- 期限の利益喪失通知とは、滞納した借金の一括返済を請求する通知書のことである
- 住宅ローンで期限の利益を喪失すると住宅が競売にかけられてしまう
- 残った借金を支払えない場合は裁判を起こされ、財産を差し押さえられる
- 期限の利益喪失通知が届いても払えないときは債務整理が有効である
借金の滞納を続けていると、債権者から「期限の利益喪失通知」が送られてくることがあります。
期限の利益喪失通知とは、簡単にいえば債権者が「これ以上は待てない」ということを通知するための書面です。それまで分割払いで返済していた借金の残額について、一括返済を請求されます。払えない場合は、財産を差し押さえられることにもなりかねません。
しかし、早急に適切な対処法をとれば差し押さえを回避し、借金問題を回避することも可能です。
この記事では、期限の利益喪失通知の詳しい意味と、一括返済を請求されても払えないときにとるべき対処法をわかりやすく解説します。
期限の利益喪失通知とは?
期限の利益喪失通知とは、借金などの債務を分割払いで返済していた債務者が滞納を続けた場合に、債権者から送られてくる通知書の一つです。
送られてくる時期によって、「これ以上、滞納を続けると分割払いが認められない」という意味の通知書と、「もはや分割払いが認められなくなったので一括で支払ってください」という意味の通知書の2種類があります。
期限の利益を喪失する前に届く通知について
借金の滞納がある程度の期間続くと、債務者は期限の利益を喪失します。その前に、警告の意味で期限の利益喪失通知が送られてくることもあります。
この場合の通知書には、○月○日までに滞納している元金と利息、遅延損害金の支払いがなければ期限の利益を喪失し、一括返済を請求することになる旨が記載されています。
まだ期限の利益を喪失してはいないので、この通知書は「期限の利益喪失予告通知」とも呼ばれます。
期限の利益を喪失した後に届く通知について
債務者が既に期限の利益を喪失した後に届く通知書には、期限の利益を喪失した旨と、○月○日までに滞納分だけでなく残債務の全額と利息、遅延損害金を一括で支払わなければ法的措置をとる予定であることが記載されています。
指定された支払期限までに一括返済ができなければ、実際に法的措置がとられます。この場合の期限の利益喪失通知は、債権者が裁判を起こす前の最終の警告書としての意味も有しているといえます。
そもそも「期限の利益」とは?
期限の利益とは、金銭債務については支払期限が到来するまでは返済しなくてよいという、債務者にとっての利益のことです。
借金の返済方法について当事者間で毎月の分割払いとする旨を定めた場合、債務者は毎月の支払日にその月の返済額のみを支払えば、残額はまだ支払わなくてよいということになります。
この「まだ支払わなくてよい」という利益のことを「期限の利益」といいます。
期限の利益を喪失するケース
法律上、期限の利益は原則として債務者のために認められるものです。しかし、債務者を保護すべきでないような事情が生じた場合には、期限の利益を失ってしまうことがあります。
法律上の喪失事由
民法第137条で、以下の3つの事由のいずれかに該当する場合には、期限の利益が失われるものとされています。
- ①債務者が破産手続開始の決定を受けた
- ②債務者が担保を滅失させたか、損傷させたか、減少させた
- ③債務者が担保を供する義務を負っているにもかかわらず担保を供しない
①の場合、債権者は破産手続きに従って債権を行使する必要があります。②および③の場合は、債権者による権利行使をただちに認めなければ不公平な結果となる可能性が高いといえます。
そのため、債務者は期限の利益を主張できなくなるのです。
契約上の喪失事由
債務を返済すべき「期限」は、契約で定めることができます。
ただ、契約で分割払いの定めをする場合、債務者が何度滞納しても債権者は月々の返済額しか請求できないとすれば、債権の回収が進まず不公平な結果となるおそれがあります。
そこで、通常、契約で「期限の利益喪失条項」というものが定められています。期限の利益喪失条項では、ほとんどの場合、「弁済金の支払いを1度でも遅滞したとき」に期限の利益を失うものと規定されています。
しかし、実際には1度の滞納で一括返済を請求されることはまずありません。いつまで滞納が続くと期限の利益喪失を主張して一括返済を請求するかについては、債権者の裁量に委ねられています。
消費者金融や銀行のカードローン、クレジットカードの利用代金については2~3ヶ月、住宅ローンの場合は3~6ヶ月ほど滞納が続くと期限の利益喪失通知が送られてくることが一般的となっています。
期限の利益喪失通知が届いたらどうなる?
期限の利益喪失通知が届いた後は、債権者が以下の流れで債権回収の手続きを進めていくことになります。
一括返済を請求される
期限の利益喪失「予告」通知が届いた段階ならまだ分割払いが認められますが、既に期限の利益を喪失した場合には、もはや分割払いは認められません。
そのため、残債務の全額および利息、遅延損害金の一括返済を請求されてしまいます。
保証会社や債権回収会社から請求を受ける
住宅ローンや銀行のカードローンの場合、債務者が期限の利益を喪失すると保証会社が代位弁済をします。代位弁済をした保証会社は債務者に対する求償権を取得するので、この場合には保証会社から期限の利益喪失通知が届きます。
消費者金融やクレジットカード会社の場合は、借入先の業者が直接、期限の利益喪失通知を送付してくることもあります。ただ、最近では法務大臣の許可を得た「債権回収会社」に債権譲渡や取り立ての委託をするケースが多くなっています。
この場合には、債権回収会社から期限の利益喪失通知が届きます。
どちらの場合も、既に期限の利益が喪失した債権を保証会社または債権回収会社が取得していますので、一括返済の請求を受けるという点は変わりません。
ブラックリストに登録される
通常、期限の利益喪失通知が届くまでには2~3ヶ月の間、滞納を続けているはずです。借金の滞納が2~3ヶ月続くと、信用情報機関に事故情報が登録されてしまいます。
俗にいう「ブラックリスト」に登録された状態となり、その後は新たな借入やクレジットカードの利用などができなくなります。
担保に入れた物件を失う
担保を設定している場合、一括返済の請求を受けても支払えなければ債権者が担保権を実行します。そのため、担保に入れた物件を失ってしまうことに注意が必要です。
住宅ローンの場合は抵当権が実行され、住宅が競売にかけられてしまいます。自動車ローンの場合は、その自動車が債権者によって引き揚げられ、売却されてしまいます。
また、保証人が付いている場合には保証人が請求を受けることにも注意しなければなりません。その場合、既に期限の利益を失っていますので、保証人も一括返済の請求を受けてしまいます。
払えなければ裁判を起こされる
一括返済を受けても支払えない場合には、債権者から裁判を起こされます。担保権を実行されても債務が残り、その債務を一括で支払えない場合も同様です。
債権者が起こす裁判には「支払督促」と「民事訴訟」の2種類があります。
支払督促は、債権者が提出した書類のみで裁判所が債務者に対して支払いを命じる手続きです。支払督促が届いた場合には、2週間以内に異議申立てをしなければ仮執行宣言が付与され、差し押さえの手続きに進んでしまいます。
2週間以内に異議申立てをすれば、民事訴訟の手続きに移行します。民事訴訟を起こされた場合は、まず答弁書を提出するか、裁判期日に出頭すれば分割払いの和解を成立させることも可能です。
しかし、答弁書を提出せず、裁判期日にも出頭しなければ、債権者の主張をそのまま認める判決が言い渡されます。判決書を受け取った後、2週間以内に控訴をしなければ判決が確定してしまいます。
最終的に財産を差し押さえられる
仮執行宣言が付与された支払督促や確定した判決書のように、金銭の支払い義務を公的に証明する書類のことを「債務名義」といいます。
債務名義を取得した債権者は、裁判所に強制執行を申し立てることにより、債務者の財産を差し押さえることが可能となります。一般的な借金の場合、主に差し押さえられるのは給料や預金口座です。
給料が差し押さえられた場合は、給料の一部(原則として手取額の4分の1)が会社から直接債権者へ支払われます。預金口座が差し押さえられた場合は、預金の中から債権額を上限として、金融機関から直接債権者へ支払われます。
差し押さえ前に債務者に通知が来ることはありませんので、支払督促や民事訴訟を放置していると、突然、給料や預金口座を差し押さえられてしまうことに注意しましょう。
期限の利益喪失通知が届いても払えないときの対処法
期限の利益喪失通知が届いた時点で、適切に対処すれば差し押さえを回避することは可能です。
請求を受けた債務を一括で返済することができればそれに越したことはありませんが、一括返済が難しい場合でも以下の対処法が考えられます。
債権者に相談する
まずは、期限の利益喪失通知を送ってきた債権者に連絡し、相談することです。交渉次第では、支払いを待ってもらえたり、分割払いの和解に応じてもらえる可能性は十分にあります。
ただし、既に滞納を長期間続けているため債権者からの信用は得られにくいのが実情であり、和解条件は厳しくなりがちです。
債務整理を検討する
債権者との交渉がまとまらない場合や、そもそも支払いが厳しい場合には、債務整理が有効です。
分割払いに応じてもらえれば返済できるという場合には、任意整理で解決することが考えられます。基本的に将来利息をカットしてもらい、元金と遅延損害金を3年~5年で分割返済していく手続きです。
ただし、任意整理の交渉にどこまで応じてもらえるかは債権者の意向次第なので、必ずしも有利な条件で和解できるとは限りません。それに対し、個人再生と自己破産では、裁判所の決定により強制的に借金を減免することができます。
一定の要件を満たせば、個人再生では借金総額を5分の1~10分の1にまで減額させることが可能で、自己破産では全ての借金の返済義務を免除してもらうことが可能です。
借金総額や収入、財産状況など、ご自身の状況に合った債務整理手続きを選択すれば、期限の利益喪失通知を受け取った後でも借金問題は解決できます。
期限の利益喪失通知が届いたときに弁護士・司法書士ができること
期限の利益喪失通知が届き、一括で返済ができない場合は、その時点で弁護士または司法書士に相談することを強くおすすめします。
放置していると債権者から法的措置をとられてしまいますが、法律の専門家に相談・依頼することで以下のメリットが得られます。
- 最適な解決方法を提案してもらえる
- 依頼すれば受任通知の送付により取り立てや督促が止まる
- 分割払いの交渉を代行してもらうことで有利な和解が期待できる
- 個人再生や自己破産の複雑な手続きも全て任せられる
- 裁判を起こされた場合も専門家に対応してもらうことで差し押さえを回避できる
まとめ
借金の滞納を続けて期限の利益喪失通知が届いたという状況では、もはや返済は難しいという場合が多いことでしょう。
そんなときは、債務整理を検討してみた方がよいでしょう。状況に合った債務整理を選択し、弁護士・司法書士のサポートを受けて的確に手続きを行えば、借金問題を解決できます。
早期に対処した方が解決方法の選択肢も多くなりますので、一人で抱え込まず早めに弁護士・司法書士に相談してみてはいかがでしょうか。
期限の利益喪失通知が届いたら、弁護士・司法書士の力を借りて借金問題を解決し、平穏な生活を取り戻しましょう。