- 簡易裁判所の支払督促を無視すると財産を差し押さえることがある
- 「支払督促」と題する架空請求のハガキには注意が必要である
- 2週間以内に異議申立てをすれば分割払いの和解も可能となる
- 支払督促された借金を払えないときは債務整理で解決できる
借金の滞納を続けていると、簡易裁判所から「支払督促」という書類が届くことがあります。
支払督促は、貸金業者や債権回収会社から送られてくる督促状や催告状とは異なり、裁判所の手続きを経て送られてくるものです。そのため、無視すると取り返しのつかないことにもなりかねません。
しかし、一定の期間内に異議申立てを行えば、時間の余裕を持って借金問題に対処することも可能となります。
とはいえ、突然、裁判所から書類が届くと驚いてしまい、どうすればよいのかがわからないことが多いことでしょう。
そこでこの記事では、簡易裁判所の支払督促が届いたときに確認すべきことと、異議申立てなどのやるべきことについて、わかりやすく解説します。
簡易裁判所の支払督促とは?
支払督促とは、主に金銭債権を有する債権者が簡易裁判所へ申し立てを行い、その請求に理由があると認められると、裁判所書記官が債務者に対して支払いを命じるという法的手続きです。
通常の民事裁判は原告(訴えた側)と被告(訴えられた側)が、裁判期日を重ねて主張と立証を尽くし、最終的に判決の言い渡しを受ける手続きです。
それに対して支払督促では、裁判所が債務者側の言い分を聞くこともなく、債権者が申立時に提出した資料のみで債権の存在が確認されると、ただちに支払いが命じられるという特徴があります。
つまり、簡易裁判所から支払督促が届いたときには、すでに裁判所から支払いを命じられていることを意味するのです。
支払督促が届いたときに確認すべきこと
支払督促は上記のように極めて重要な意味を持つ書類ですので、届いたときは落ち着いて、以下の3つのポイントを確認しましょう。
債権者名に心当たりがあるか
まずは、支払督促の書類を見て「債権者」の欄に記載されている業者名をご確認ください。
ここには滞納している借金の債権者名が記載されていますが、実際には身に覚えのない業者名が記載されていることが少なくありません。
なぜなら、銀行カードローンの場合は代位弁済をした保証会社、消費者金融やクレジットカード会社の場合は債権譲渡や委託を受けた債権回収会社が支払督促を申し立てていることが少なくないからです。
元々の借入先の業者名は別紙に記載されているはずですので、別紙までしっかりと確認しましょう。わかりにくい場合は、弁護士または司法書士に相談すれば教えてもらえます。
架空請求ではないか
悪質な業者が簡易裁判所の支払督促を装って架空請求の郵便を送ってくることもあるので、注意が必要です。
簡易裁判所の支払督促であれば「封書」で「特別送達」によって送られてきます。
簡易裁判所を名乗っているにもかかわらずハガキが届いた場合や、封書でも普通郵便で届いた場合は架空請求などの詐欺である可能性が高いです。
この点についても、わかりにくい場合は弁護士または司法書士に相談して見てもらえば安心できます。
訴状ではないか
貸金業者や債権回収会社の申立てにより簡易裁判所から送られてくる書類には、「支払督促」の他にもう1種類「訴状」というものがあります。
訴状が送られてきた場合は、通常の民事訴訟を提起されたことを意味します。書類の標題の部分に大きな文字で「支払督促」または「訴状」と記載されているはずですので、どちらであるのかを確認しましょう。
訴状が送られてきた場合にやるべきことは、支払督促に対して異議申立てをした後にやるべきことと同じですので、引き続き解説をお読みください。
簡易裁判所の支払督促を無視するとどうなる?
前項で解説したポイントを確認した結果、間違いなく簡易裁判所から送られてきた支払督促である場合は、決して無視をしてはいけません。無視をすると、以下の流れで強制的な債権回収手続きが進められてしまいます。
仮執行宣言が付与される
債務者が支払督促を受け取った後、2週間以内に異議申立てをしなければ、債権者の申立てにより支払督促に仮執行宣言が付与されます。
仮執行宣言とは、民事訴訟の判決が確定する前に債権者が強制執行を申し立てることを可能とする、裁判所による宣言のことです。
支払督促は訴訟手続きを経ていませんが、債権者が簡易的な手続きで債権を回収するための手続きですので、債務者から異議が出なければ強制執行の申立てが許されるのです。
財産が差し押さえられる
支払督促に仮執行宣言が付与されると、債権者が裁判所へ強制執行を申し立てることにより、債務者の財産が差し押さえられます。
借金を滞納している場合、差し押さえの対象となるのは主に給料や預金口座です。これらの財産を差し押さえられてしまうと、多くの方は生活に支障をきたしてしまうことでしょう。
事前の差し押さえ通知は来ない
差し押さえが行われる場合、債務者に対して事前の通知などは行われないことにもご注意ください。
給料が差し押さえられた場合には、ある日突然、会社に裁判所から差し押さえ通知書が届きます。預金口座が差し押さえられた場合には、ある日突然、対象となった口座が凍結されます。
支払督促を無視していると、突然に財産を差し押さえられることになるのです。
簡易裁判所の支払督促を受け取った後にやるべきこと
それでは、簡易裁判所の支払督促を受け取った後は、何をすればよいのでしょうか。
以下のように順を追って対応すれば、差し押さえを回避しつつ借金問題を解決できる可能性があります。
可能であれば一括で支払う
当然ですが、支払いを命じられた金額を一括で支払うことができれば、その借入先に対する借金は即座に解決できます。
他に借金がない場合で、不要な財産を処分したり、親族等から援助を受けることでお金を準備できる場合は、一括返済を検討してみるとよいでしょう。
2週間以内に異議申立てをする
一括返済が難しい場合は、支払督促を受け取った日から2週間以内に異議申立てを行ってください。
異議申立てが受理されると民事訴訟の手続きに移行しますので、以下の対応が可能となります。
時効が成立している場合は「時効の援用」をする
異議申立てをした後は、次の行動を起こす前に、請求されている債権が消滅時効にかかっていないかを確認することが重要です。貸金業者や債権回収会社は、消滅時効にかかった債権でも請求してくることがあるからです。
特に、支払督促では債務者の言い分を聞かずに支払いが命じられるため、時効にかかった債権を回収する手段として用いられるケースも少なくありません。
貸金業者からの借金は最後の取引から5年で時効にかかります。時効が成立している場合には、後でご説明する「督促異議申立書」に「時効が成立していること」と「その時効を援用すること」を記載して、裁判所へ提出します。
ただし、5年以上が経過していても、その間に債権者から督促や取り立てを受け、支払いの約束をした場合などでは時効が更新されている可能性もあります。
時効の更新とは、債務の承認や一部の支払いなど一定の事由がある場合に時効期間がリセットされ、そのときから新たに時効期間が進行し始めることをいいます。
時効が成立しているかどうかの判断は難しい場合もあるので、弁護士または司法書士に相談して確認した方がよいでしょう。
一括で支払えない場合は分割の和解協議をする
時効が成立していない場合で、一括返済も難しい場合でも、分割払いの和解協議をすることが可能です。
ほとんどの債権者は、支払い条件にもよりますが、民事訴訟において分割払いの和解協議に応じてくれます。
分割払いを希望する場合は、督促異議申立書にその旨と希望する和解案を記載し、裁判所へ提出します。その後の協議の結果、債権者と合意ができれば裁判上の和解が成立します。
支払督促に対して異議申立てをする方法
支払督促に対する異議申立ての手続きは難しくありません。以下の手続きに従って、簡単に行うことができます。
同封されている書式を確認する
異議申立書の書式に決まりはありません。
弁護士や司法書士は一から作成しますが、ご自身で異議申立てを行う場合は、簡易裁判所から送られてきた支払督促に同封されている「督促異議申立書」という書式を使用すれば足ります。
必要事項を記入する
裁判所から送られてきた書式は、必要事項を記入するだけで完成するようになっています。
- 作成日
- 債権者名
- 債務者名と押印(認印で可)
- 債務者の住所、電話番号
- 送達場所(今後、裁判所からの書類の送付を希望する住所)
- 債務者の言い分
注意が必要なのは、「債務者の言い分」の欄です。
この欄の中に分割払いの話し合いを希望するかどうかを選択する部分がありますが、そこにチェックを入れると、請求されている債権が時効にかかっていたとしても「債務の承認」をしたことになります。そのため時効が更新され、時効の援用ができなくなるのです。
言い分の欄は空欄のままでも構いませんので、取り急ぎ空欄で提出した方が無難です。その後の対応に不安があるときは、早めに弁護士または司法書士に相談しましょう。
簡易裁判所へ提出する
裁判所へ提出するのは「督促異議申立書」1枚のみで構いません。証拠などは不要です。
郵送でも提出可能ですが、支払督促を受け取った日から2週間以内に「必着」であることにご注意ください。
異議申立ての期限が迫っている場合には、裁判所の窓口まで出向いて提出した方が安心できるでしょう。
支払督促された借金を払えないときは債務整理を検討しよう
先ほどもご説明したとおり、支払督促が届いたときには異議申立てをして民事訴訟の手続きに移行させ、債権者と分割払いの協議をし、裁判上の和解を成立させるというのが一般的な解決方法となります。
しかし、債権者と協議しても折り合えないことや、分割払いが認められたとしても支払えないこともあるでしょう。そんなときは、債務整理が有効です。債務整理には、主に以下の3種類の手続きがあります。
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
他にも借金があり、全体的に毎月の返済額を減額できれば返済可能という場合は、任意整理を開始した上で、支払督促された借金については裁判上の和解を目指すとよいでしょう。
借金総額が大きく、任意整理での解決が難しい場合には、個人再生を申し立てれば借金総額を大幅に減額させることが可能です。個人再生は、安定収入がある方にとっては非常に大きなメリットのある手続きです。
安定収入がない方でも、自己破産をすれば全ての借金の支払い義務が免除される可能性があります。
状況に合った債務整理を選択すれば、差し押さえを回避しつつ借金問題を解決することが可能となります。
支払督促が届いたときに弁護士・司法書士に相談・依頼するメリット
実際に簡易裁判所から支払督促が届いたときには、早急に弁護士または司法書士に相談することを強くおすすめします。相談するだけでも以下のメリットが得られます。
- 架空請求かどうかを判断してもらえる
- 元々の借入先が判明する
- 異議申立ての方法についてアドバイスが受けられる
- その後の解決方法も提案してもらえる
相談してみて納得できたら、引き続き弁護士・司法書士に対応を依頼することで以下のメリットが得られます。
- 異議申立ての手続きを代行してもらえる
- その後の裁判所における手続きも任せられる
- 債権者との分割払いの協議も代行してもらえる
- 債務整理の複雑な手続きも全て任せることができる
支払督促を受け取ってから2週間が経過すると仮執行宣言の手続きに進んでしまいますので、早めに相談することが大切です。
まとめ
多くの方は裁判所から書類が届くと慌ててしまうことと思いますが、支払督促が届いても適切に対処すれば借金問題の解決つなげることができます。
ただし、異議申立ての期限が2週間に限られていますので、迅速な対応が重要です。
一人で悩んでいると、すぐに期限が経過してしまうことにもなりかねません。一人で抱え込まず、すぐに弁護士・司法書士に相談された方がよいでしょう。
法律の専門家のサポートを受けて、借金問題を解決してしまうことをおすすめします。