- 任意整理は債権者の一部とだけ、一社とだけでもできる
- 保証人がいる場合やローンを支払中の場合などは一部だけの任意整理がおすすめ
- 一部だけの任意整理でもブラックリストに登録されるなど、デメリットにも要注意
- 一社とだけの任意整理は弁護士・司法書士への依頼がおすすめ
債務整理を検討している方で複数の貸金業者から借り入れがある場合、その一部だけを任意整理できないかと考える方もいらっしゃるでしょう。その場合、一社だけを任意整理することは可能です。
多重債務を抱えているなら、まとめて全面的な解決を図ることが望ましいですが、状況に応じて、一部だけ・一社だけの任意整理をするのも有効な方法となりえます。
ただし、部分的な任意整理には注意すべきポイントもいくつかあります。
この記事では、一部だけ・一社だけ任意整理をするメリットや注意点などについてわかりやすく解説します。
債権者の一部とだけ任意整理することは可能?
任意整理は柔軟に債務整理の手続きをすることができます。債権者が複数いる場合、その一部とだけ任意整理をすることが可能です。
任意整理とは、債権者と個別に交渉することにより、借金の減額や支払期限の延期などを取り決める手続きです。どの債権者と、どこまで交渉するかは個別に決めることができます。
一部の債権者とだけ任意整理をし、他の債権者に対しては今までどおりに返済を継続することに問題はありません。
自己破産・個人再生は全債権者を対象としなければならない
それに対して、自己破産や個人再生は、全債権者を対象として行う必要があります。
自己破産および個人再生は、裁判所の手続きを通じて借金の減免を図る手続きです。裁判所の決定をもって強制的に借金が減免されるものであるため、画一的な処理が求められるのです。
そのため、自己破産および個人再生では、すべての債権者を平等に取り扱わなければならないという「債権者平等の原則」が適用されます。
このように一部の債権だけを対象に債務整理をしたいならば、任意整理を選択することになります。
一部の債権者とだけ任意整理をするメリット
一部の債権者とだけ任意整理をすることには、以下のようなメリットがあります。
保証人に迷惑がかからない
保証人や連帯保証人が付いている借金がある場合には、その借金を除外し、他の借金だけを任意整理すれば、保証人や連帯保証人に迷惑をかけることなく借金問題を解決できる可能性があります。
この点、自己破産および個人再生では、保証人や連帯保証人が付いている借金も手続きの対象となります。そのため、保証人や連帯保証人が債権者から返済を請求されてしまうことになります。
ローン支払中の財産を残せる
住宅や家などをはじめとして、ローンで購入したものの返済が残っている場合には、そのローンを除外し、他の借金だけを任意整理すれば、ローン支払中の財産を手元に残しつつ借金問題を解決できる可能性があります。
この点、自己破産および個人再生を申し立てると、ローンも手続きの対象となり、その返済をストップしなければなりません。そうすると、債権者に商品を引き揚げられたり、不動産は競売にかけられたりしてしまいます。
特定の債権者に優先して返済することも可能
親族や知人からの借金、会社からの借り入れなど、「これだけは支払いを続けたい」という債務がある場合にも、任意整理は有効です。
他の借金だけを任意整理して返済の負担を軽減し、特定の債権者にのみ優先して返済することが可能となります。
こうすることで、お金を貸してくれた親族や知人、会社とのトラブルを回避できます。また、これらの人たちにバレずに任意整理をすることができます。
費用や労力の負担を抑えられる
任意整理の手続きは自己破産や個人再生と比べると簡便です。任意整理を選択すれば、手続きにかかる費用や労力の負担を抑えられるというメリットがあります。
弁護士・司法書士に任意整理を依頼する場合の費用は、一社につきいくら、という計算によって決まることが一般的です。そのため、一部だけ・一社だけの任意整理をこれら専門家に依頼すれば、費用を最低限に抑えることが可能です。
自己破産・個人再生を回避できる
債務整理が必要な場面でも、自己破産や個人再生だけは避けたいと考える方は少なくありません。そんなときでも、任意整理をすることで自己破産や個人再生を回避できる可能性があります。
例えば、複数ある借金のうち、一部の借金だけ金利が高かったり、一部の債権者からの取り立てが厳しかったりすることもあるでしょう。
他の借金については返済の継続が可能でも、一部の借金が原因で全体的に返済不能に陥るケースもあります。
このような場合にも、問題のある借金だけを任意整理することで、自己破産や個人再生を回避しつつ借金問題を解決できる可能性があります。
一部の債権者とだけ任意整理するときの注意点
一部の債権者とだけ任意整理をすることには、デメリットもあります。以下の点には注意が必要です。
交渉に応じない債権者もいる
任意整理の交渉に応じるかどうかは、債権者の任意に委ねられています。債権者が交渉に応じなければ、任意整理は成立しません。
交渉に一切応じない債権者も、わずかですが存在します。交渉には応じるものの、厳しい和解条件を要求する債権者もいます。
基本的には柔軟な交渉に応じる債権者との任意整理でも、状況によっては和解条件が厳しくなることがよくあります。特に、取引期間が短かったり、延滞歴が多かったりすると、短期間での完済を求められたり、利息を要求されたりすることが多いです。
このような問題があるため、一部だけ・一社だけの任意整理では思うように借金を減らすことができず、解決に至らないおそれがあることにご注意ください。
整理できない債務もある
債務の種類によっては、そもそも任意整理の対象とならないこともあります。代表例として、次のようなものが挙げられます。
- 税金
- 社会保険料
- 養育費や婚姻費用
- 損害賠償金
- 罰金
これらの債務を支払えない場合は、債務整理以外の方法で個別に解決する必要があります。借金問題とは別に、弁護士・司法書士に相談して専門的なアドバイスを受けた方がよいでしょう。
個人間の借金は任意整理の対象になりますが、交渉が難航することも多く、その場合は自己破産または個人再生による強制的な解決を図る必要性が出てきます。
ブラックリストに登録される
一部だけ・一社だけの任意整理でも、ブラックリストに登録されてしまいます。正確にいうと、信用情報機関のデータベースに「債務整理」「長期延滞」「異動」などの事実が、事故情報として登録され、今後の信用取引に支障をきたしてしまいます。
ブラックリストに登録されると、新たな借り入れやクレジットカードの新規作成ができなくなるだけでなく、手持ちのクレジットカードもやがて使えなくなることに注意が必要です。
なぜなら、クレジットカード会社は顧客の支払い能力を定期的にチェックするために、「途上与信」を実施しているからです。途上与信の際に信用情報もチェックされるため、事故情報が登録されていると、会員規約に基づきカードが強制解約されてしまいます。
そのため、「クレジットカードを使い続けたいので、クレジットカード会社以外と任意整理をする」と考えても、その目的を果たすことはできません。
自己破産や個人再生への切り替えが難しくなることがある
任意整理をしたものの、和解後の返済が厳しくなったなどの理由により、自己破産や個人再生への切り替えが必要となることも少なくありません。
しかし、一部だけ・一社とだけ任意整理をした場合には、自己破産や個人再生へ切り替えに支障をきたすことがあります。なぜなら、一部の債権者とだけ任意整理をすると、整理しなかった債権者との間に不公平が生じ、債権者平等の原則に反する状態となるからです。
任意整理しなかった債権者に対しては優先的に返済したことになりますが、これは「偏頗弁済」にあたります。
自己破産の場合
自己破産では、偏頗弁済は免責不許可事由のひとつとされているため、自己破産を申し立てても原則として借金は免除されません。
実際には、任意整理を経て自己破産を申し立てた場合には、裁判所の裁量によって免責が許可される(「裁量免責」といいます。)ことが多いですが、裁量免責の許否を判断するために管財事件となる可能性が高いです。
管財事件になれば、破産管財人が選任されます。そして、偏頗弁済した金額を別途用意して、破産管財人へ預けるように指示されます。破産管財人は、その金額を各債権者へ配当します。
このプロセスを完了することによって、裁量免責が許可されるのが基本です。それとは別に、最低20万円の管財費用も納めなければなりません。
個人再生の場合
個人再生では、偏頗弁済した金額は、本来なら全債権者への返済に充てられたはずのお金なので、「清算価値」に加算されます。清算価値とは、債務者が所有する全財産の評価総額のことです。
個人再生では、最低限、清算価値以上の金額を返済しなければならないとされています。
そのため、一部の債権者とだけ任意整理をして、ある程度返済した後に個人再生に切り替えると、清算価値が増加することにより、個人再生による返済額が本来よりも高額になる可能性があります。
このように、任意整理後に自己破産や個人再生ができなくなるわけではありませんが、スムーズに解決することは難しくなる可能性がありますので、注意しましょう。
一社とだけの任意整理を弁護士・司法書士に依頼するメリット
一部だけ・一社とだけの任意整理をお考えの際は、まず弁護士・司法書士に相談しましょう。任意整理をすることになったら、その手続きは借金問題に強いこれら専門家に依頼するのがおすすめです。
専門家のサポートを受けることにより、以下のメリットが得られます。
債権者からの督促が止まる
弁護士・司法書士に任意整理を依頼すると、すぐに受任通知が発送されます。これら専門家が本事案の代理人になったことを知らせる通知です。債権者が受任通知を受け取った後は、督促が止まります。
例えば、親族や知人からの借金を優先的に返済するために、金融機関からの借金だけの任意整理を弁護士・司法書士に依頼した場合は、金融機関にだけ受任通知を送付し、督促を止めてもらえるのです。
そうすることで、親族や知人からの借金を返済しやすくなります。また、一部の債権者からの督促が止まるだけでも、精神的な負担が大きく軽減されるでしょう。
有利な条件での和解が期待できる
任意整理の交渉を弁護士・司法書士に任せることで、自分で交渉した場合よりも有利な条件での和解が期待できます。
一般的に金融機関や貸金業者は債務者本人との交渉にも応じてくれますが、その場合には、不利な和解案を押し付けてくることが多いです。
具体的には、短期間での完済を求められたり、利息を要求されたりして、思うように返済の負担を軽減できないことになりがちです。
しかし、弁護士・司法書士は、基本的に以下の条件で債権者と交渉します。
- 今後の利息を全額カット
- できる限り、遅延損害金もカット
- 残元金を3~5年程度の分割で返済
債権者としても、専門家が介入すると債務者本人へは請求できないため、譲歩することが多いです。その結果、有利な条件での和解が期待できるのです。
交渉次第では、より長期の分割で和解できることもあります。
デメリットを回避し、最適な解決方法を選択できる
状況によっては、一部だけ・一社だけの任意整理が適していないケースもあります。そんなときに無理をして任意整理をすると状況が悪化し、自己破産や個人再生に切り替えても手続きに支障をきたすことにもなりかねません。
借金問題を解決するためには、状況に合った最適な方法を選択することが重要です。
借金に強い弁護士・司法書士に相談すれば、豊富な経験を踏まえて、最善の解決方法を提案してもらえます。一部だけ・一社だけの任意整理によるデメリットを回避して、最初から最適な解決方法を選択することが可能となるでしょう。
まとめ
一部だけ・一社だけの任意整理もできますが、デメリットもあります。
保証人がいる場合や、ローン支払中の財産がある場合、親族や知人、会社からの借り入れを整理したくない場合などでは、一部だけ・一社だけの任意整理も有効です。
しかし、特段の事情がないのであれば、多重債務はなるべく一度に全面的な解決を図る方が望ましいといえます。
最適な解決方法を見つけるためにも、まずは弁護士に相談し、専門的なアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。