病院・クリニックを拡張したい、新たに医療設備を導入したい、医療サービスを向上させるため看護師などスタッフを増員したいなど、地域の医療を支えている病院やクリニックは常に資金調達の問題がつきまといがちです。
ではどうしたら医療機関の資金調達を安定させることができるでしょうか。
その解決策の方法のひとつが診療報酬ファクタリングです。
診療報酬ファクタリングを詳しく知ってうまく使いこなすことで、資金繰りを安定させられるとともに、医療機関の抱える様々な問題を解決できます。
本記事では、診療報酬ファクタリングの概要を説明するとともに、利用に係るメリットやデメリット、どんな医療機関にとって便利かなど、詳しく解説します。
診療報酬ファクタリングとは
本章では、まず診療報酬の問題点と診療報酬ファクタリングについて解説します。
診療報酬と受取までの問題点
診療報酬とは、病院やクリニック等の診療機関が患者に対して行った医療行為について、社会保険診療報酬支払基金(以下社保)及び国民健康保険団体連合会(以下国保)等に請求する報酬のことです。
患者が医療機関を受診すると診察や治療に掛かった費用のうち、本人が自己負担分として1~3割を窓口で支払いますが、残りの7~9割は医療機関が社保・国保等の支払機関に請求します。
毎月、医療機関は月末までに請求金額を計算して、翌月10日までに診療報酬明細書(レセプト)を出すことで、支払機関は審査を行い、報酬額が確定すると残りの報酬を受け取れるという流れになります。
ただし診療報酬の問題点は、いくら医療機関が多くの患者を診察や治療したとしても、その報酬をすぐに全額受け取りできるわけでなく、上記の流れに沿って請求を行い一定期間(2~3カ月)待ってからやっと診療報酬が回収できるという点です。
その間、医療機関としては、法人やクリニックを運営するための資金を自己資金や借入金等で賄う必要があります。
診療報酬ファクタリングとは
診療報酬ファクタリングとは、病院やクリニック等の医療機関が診療報酬を受け取る権利を買取業者に譲渡することで資金を調達する方法をいいます。
一般的に企業が保有している売掛債権を取扱業者に譲渡して資金を調達する方法をファクタリングと呼びますが、その種類の中で、診療報酬を受け取りしている医療法人やクリニック向けの買取サービスが診療報酬ファクタリングになります。
診療報酬ファクタリングの仕組みと流れ
診療報酬ファクタリングの仕組みと流れは以下の通りです。
仕組み
基本的なファクタリングは、利用会社が保有する売掛債券をファクタリング会社へ譲渡することで、売掛金の入金日より前に資金化できるという仕組みになります。
利用に当り手数料が売掛金額より差し引かれますが、数週間から数カ月後に支払われる予定の売掛金を早い段階で資金化できるのがファクタリングのメリットです。
そしてこのファクタリングの仕組みを使い医療機関向けに作られたのが診療報酬ファクタリングになります。
診療報酬ファクタリングは3社間ファクタリングを基本に行われます。
以下が3社〔社保・国保(債務者)、利用者(譲渡人)、ファクタリング会社〕を取引の当事者とした診療報酬ファクタリングの基本的な仕組みです。
申込みから契約・支払までの流れ
上記図の診療報酬ファクタリングスキームに基づく申込みから契約・支払までの流れは以下の通りです。
- 診療報酬債権について、利用者(譲渡人)とファクタリング会社で債権譲渡契約を締結
- 第三者対抗要件を具備するため、利用者とファクタリング会社が連名にて社保・国保に対して債権譲渡通知書を送付
- 債権譲渡を受けた診療報酬債権のうち、社保・国保への請求額の8割程度(手数料控除後)をファクタリング会社が前払額として利用者に支払
- 診療報酬確定後、社保・国保はファクタリング会社に診療報酬を支払
- ファクタリング会社が診療報酬債権のうち、前払額(既払分)を除いた残額を後払額として利用者に支払
診療報酬ファクタリングの手数料
ファクタリング利用者の大きな関心事のひとつといえば買取手数料ではないでしょうか。
手数料の高さによって手取額も違ってくるので当然ですよね。
診療報酬ファクタリングの手数料は、3社間取引であること、売掛先が社保・国保という信用力が極めて高い先であるという事実から、一般的ファクタリングより低めに設定されています。
一般的なファクタリングで3社間取引であった場合、手数料相場は1~9%です。
2社間取引では手数料相場は10~20%なので、売掛債権が診療報酬債権でなくても3社間取引なら手数料は安いといえます。
それが診療報酬ファクタリングなら、3社間取引のなかでも、売掛先が極めて信用力の高い先であることから、さらに手数料は低く設定されやすいといえるでしょう。
弊社がリサーチした各ファクタリング会社の診療報酬ファクタリングに係る手数料は以下の通りです。
社名 | 手数料(%) | その他 |
---|---|---|
株式会社ビートレーディング | 最低手数料2%~ | 手数料以外の費用発生はなし |
株式会社エス・エム・エス | 0.8%(当初の請求額の80%に適用、残金には不要) | 別途、初回手数料5,000円、月額利用料2,000円必要 |
エヌエスパートナーズ株式会社 | 0.2%~0.8%(1回、1カ月当り) | 契約時の内容証明、郵便書留代、振込手数料等の実費別途顧客負担 |
アクリーティブ株式会社 | 月々0.25%~(年率換算3.0%~) | 契約時に別途、事務手数料がかかる場合あり |
三菱UFJファクター株式会社 | 一律0.8% | 初期手数料、月額利用料なし |
(2024年9月末現在)
※手数料参照先一覧
株式会社ビートレーディング
株式会社エス・エム・エス
エヌエスパートナーズ株式会社(カイポケ)
アクリーティブ株式会社
三菱UFJファクター株式会社
診療報酬ファクタリングのメリット
診療報酬ファクタリングの主な利用メリットは以下の7つです。
診療報酬の受取を短縮できる
診療報酬ファクタリングを利用すると診療報酬の受取までの期間を短くできます。
通常、診療報酬の支払機関から報酬が入金されるまでの期間は、診療月末から2カ月後になります。(より詳しく書けば、診療月末の翌々月の20日以降月末までの間)
しかし診療報酬ファクタリングを利用すれば、この期間を1~1.5カ月程度は短縮できます。
もちろん医療機関のキャッシュフローの改善にも寄与します。
審査が簡単
診療報酬ファクタリングを使うと、審査が簡単で通りやすいです。
その理由は売掛債権の信用度です。
診療報酬債権は社保や国保に対する請求権のため、他の一般的な売掛債権に比べて倒産リスクや未回収リスクが極めて低い債権になります。
ファクタリング会社も安心して債権を買取できるので、その安全性の高さから特に厳しい審査をしなくてよく、結果として通りやすいのです。
手数料を安くできる
ファクタリング利用で業者に支払う手数料は売掛金の未回収リスクや売掛先の倒産リスクを反映したものです。
したがって売掛先の信用度が低ければ低いほど手数料率も高くなります。
しかし診療報酬ファクタリングに係る売掛先の支払機関は公的機関であるので、貸倒リスクは極めて低いです。
さらに3社間ファクタリングを利用しているので、社保や国保に対しては債権譲渡の事実を事前に通知しており、回収リスクも低いことからさらに手数料は低く設定できます。
担保・保証人が不要
診療報酬ファクタリングにおいては、社保・国保(支払基金)からの入金が担保の役割を果たすので、融資とは異なり担保や保証人を要求されることはまずありません。
条件に煩わしい担保や保証人の提供がないだけ、診療報酬ファクタリングの利用はメリットが大きいといえます。
財務状況が赤字でも利用できる
診療報酬ファクタリングは、利用する医療機関の財務状況が赤字でも利用できます。
銀行融資だとこれはデメリットになり、なかなか審査に通らないので、大きなメリットといえます。
ファクタリング会社の審査において重視するのは売掛先の信用力ですが、診療報酬ファクタリングは売掛先が社保・国保等の公共機関です。
そのため極めて信用度の高い債権を譲渡することになるので、譲渡先である医療機関の信用度は審査ではまず考慮されません。
そこで医療機関の財務状況が悪くても診療報酬ファクタリングなら利用できるのです。
負債計上されないので融資枠が保存できる
診療報酬ファクタリングは利用しても貸借対照表上、負債計上されません。
その結果、銀行等の金融機関の融資枠も保存できます。
ファクタリングは売掛債権を譲渡して資金調達する方法なので、融資のように外部からお金を借りるのでなく、単に保有資産を現金という別の資産に置き換える手続きです。
そのため貸借対照表上、負債として計上されず、決算書に悪い影響を与えません。
むしろファクタリングの利用でキャッシュフローが改善するほか、貸借対照表のオフバランス化でROAなど財務指標が向上して銀行から融資が借りやすくなります。
安心して3社間ファクタリングを利用できる
診療報酬ファクタリングは3社間取引を活用したファクタリングです。
一般的に通常の3社間ファクタリングでは、売掛先にファクタリング利用を知られることで信用不安を疑われ、利用者としては取引停止の可能性を感じて譲渡をためらうものです。
しかし診療報酬ファクタリングの売掛先は社保・国保等の公的機関であるため、同じ3社間ファクタリングであっても信用を疑われることもなく安心して利用できます。
診療報酬ファクタリングのデメリット
診療報酬ファクタリングの利用では、多くのメリットがある一方で若干のデメリットもあります。
以下の4つがその主なデメリットです。
手数料分だけ受け取る報酬が少ない
診療報酬ファクタリングのデメリットとして、譲渡の際、買取業者に支払う手数料分だけ、自社が受け取る報酬が少なくなります。
これはファクタリングの種類に関係なく、手数料は差し引きされるので同じデメリットです。
しかし救いは,診療報酬ファクタリングの手数料は3社間取引の中でも最も低い料率の手数料が課されるので、他のファクタリングの利用に比べたら手取りは高い方に属します。
ただし診療報酬ファクタリングといっても継続利用すれば、それだけ手数料の支払も連続するので、手数料分、受け取る診療報酬が少なくなることに変わりはありません。
一度利用すると反復利用になりがち
診療報酬ファクタリングは一度利用すると継続して反復利用しがちになり、途中で止めることが難しくなります。
これもデメリットのひとつにあげられるでしょう。
ファクタリングを継続利用していると、ファクタリングによる資金調達と資金繰りが当たり前のものになって急に止めることが難しくなります。
特にファクタリングを止める月には、前月までの診療報酬は資金繰りのため、すでにファクタリング会社へ譲渡済みとなっている可能性が高く、受け取れる診療報酬がゼロになるリスクがあります。
そうなると補填のため別の資金調達手段を探す必要があることから、診療報酬ファクタリングを途中で止める判断が難しくなるのです。
長期利用で資金繰りが悪化する可能性がある
診療報酬ファクタリングを長期に利用していると、やがて資金繰りが悪化してくる可能性があります。
本来なら自社に100%入ってくる診療報酬がファクタリング会社へ毎月手数料分だけ移転してしまうので、その状態が続くことで長期的にはキャッシュ不足をまねくリスクがあります。
医療機関の経営が順調で、売上が増えて利益が出ている間は特に問題は少ないでしょう。
しかしいったん経営状況が厳しくなり、一方で医療スタッフに支払う人件費などは固定費なので毎月支払は避けられず、ファクタリングを長期利用していると、資金繰り問題が一気に顕在化してきます。
ファクタリングにはそのようなリスクもあるので、活用する場合には長期的でなく、事前にいつまで利用するのか、きちんと計画を立てた上で利用するようにしましょう。
2社間ファクタリングより時間と手間がかかる
2社間ファクタリングのメリットは、取引の当事者が少なく申込したら最短即日で資金調達できる点です。
一方、診療報酬ファクタリングを含む3社間取引は、当事者に売掛先が入ってくるため、資金調達まで時間と手間がかかってきます。
2社間ファクタリングのように必要に合わせて最短で即日現金化などという方法が取れません。
診療報酬ファクタリングを利用すれば、通常で入金まで3~7日程度はかかると捉えておきましょう。
診療報酬ファクタリング利用をおすすめのケース
診療報酬ファクタリングのメリットは、前述したように、診療機関が患者に対して医療行為を提供してから診療報酬を受け取るまで実際2~3カ月かかるところを、ファクタリングを利用することでその期間を大幅に短縮できることです。
そのような流れから、診療報酬ファクタリングを医療機関が活用する方がよい例が3つ考えられます。
以下でそれぞれの事例を解説します。
開業して間もない医療機関で資金が足りないとき
新しく開業したクリニックなど、患者からの認知も低い医療機関はキャッシュ不足に陥りやすい状況の組織といえるでしょう。
まだ事業実績に乏しいので、審査で実績を重視する銀行等からの融資も受けにくく、借りられても審査に時間がかかります。
その点、診療報酬さえあればすぐに資金調達に利用できる診療報酬ファクタリングは、新規開業して間もない医療機関には大変便利なシステムといえます。
急に資金が必要になったとき
同じく、急に資金が必要になった医療機関にとっても、診療報酬ファクタリングは資金調達手段として便利な方法です。
医療機関にいくら診療報酬の権利があっても、支払機関に請求してから最低限2カ月程度は待たないと入金されません。
その点、診療報酬ファクタリングを利用すれば、契約から3~7日程度待てば買取業者が入金してくれるので、急いで資金が必要な場合でも対応可能です。
銀行からの融資が困難なとき
一般的な地域の医療機関なら社会的信用度も高いので銀行からの融資が難しいことはまれでしょう。
しかし売上高に対する融資額が過大になっている、売上げが不振などの理由から財務内容が芳しくない医療機関もあるので、銀行融資で資金調達ができにくいケースもあります。
そのような場合でも、医療機関に診療報酬さえあれば、診療報酬は国と同レベルの信用力を持つ社保や国保など公的機関が支払先の売掛債権であるため、ファクタリング会社は優良債権として買取してくれます。
診療報酬ファクタリングは、銀行の融資審査に通らなくても、簡便な審査と相対的に低い手数料で、医療機関の財務状況を悪化させることなく活用できます。
まとめ
診療報酬ファクタリングについて、その概要やメリット、デメリット、利用が便利なケースなど、詳しく解説しました。
診療報酬ファクタリングは、一般的なファクタリングよりよい条件で契約できるので、医療機関にとって手数料を低く抑えて資金調達ができます。
一方、3社間ファクタリングで契約するので、資金調達は確実でも入金まで最低でも数日間待たねばならないのがネックです。
しかし本来なら2カ月程度待たねば入金されなかった診療報酬を、安価な手数料を支払うだけで、わずか数日以内に資金化できる診療報酬ファクタリングは、医療機関にとってもじつにありがたい方法といえます。
診療報酬ファクタリングの仕組みやメリット、デメリットをよく押えた上で、事前にしっかり計画を立てて効率よく活用するようにしましょう。