになるので、借用書は無効です。
この場合、店での飲食やサービスの契約も取り消せば、返済義務は一切なくなります。
ただし、未成年者でも成人であると偽ってサービスを受け、準消費貸借契約を結んだ場合は取り消せないことに注意が必要です。
騙されて書かされた
ホストに騙されて借用書を書かされた場合も、準消費貸借契約を取り消して借用書を無効化できます。
例えば、店では30万円分のサービスを受けていないにもかかわらず、お客が金額を把握していないのをよいことに、ホストが「50万円のツケがたまっている」と騙して借用書を書かせたとしましょう。このような場合には、民法上の詐欺を理由として準消費貸借契約を取り消せます。
ただし、このケースでは30万円の限度では借用書が有効となる可能性もあることにご注意ください。
無理やり書かされた
ホストから暴行や脅迫を受けて借用書を無理やり書かされた場合も、民法上の強迫を理由として準消費貸借契約を取り消し、借用書を無効化できます。
ただし、借用書が無効になったとしても、元の売掛金債務まで無効になるとは限らないことに注意が必要です。
借用書が無効と思われがちだが有効なケース
以下のケースでは、借用書が無効と思われがちですが、実は有効なので注意しなければなりません。
署名または捺印がない
日本では、借用書や契約書に本人の「署名」と「捺印」の両方がなければ無効になると考える人が多いですが、どちらか一方があれば有効です。より正確にいえば、署名か捺印のどちらかがあれば、法律上、その文書が「真正に成立したものと推定」されます。
「真正に成立した」というは、その文書を名義人自身が作成した、という意味です。
「推定」されるというのは、その文書が無効であると主張する人が「自分が作成したものではない」ことを証明しなければ、裁判で有効なものとして扱われるということです。
したがって、例えば「ホストが書いた借用書にサインしたけれど、印鑑を押してないから無効だ」という主張は認められません。
後から借用書を書いた
売掛をした時ではなく後日に借用書を書くこともあります。
例えば、正確な返済金額が分からない場合に、後から「○○円を返済する」などと書類に明記するケースです。
客側にとっては返済金額がハッキリする、ホストにとっては書類にすることで返済の圧力を加えられると双方にメリットがあります。
この場合は借用書ではなく債務承認弁済契約書という書類になりますが、借金を返す義務があることは変わりません。
収入印紙が貼られていない
借用書に記載した借入額が1万円以上の場合は、収入印紙を貼る必要があります。しかし、ホストから売掛金の支払いを迫られて借用書を書く場合には、収入印紙を貼っていないことが多いようです。
しかし、収入印紙が貼られていない借用書でも、税法には違反するものの、民法上は有効です。つまり、準消費貸借は有効に成立しており、裁判でも有効な証拠となります。
金利が利息制限法違反だが出資法の範囲内
先ほど、法外な金利の記載がある借用書は無効であると解説しました。この点、利息制限法に違反する高金利であっても出資法の範囲内の金利であれば、借用書全体が無効となるわけではないことにご注意ください。
個人間のお金の貸し借り(準消費貸借を含みます。)における、利息制限法と出資法の上限金利は以下のとおりです。
借入額 | 利息制限法 | 出資法 |
---|---|---|
10万円未満 | 20% | 109.5% |
10万円以上~100万円未満 | 18% | 109.5% |
100万円以上 | 15% | 109.5% |
利息制限法と出資法の上限金利の中間に当たる金利が記載されている場合にはどうなるのかというと、利息制限法の上限金利の限度で借用書が有効となります。
例えば、借入額として50万円と記載されている場合、利息制限法の上限金利は年18%です。金利が「月に5%」(年60%)と記載されていれば、年18%を超える部分の42%は無効となりますが、金利年18%の定めがある借用書として有効となるのです。
ホストから借用書に基づき返済を迫られたときの対処法
それでは、ホストから借用書を盾に返済を迫られたときには、どうすればよいのでしょうか。以下で、状況別に対処法をご紹介します。
借用書が有効か無効かを確認する
まずは、借用書が有効か無効かを確認する必要があります。有効・無効の判断基準はこれまでに解説してきましたが、それでも一般の方が的確に判断するのは難しいことも多いものです。
できる限り、弁護士に相談して有効・無効を判断してもらった方がよいでしょう。
借用書の控えを保管していない場合には、ホストから確認のために見せてもらい、スマホなどで撮影するとよいでしょう。それもできない場合には、記憶の限りで弁護士に事情を伝えるしかありません。
返済義務がないときは拒否する
借用書が無効で、かつ、元の売掛金債務も無効の場合は、返済義務がありません。元の売掛金債務が無効になるケースとしては、以下のような場合が考えられます。
- 店でホストから騙されたり、脅されたりして無理やり注文させられた
- お客が未成年者だった
- 売掛金債務の消滅時効が完成している
売掛金債務の消滅時効期間は、2020年3月31日以前に店を利用した場合は1年、同年4月1日以降に店を利用した場合は5年です。
返済義務がない場合は、返済を拒否できます。毅然とした態度で理由を告げ、返済を断りましょう。
取り立てが止まらないときは警察に相談する
正当な理由を告げて返済を拒否しても、ホストが素直に引き下がるとは限りません。その後も執拗な取り立てを受ける可能性は十分にあります。
激しい取り立てが止まらない場合には、警察に相談することも一つの解決方法です。
暴行や脅迫、誹謗中傷、器物損壊などの実害が生じている場合や、つきまといが行われているような場合は、被害届を提出すれば警察がホストを検挙してくれる可能性があります。
返済義務があるときは返済方法を交渉する
借用書が有効な場合や、無効でも元の売掛金債務が有効で返済義務があるときは、ホストの言い分の方が正しいので返済する必要があります。
一括ですぐに返済できない場合には、分割払いや返済期限の延長などを交渉してみましょう。ホストとしても、裁判や差し押さえのために手間とコストをかけるよりも、任意に支払ってもらう方がありがたいはずです。
誠意をもって交渉すれば、柔軟に対応してもらえる可能性が十分にあります。場合によっては、借用書に記載された金額から減額してもらえるかもしれません。
どうしても払えないときは債務整理をする
ホストとの交渉がまとまらない場合や、他にも借金があって支払いが厳しい場合には、債務整理が有効です。
債務整理とは、合法的な手段で借金を減免してもらうことが可能な救済制度のことです。
ホストへの売掛金や、借用書に基づく返済義務も債務整理の対象となります。債務整理には、主に以下の3種類があります。
- 任意整理…債権者と直接交渉して借金を減らしてもらう手続き
- 個人再生…裁判所に申し立てをして借金を大幅に減らしてもらう手続き
- 自己破産…裁判所に申し立てをして借金を全額免除してもらう手続き
任意整理では債権者との交渉が必要ですが、他の借金の返済の負担を軽減すれば、ホストに返済しやすくなる可能性があります。
個人再生と自己破産では、債権者との交渉は不要で、一定の要件を満たせば裁判所の決定をもって強制的に借金が減免されます。
借用書を渡したホストへの対応を弁護士に依頼するメリット
ホストに借用書を書かされ、返済を迫られて困ったときは、弁護士に対応を依頼することが最善の対処法となります。
法律の専門家である弁護士に依頼することで得られるメリットは、以下のとおりです。
- 借用書の有効・無効を判断してもらえる
- ホストへの返済義務の有無がわかる
- ホストに警告して強引な取り立てを止めてもらえる
- ホストとの交渉を任せられる
- 債務整理が必要な場合も手続きを一任できる
弁護士が代理人として全面的にサポートしてくれるので、依頼者はホストと直接やりとりする必要がありません。身の安全を守るためにも、弁護士への相談・依頼を検討してみましょう。
まとめ
ホストがお客のツケを回収するために借用書の作成を求めること自体は、合法です。
しかし、その借用書が法的に有効か無効か、さらには無効であっても売掛金の返済義務があるかどうかについては、慎重に判断しなければなりません。
的確に対応するためには、専門的な知識や交渉力が要求されますので、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
ホストから返済を迫られたときは、返済義務がある場合もない場合も、弁護士の力を借りることでスムーズな解決が期待できます。